82 オレも同類
アバールとは、月一で来る行商人のあんちゃんの名だ。
有能で、行動力のあるあんちゃんだから人魚族と商売してもなんら不思議じゃねーが、あんちゃんは行商人だ。基本、一人で各地(まあ、オレの注文でいろいろいってんだが)を回っている。量だってオレと変わらんだろう。
それで通商とは苦しくないか? 翻訳の間違いか?
「行商人のあんちゃんからなに仕入れてんだ? つーか、どこで取引してんだよ?」
ここに何度か連れてきたことはあるし、ここにくる手段が三つしかないことも教えてあるぞ。
「そのことでベーさまにご相談したいことがあります」
なにやらインテリジェンスなお顔が四割増しに真剣になった。
「なんだい? 改まって」
「ここを開放してもらえませんか?」
「開放もなにもオレは支配なんてしてねーんだから勝手にすればイイだろう」
ハルヤール将軍がここに流れ着いてからオレは好きにすればイイと言ってきたし、誰が住み着いても文句を言ったこともねぇ。もともとここは土魔法の練習(二割)と趣味(七割)と釣り(一割)で造ったまで。なくなったらなくなったで「あら残念。んじゃまた造るか」で終了だ。なんの拘りもねーよ。
「……ベーさまがそう言う方なのを忘れていました」
まあ、オレはクリエイターだからな。造ったあとにあんま興味ねーんだよ。
「開放と言ったのは地上と道を開いてくださいと言った意味です」
「……………」
思わずウルさんを凝視した。
そんなオレから目を逸らさないウルさん。真っ直ぐオレを見ていた。
「誰の指示?」
その問いに僅かだが、ウルさんの瞳が揺れた。
ハルヤール将軍は生粋の海の戦士だ。まあ、商売のことまったく知らねーってほど脳筋じゃねーが、その目には国と国民の安全しか映ってねぇ。商売なんて二の次三の次。まず国防だ。そんな人(魚)がこんなことを指示するわけがねーし、オレの生き方を理解している。ましてや、友達を罠に嵌めようとはしない。そんなゲス野郎ならとっくに見捨ててるよ。
「ウルさんが誰の部下かなんて興味はねーし、なにをしようがオレはどうでもイイ。ウルさんにも立場ってもんがあるだろうからな。だが、ハルヤール将軍──オレのダチを貶めようとか侮辱しようとか言うなら別だ。ウルさんだろうと許さねーよ」
女性を敵にはしたくねーし、困らせたくもねーが、友達を見捨てるクズにはなりたくねー。この世でやっと本音で語り合える友達ができたんだ、その関係を失うくらいなら喜んで女の敵になってやるよ!
「………………」
言葉が出てこないウルさんは、オレの怒気の籠った眼差しから逃げ、俯いてしまった。
インテリジェンスで仕事のできる女然としたウルさんだが、意外と押しに弱く、ウソを貫けないのだ。と、ハルヤール将軍が言ってたっけ。
「……なるほど、確かにそのギャップは萌えだな……」
ほんと、あのおっさん、生粋の海の戦士なクセに萌え魂を持ってんだから変態だぜ。まあ、そんな変態と友達になれるオレも同類だがな……。
「まあ、地上と道を開きたいのなら勝手にやればイイし、行商人のあんちゃんと商売したいのなら勝手にどーぞだ。オレが口出すことじゃねーよ」
行商人のあんちゃんには、なにかと世話になってるが、あんちゃんにはあんちゃんの繋がりがある。オレが口出す筋合いはねー。
だから、オレとハルヤール将軍との繋がりに文句を言われる筋合いもねーよ。
「んじゃ、荷物はいつものトコに置いとくからな。お茶、ご馳走さん」
まだ俯いているウルさんに礼を言って、執務室を後にした。




