828 到着
飛んだ先は林の中だった。どこよ、ここ?
「名もない林だ」
って言う名の林ってことかい?
「いや、本当に名がないだけだ。おれも用足しに寄ったからここを知っていただけだ」
公衆トイレなどない世界。公爵だろうが王さまだろうが外でしたくなったらそこら辺でする。まあ、女の場合は幕とか張られるだろうが、野外なのに違いはねー。
「その貴族用のはこの辺にあんのかい?」
地下……なわけねーか。ただの雑林だもんな。
「ここからしばらく行ったところだ。さすがに中に飛ぶわけにはいかんからな」
確かにそうだわな。貴族用なんだから出入りはしっかりとしてるだろうよ。
「ベー。お前、馬車なんか持ってるか? 貴族用」
「さすがに馬車はねーな。つーか、馬は持ち運びできねーよ」
遠出するときはルククだし、歩いても五キロ。田舎なら普通に歩く距離だ。荷物だって収納鞄に入れればイイんだからな。
「しょうがない。いったん屋敷に戻るか」
「車で行けばイイじゃん。魔道車とか言ってよ」
天下の公爵が言えば信じるだろうさ。
「いや、無理があるだろう。音で疑われるわ」
まあ、スーパーカーなんて走る騒音だしな。魔物と思われんのがオチか。
「なら、ゼロワンを出すか。アレなら魔道車って言っても疑われんだろう」
飛空船の小型版だし、珍しもの好きな公爵どのが乗ってれば大丈夫なんじゃね?
「……ゼロワンか。ベー。前に渡したバイブラストの紋章は持ってるか?」
「ああ。帝国内ではなにかと便利だからな」
大老どのと同じく公爵の身内だと示すと権力者と円滑に事が進められるのだ。まあ、虎の威を借りる狐作戦だな。
「ゼロワンを出してくれ」
と言うのでゼロワン──と、接続させたままのキャンピングカーを出した。
「つけたままだったな」
メンドクセーからそのまま無限鞄に入れたんだっけ。
「まあ、馬車らしくていいだろう」
そう言うものか? まあ、公爵どのがそう言うならオレに否はないけど。
「ボンネットにバイブラストの紋章を描けるか? あと、旗が掲げられると間違いない」
公爵どのがイイと言うなら問題ナッシング。ボンネット部に結界でバイブラストの紋章を描き、結界で旗を創った。ついでにキャンピングカーにも描いておくか。
「こんなものでイイか?」
間違ってはいないはずだが。
「ああ。大丈夫だ。ゼロワンはおれが運転する。ベーとミタレッティーはキャンピングカーにいてくれ」
それは構わんが、なぜよ? 公爵自ら運転してイイものなのか?
「いつもは飛空船で行くからな、問題はない」
飛空船でも行けるとこなのか。がぜん興味が出てきたぜ。
「それと、貴族用の服なんてあるか? さすがにそれでは追い出されかねんからな」
服装チェックか? まあ、貴族の、しかも会員制では当たり前か。
「あるよ。偉いヤツと会うかもしれんからな」
「ここにその偉いヤツがいるんだがな。お前は皇帝陛下に会うつもりかよ」
会えないことを切に願うよ。メンドクセーことはゴメンだし。
「まあ、いい。おれが声をかけるまでは外に出るなよ」
「了解」
そう返事してキャンピングカーに入った。
「ミタさん。オレは着替えるからアイスコーヒーお願い」
帝国、結構蒸し蒸しすんだな。もうちょっとで秋になるのによ。
とりあえず、貴族がお忍びで着そうな服を選び、それに着替えた。動き難いな、やっぱり。
まあ、慣らしだと思って我慢するか。
用意してくれたアイスコーヒーを堪能していると、キャンピングカーのドアが叩かれた。なんだい、いったい?
「到着したようですね」
やはり公爵どのは運転が上手いのか、まったく揺れず、発進したことも、止まったこともわからんかったよ。
ミタさんがドアを開けると、いつの間にか正装した公爵どのが入ってきた。服、間違えたかな?
「ほぉう。それならどこぞの御曹司に見えるな」
「服に着られているだけさ」
「いや、似合ってるぜ。お前は落ち着いてれば貫禄があるからな」
「それは動いていたら道化と言ってるようなもんだぞ」
「間違ってはいないな。お前の行動すべてが道化だしよ」
ほっとけ。
「まあ、道化はともかく、これから入る手続きをする。落ち着いていてくれよ。ここでは、公爵の地位もあまり役に立たんのでな」
なんの特別区だよ。逆に不安になるわ。
「そう構えるな。大人しくしていれば問題ない。ここでは争いはご法度だからよ」
それだけの力があるってことか。おっかねーな。
「それと武器になるものは持ち込めない。まあ、お前には無意味だろうが、相手を信用させるためにもなんか適当に出しておけ」
了解はするが、なにを出せばイイんだ?
なんかオレ、凶悪なものしかねーよな。いや、ミタさんもだけどよ。
朧でも出しておくかと決め、キャンピングカーを出た。




