81 ウルさんはキレイな人(魚)
「ウルさん、おはよー」
執務室に入り、机で仕事をしていたインテリジェンスな人魚のおねえさんに挨拶を送った。
人魚が机で仕事すんのかい! なんて言う突っ込みが脳裏を掠めたが、するんだからしょーがねーだろうと軽く流した。
「おはようございます、ベーさま」
わざわざ椅子から立ち上がり、お辞儀をするインテリジェンスなウルさん。
さまなんて呼ばれる身じゃねーし、呼ばれたくもねーが、生真面目な人(魚)になにを言っても無駄。早々に諦めたわ。
しかし、いつ見てもキレイで〇〇な人(魚)だよな。まさにファンタジーに出てくるに相応しい人魚らしい人魚だよ。うん。
ったく。男の人魚とか、いったい誰得だよ。夢ぶち壊すのも大概にしろってんだ。ハルヤール将軍見たときは地面に手付けて泣いたぞっ。
「約束のもの、持って来たよ」
「いつもありがとうございます」
お辞儀をする度に動く〇〇がなんともステキ。枯れていたなにかが萌える感じだぜ。
ちなみに、〇〇は勝手に想像してください。突っ込まれても否定します。そこを明白にすると、どこかから心臓が止まるくらいの殺気がくるもんで。そんなわからん殺気で死にたくねーよ!
「お掛けください。ただいまお茶を持って参りますので」
お気遣いなく、と言っても聞いてくれないので、ありがたく頂くことにして、オレ専用(人魚用の椅子は下半身を固定するもんだから人間には座れんのよ)のソファーに腰を下ろした。
しばらくして皿に紫色イクラ大みたいな粒々を盛ったもんを盆に載せてウルさんが戻ってきた。
「先日、王都から隊商がきましてね、ザルファ産のバルサナが入ってきたんですよ」
ザルファってのは地名でバルサナってのは海の中で生る蒲萄だ。突っ込みたい気持ちはオレにもわかるが、ここは種族の違い、文化の違い、所変われば品変わるで納得するのが異種族交流のコツだ。余程のゲテモノじゃなければ受け入れろだ。
「そりゃイイときにきたな」
人間側からしたらお茶じゃねーが、人魚側から見たら立派なお茶だ。まあ、そうは言っても違和感は消えねーが、粒々ジュースだと思えば結構どころか「うっめー!」と叫んでしまうくらい美味なるものだ。
ザルファがどこだか知らねーが、ウルさんの言葉からして結構有名でプレミアなもんなんだろう。
一粒つかみ、口ん中に放り込んだ(できるように設定してます。よくご馳走になるんで)。
ぷちんっと潰した瞬間、濃厚で甘酸っぱい蒲萄の味で口ん中が一杯になった。
「……な、なに、これ? いつものバルサナが水に感じるくらい濃いじゃねーか……」
だからってその濃さが居座るわけじゃねー。飲み込んだ瞬間に後味すっきり、また欲しくなる余韻しか残さねーのだ。
「ふふ。そうでしょう。ザルファ産はなかなか手に入らないんだから」
そりゃこんだけのもなら大金出したって仕入れるぞ。オレだって欲しいよ、この旨さなら。
「にしてもよく入ってきたな、こんな辺境に?」
この旨さなら王都のような人口の多いところに流れるのが普通だろうに。
「これもベーさまのお力です」
「あん? オレの? 意味わからんのだが……」
なんかしたっけ、オレ?
「人が増えていることにお気づきですか?」
「ああ、あんだけいりゃあな」
こんな辺鄙なところに、ちょっとした町くらいの人(魚)がいれば嫌でも目に付くってもんだ。
「ベーさまが運んできてくださる品は、どれもが希少で優れたものばかり。しかも、価格が安いときている。国としてどれほど助かっているか、言葉では言い尽くせないくらいです」
「んな、大袈裟な」
オレが持ってくる量なんて行商人レベル。小国とは言え、国から見たら微々たるもの。五万人都市で屋台をやってるよーなもんだろう?
「確かに量は少ないです。ですが、その品はここでしか手に入りませんし、我々──いえ、ハルヤール将軍の許可がなければ扱えないものばかりです。商人から見ればぜひとも仲良くなっておきたい人物。そうなれば良い印象を持ってもらうべく、国中から、いえ、諸外国からも集まる始末です」
まあ、わからないではないが、これ以上量は増やせねーし、買うつっても消費が追い付かねーだろう。住民つってもハルヤール将軍の部下やその家族、あとは儲けありと見てやってきた商人くらいなもの。オレだってそう大量に買うことはできねー。持ってきても腐らせるだけじゃねーの?
「ベーさまに紹介頂いた、アバールさまとこの度、通商を開きました」
「……はぁあん?」
あまりのことにスットンキョウな声をあげてしまった。




