8 ゴブリンが出た
「……ただいま……」
と、言ってるそばから弟が帰ってきた。
左手には、オレが作ってやった弓を持ち、右手には一羽の灰色兎を持っていた。
「獲れた」
うちの弟は無口な性格なもので必要最低限のことしか言わないが、表情は人並みなので獲れたことが嬉しいことがわかった。
「でかいの獲ってきたな。一発か?」
そうだとばかりに嬉しそうに頷いた。
「あとでサプルに捌いてもらうから手洗って朝メシ食え」
うんと頷き外にある流し場へと駆けていった。
「毎日仕止めてくるんだからトータも立派な狩人だね~」
オカンらしいセリフだ。
だが、一般的に言って五歳で灰色兎を狩ってくるのは異常である。
灰色兎は前世の兎サイズだが、凶悪な爪を持ち、猫並みにすばしっこい。こいつを狩るのは一流の狩人でもなかなかできないのだ。
そろそろ弟に狩りでも教えてやるかなと弓を持たせたら才能開花。僅か五日で百発百中。投げナイフも教えたらこれまた才能開花。今度はたったの三日で右でも左でも百発百中。さすがのオレも唖然としたが、オトンも弓の腕は天才だったので血だろうと無理矢理納得させた。
……まあ、この世界、いろんな種族がいるし、人間でも化け物じみたヤツがいるし、そんなもんなんだろうよ……。
「狩ってくるのはイイけど、毎日狩ってこられても食いきれないよ。保存庫だって一杯なのに」
朝の狩りで一匹。昼の狩りで二、三匹。そりゃ嫌でも貯まるよね。
飢饉、いつでもかかってこいや、の精神で貯蓄していたが、さすがに貯めすぎたか。我が家の保存庫、並みの体育館くらいあるからな……。
「オババのところに持ってってやるか」
そろそろ食材も切れる頃だし、薪も貯まった。今日は集落に行って見るか。
なんて考えていると、手を洗ってきたトータが席へと着き、朝食に食らいついた。
朝食が終わり、薬茶で一服していると、トータが巾着袋を突き出してきた。
なんぞやと受け取り、中を見ると、ゴブリンの耳が入っていた。
食後に見て気持ちのイイものではないが、それほど忌避感はない。剣と魔法の世界に十年も生きてればゴブリンなど日常茶飯事。たまには土竜(モグラじゃないよ、サイみたいな恐竜だよ)でも出て欲しいものだ。
「春だしな」
「いや、ゴブリンに春とか関係ないから」
無口な弟からの鋭い突っ込み。ほんと、やればなんでもできる弟である。
「何匹いたんだ?」
「三匹いた」
三匹ってことは斥候か。こりゃ、大軍勢が渡ってきた可能性がありそうだな。
基本、ゴブリンの群れは十匹前後で、単独で狩りをする。聞いた話(とある冒険者談)だと三十匹前後でも単独で狩りをするとのこと。それが三匹となれば百匹、下手したら二百以上の群れになってても不思議ではないな。
「……大暴走になるな……」
ゴブリンなどの魔物(知恵を持つものは魔獣と呼ばれている)大発生は自然災害扱いであり、わかれば逃げるし、わからなければ滅ぶだけだ。
領主に報告? そんなものしたところで見捨てられるのがオチである。領主軍っても百人もいない。ゴブリンとは言え、バーサーカ状態の二百匹もの大群を相手にすれば被害は甚大。下手すりゃ全滅である。なら村一つダメにして油断しているところを狙うのが領主軍のやり方(某奴隷談)である。
冒険者に依頼する手もあるが、領主軍ですら匙を投げる自然災害に我が身大事の冒険者が依頼を受けるわけもない。まあ、A級の冒険者パーティーなら受けてくれるかもしれないが、そんな国に十組もいない高ランクパーティーに払える金などこの村にはない。
まあ、わかってラッキー。即逃げろ──ってのが一般的で常識ある対応だが、この村に関しては、いや、オレにしたら暖かくなって変態が出たくらいの感覚。取り立てて騒ぐようなものではない。
「まあ、イイタイミングではあるか」
最近、毒見役が欲しいと思ってたところだ。まあ、悪食なゴブリンなのはちょいと不満だが、毒のあるなしくらいはわかるから我慢するか。山賊も出てくる季節だし、運が良ければ捕まえられるだろうよ。
「トータ。明日にでも出てみるからだいたいの場所と数を調べてきてくれ」
「今日、魔法教えてくれる約束」
あれ、そうだっけ?
「も~! あんちゃん、すぐ忘れるんだから」
最近、魔法に興味を持ち始めた姉弟。そして、才能開花しそうな兆しあり。うちの血筋、ほんとどーなってんだ?
ちなみに、サプルもトータも大暴走など気にもしない。なんせ、オレがオーガの群れを棍棒一つで殺戮するのを見ていれば、大岩かち割っているのも何度も見ている。もはや非常識に慣れた姉弟は、今では立派な非常識。大暴走程度ではもはや驚かないのだ。
「んじゃ、昼からでイイから見てきてくれ。魔法は午前中に教えるから。それでイイだろう?」
「わかった」
「サプルもイイな?」
「うん。わかった」
素直な妹と弟であんちゃんは嬉しいよ。




