89 女のコ? いえ、違います
魔族二十四種の一つ、サキュバス。
婬魔とも夢魔とも呼ばれている、背中にコウモリの羽を生やすサキュバスは、魔族の中でも数が少なく、ほぼ伝説になっていると言う(サリバリーのおっちゃん談)。
魔族は魔物とは違うカテゴリーらしく、もらった魔物図鑑には載ってないから、本当に目の前のがサキュバスかは断言できねー。だが、黒髪に金色の瞳、コウモリの羽、そして、魔眼。聞いた限りの特徴はサキュバスと言っていた。
「……こんなとこに、サキュバスとは珍しいな……」
ちょっとカマを掛けてみる。
「なんで効かないのよっ! ズルい!」
が、どうやら前二匹よりおバカのようでした。まともなのいねーのかよ!
「おい、そこのおバカ。話があんなら下りてこいや」
「ボク、おバカじゃないモン! チャーニーだモン!」
プンプン怒るおバカなサキュバス。ほんと、どんな進化論なんだよ……。
折れそうな心を奮い立たせ、おバカを睨んだ。
「モンキーだかチャイコフスキーだか知らねーが───」
「──チャーニーだモン!」
ゴメン。オレ、もう死んでもイイかな?
なんて思うくらい精神的ダメージを負ったぜ……。
なんなの? なんだって言うの? こんなの前世を含めて見たことねーよ。ほんと、マジつらたんだぜ。
「……あ、あー、そのチャーニーさんは、なにしにここへ?」
来世の根性を前借りしておバカに尋ねた。
「そーだよ。君のせいで忘れてたよ!」
うん。こいつ泣かす。メッチャ泣かしてやるヨ☆
「バリアルを返してよ!」
バリアル? 誰だそれ?
なんてバカな問いはこのおバカでお腹一杯だよ。
「なんで返さなきゃいけねーんだよ。アレはオレが捕まえた獲物だぜ?」
「バリアルは獲物じゃないモン! ボクらの仲間だモン! 返してよ!」
仲間、ね。珍妙なイキモンにも仲間意識はあんだ。うん? 仲間?
なにか、とてつもない不吉な連想が次々と浮かび、とてつもない嫌な答えを映し出した。
……いや、そんな、まさか。んなワケねーよ……。
だが、どんなに否定しても最後に出たイヤなものがどうしても消えてくれねー。それどころかトラウマになりそうなくらい頭ん中で膨れ上がってきてるぜ……。
イケメンなゴブリンに美丈夫なオーガ。そんでおバカなサキュバス。
なかなか珍妙な組合せだが、共通するものがある。それは、三匹とも美形と言うことだ。
偶然だと言われたらその通りだし、こじつけもイイところだと、罵倒してくれても構わない。それで事実が変わるなら甘んじて受け入れるさ。
だが、こーゆーときのオレの勘はムダにイイ。嬉しくはねーがな……。
「……その服、カワイイな」
オカン、ごめん。オレ、今無茶なことしてます。
「え? そー思うぅ? エヘヘ。イイでしょう。マスターがボクのために作ってくれたんだぁ~!」
ごめん、オカン。無茶じゃなかったわ。おバカだったわ……。
来世の、そのまた来世の根性を更に前借りして崩れ落ちそうな心を奮い立たせた。
「そ、そーなんか。イイ趣味してんだな」
「そーなんだよ! マスタースッゴく趣味イイんだから!」
「ほ、他にも服はあんのか?」
「うん! いっぱいあるよ! ごしっくやミニとか、いーっぱい! ぜーんぶ、マスターが作ってくれたのー!」
「そりゃスゲーな」
「うん! マスタースゲーのー!」
「でも、なんで女もんなんだ?」
「ボクがカワイイからだって! エヘヘ。テレちゃうよねー!」
はい、決定です。
このおバカなサキュバス、男の娘でした。
っざけんなっ!




