896 買い物へ
皇帝が泊まるための部屋へと転移した。
「今更ながらこの転移バッチって優秀だよな」
転移バッチに安全機能があるのか、一斉に同じ場所に転移したのに、適度な距離が保たれているのだ。
「なんでも古の魔法王が創ったそうです」
魔法王? なんだい、そりゃ?
「あたしも詳しくはわかりませんが、遥か昔、魔大陸を征服した魔王とかで、今では考えられない魔道具があったそうです」
へ~。なかなか興味深い話だな。詳しく聞きたいものだぜ。
「しかし、よくカイナが持ってたな。魔法王とやらの子孫か?」
「いえ、ある魔王が持っていたのを奪ったそうです」
あのアホ野郎、結構えげつないことしてたんだな……。
「しかし、そんな貴重なものをよくくれたな」
転移バッチを持っているのは、オレ、ミタさん、プリッつあん、そして、なぜかサプルと、本当に貴重なのかと首を傾げたくなるぜ。
「本来は一つしかありませんでしたが、分裂体の創造主が複製しました」
と、ドレミさん。ってか、オレの知らないところでどんな繋がりを見せてんのよ?
「ほんと、自由な汚物だぜ」
そんなことに魔力を使う前に自分の住み処に魔力を使えよ。いやまあ、遠慮なく使ってるオレのセリフじゃねーけどさ。
気を取り直してドアに向かうと、なぜか鍵がかかっていた。それも外から。なぜじゃ?
「べー様。ここは、皇帝が泊まるための部屋なので普段は外から鍵がかけられているそうです」
よくよく見れば内側にも鍵がついていた。警備するのも維持するのも大変だな。
「どうやって外に出るんだ?」
強行突破か? いや、結界を使えば鍵くらい開けられるけどさ。
「少々お待ちください」
ミタさんがそう言うと、ドアの横につけてあった鈴を鳴らした。呼び鈴か?
ガチャリと鍵が外れる音がし、ドアが開いて執事っぽい初老の男が姿を現した。
「ようこそお出でくださいました」
優雅に一礼する執事っぽい初老の男。どちらさんで?
「この部屋を管理維持なさっているアレバさんです」
「お初にお目にかかります。アレバとお呼びくださいませ。領都にいる間はわたしがお世話させていただきます」
「そりゃどうも。この城にいる間は頼むよ」
外に出たら好き勝手させてもらうがな。
「これから街に買い物に出るんだがよ、デカい商会の場所をいくつか教えてくれるかい? ちょっと資金調達したいんでよ」
さすがに宛もなく探すのはメンドクセーからな。
「資金調達、でございますか?」
「あ、あたしから説明致します」
と言うのでミタさんにお任せ。なんか察しが悪そうなお世話さんっぽいように見えるからよ。
「わかりました。では、馬車を用意致します」
「いや、場所を教えてくれたら自分の足で向かうよ」
別に五キロも十キロも離れている訳じゃねーんだ、領都を眺めながら歩くさ。
「べー様。さすがに突然行って、すぐにお金を調達するのは無理かと思います。あちらはべー様のことを知らないのですから、公爵家の馬車を利用されたほうが話は早いかと……」
なるほど。言われてみれば確かにそうだな。会長さんのように見抜けと思うほうが酷か。
ならばと、お世話さんに馬車を用意してもらう。
それまで客室でお待ちくださいと移動させられ、お茶を出された。
「……紅茶……?」
オレのために出されたものは食う主義なので、出されたお茶に手を伸ばしたら紅茶の香りがした。
「お世話になるのでカティーヌ様に献上しました」
オレの知らないところで、どんな暗躍してるんだ、この万能メイドは?
「あ、確かにカティーヌ様の好みそうな味だわ」
公爵どのの奥さま方は仲がよいとは聞いてたが、味の好みを知るくらい付き合いがあるんだ。
「でも、淹れ方はいまいちね」
出されたものは美味しいと思って黙ってなさい、姑メルヘンが。
「カフェオレもいいけど、わたしも紅茶が好きだな。特に香りがいいもの」
レディ・カレットは紅茶派か~。
なんてどうでもよいことを考えながら紅茶をいただいていると、この城の実質的主、第三夫人がやって来た。こんちです。
「お久しぶりです、べー様」
「おう、久しぶり。元気……ではなさそうだな……」
目の下に軽く隈ができている。不眠症かい?
「太陽の石が思った以上に人気が出て、それの対応に苦慮しております」
へ~。太陽の石、人気なんだ~。
「で、それがどうかしたのか?」
人気が出たんならイイじゃねーか。なんで苦慮してんだよ? 売れ過ぎて困っちゃう~的なことか?
「目敏い商人が領都に現れ買い占めているのです」
この奥さんのことだから調整はして市場には流しているんだろうが、それを上回って商人が買い占めてるってことか。帝国の商人はおっかねーな。
「それをオレになんとかしろと?」
「いえ、それはこちらで行います。べー様にお願いしたいのは太陽の石をもう少し分けていただけないでしょうか? もちろん、代価は配慮させていただきます」
配慮、ね。どれほどのものかは知らんが、オレに損はなし。構わんよと、隠し財産的な太陽の石を出してやった。
「……感謝します……」
できる奥さんは、感謝だけを述べ、配下に太陽の石を運び出すように命じた。
そうこうしていると、馬車の準備が整ったようで、客室を出て外に向かった。
いざ、買い物へ!




