860 静観のとき
「なぁーんて、言えるわけもねーか」
キョトンとなるご一同。なんて顔してんだよ。
「オレらが敵か味方かわからんこの状況で、軽々しく仲間のことを言える訳ねーだろうが」
これで決断できたら頭が相当行かれてるぜ。
「まずは体を癒しな。この湖にいる限り、オレがハミーさんの命を保障するよ」
席から立ち上がり、皆を連れて水辺から離れた。
そのまま別荘へと入り、リビングのソファへと倒れ込む。
「ベー様!?」
ミタさんが慌てて近寄り、オレを揺らすが、もう限界。徹夜は堪えるぜ。
「寝る」
そう言って深い眠りへと落ちた。
………………。
…………。
……。
ふと意識が覚醒し、瞼を開くと、真っ暗だった。
……えーと、オレはなにをしていたんだっけ……?
なんだか頭がぼんやりする。目覚めが重い。体が怠い。なんなんだよ、いったい?
ぼんやりと真っ暗な世界を見詰めていると、なにか薄青い光が灯された。
え、人魂!? なんの怪奇現象よ!?
「目が覚めましたか?」
ぼんやりとレイコさんが現れる。オレじゃなかったらおしっこじゃじゃ漏れだからね。
「オレ、なにしてたんだっけ?」
「人魚さんと話ししたのは覚えてますか?」
人魚? あ、ああ。したな。ダーティーさんと。
段々と思い出し、頭がすっきりして来た。体は怠いけど。
「ドレミ。いるか?」
「はい。ここに」
と、下からドレミの声が。って、クッションかと思ったらスライム化してたんかい!
「そこにいたんじゃコーヒーは頼めんか」
ならしょうがねー。ミタさんが来るまで待つか。
「大丈夫です。いろは、お願いします」
目の前に、西洋人形のようないろはが忽然と現れた。
うおっ! びっくりしたー! マジでおしっこじゃじゃ漏れするわ!
「気配だしやがれ。心臓にワリーわ!」
いつ死んでも悔いはねーが、おもらしして死にたくねーよ!
「申し訳ありません。戦闘種なものですから」
それを免罪符にしてんじゃねーぞ、こん畜生が。つーか、気配ねーって、暗殺種じゃね?
「ま、まあ、なんでもイイわ。コーヒー頼めるか?」
戦闘種だから無理ですとか言ったら、即行で送り返すからな!
「はい。ミタレッティー様がマスターがいつ目覚めてもいいようにコーヒーと料理を用意してくださいました」
淡い光が生まれ、ポットや茶器、料理を載せたワゴンが照らされた。ってか、誰が生み出してんの、それ?
「そうか。ミタさんに感謝だな。んじゃ、コーヒーを頼む」
いろはに任せ、体を起こそうとしたら、リクライニングチェアのごとくドレミが体を起こしてくれた。サンキュー。
「マスター。どうぞ」
いろはからコーヒーを受け取り、ありがたくいただいた。あーコーヒーうめ~。
ゆっくりと飲み干し、もう一杯お代わりする。
コーヒーはオレの活力のもと。体の怠さが完全に取れた。
「……二時か……」
夜中も夜中、丑三つ時かよ。あ、いや、レイコさん。あなたの時間だからって青白い顔で見下ろさないでください。慣れたとは言え、この状況でされたらさすがに怖いですから。
「オレが寝てからなんかあったか?」
「いえ。なにもありません。すべてはマスターが目覚めてからと、公爵様は、車の整理に戻り、人魚は傷を癒してあの場所から動いてません」
「そうか。そう言や、ダーティーさんってなに食うのかな?」
淡水人魚だから魚かな? それとも肉か? そこは想像できねーぜ。
「ミタレッティー様がいくつか食べ物を用意して、人魚の側に置きましたが、手をつけた様子はありません」
まあ、食べ物かどうかもわからんのだろう。オレだってハルヤール将軍から赤紫色の海牛っぽいものを出されたとき、なんの嫌がらせかと思ったもんだ。
……ちなみに、酢をかけて食ったら大変美味でした……。
「ベー様。あの人魚をどうするのです?」
「どうするもこうするもダーティーさんの出方次第さ」
今は静観のとき。なるようになるだ。
「納得できん顔だな」
いや、うらめしや~な顔だけど。
「わたしもベー様と同じ考えですから。あれは、かなり追い込まれた顔です」
「わかるもんなのかい?」
オレはなんとなく感じる程度で、これと言った予兆は見れなかった。
「何度も見て来ましたから」
そう言えば、レイコさんも魔大陸で生きて……はいねーか。存在して来て、たくさんの種族間戦争を見て来たのだろう。
「なに、そう心配はいらんさ。ダーティーさん以外の人魚がいないってことは、ダーティーさんの国とは断絶してるってことだ。まだ猶予はあるさ」
多分、ダーティーさんは存続派で、新天地を求めてやって来たのだろう。なら、まずはダーティーさんを味方に引き込まなければならない。
「信用は一日にして成らず。会ったその日に分かり合えるなんて奇跡さ」
まあ、その奇跡を何度も経験しているオレのセリフじゃねーけどよ。
「ダーティーさんもいろいろ考えたいだろうし、今は放っておくのが吉さ」
事態が動き出すその日まで、な。




