792 経理のリューコ
朝! 清々しい朝が……やって来ませんでした……。
「……物の見事に砂嵐ですね……」
まあ、厳しい環境と言われた魔大陸。砂嵐の一つや二つ、珍しくないよね。
「よく、魔大陸で生きられるよな」
いくら魔族が人より強靭で生命力が高いとは言え、ここは生物が住むには苛酷すぎんだろう。
「ベーなら平気で暮らせるんじゃない。と言うか、ベーはなんの生物になっても図太く生きてるわね」
そのセリフ、そのままお返ししますわ、適応力最強のメルヘンさん。
「これ、ベーさんの力なんですか?」
横にいる幼児、ドラゴンガールが目を丸くして結界ドームを見上げていた。いたね、君。すっかり忘れてましたわ。
「まーな。ドラゴンガールは魔法とか使えんのか?」
サプルに捌かれた竜はビームっぽいものは吐いてたが。ってか、アリザもビームっぽいもの吐いてたな。まったく、生命の神秘だよ。
「どうでしょう? よくわかりません」
それで大丈夫なのか? より強くなって生まれて来たんだろう?
「別に魔法に興味ありませんし、穏やかに生きられるならなくても構いません」
まあ、健康で長生きできて、いじめられなければイイってヤツだしな。本人がそう言うならオレは構わんけどよ。
「ん? あれ? お前、なんかデカくなってね?」
幼児は幼児だが、二歳くらいが三歳くらいになってねーか?
「はい。なんか成長してるっぽいです。なんででしょう?」
「それは知らんが、まあ、成長してんなら構わんだろう。幼児のままだと動き難いしな」
オレもこの頃は苦労したもんだ。力はあるのに体が言うこと聞いてくんねーんだもん。
「そう言や、お前ってなに食うの? ってか、なんか食ってたっけ?」
食事の席にいた……記憶もありませんし、食べている記憶もありませんね。存在自体忘れてましたし……。
「人の食事は食べたいって思いませんが、魔石、でしたっけ? あの緑色の石は美味しそうに思えました」
と言うので魔石を渡してみた。
手にした魔石を眺めていたドラゴンガールが、ひょいと、突然口に放り込んでしまった。本当に食うのかよ!?
「……ちょっと味気ないです……」
味とかあんだ、魔石って……。
「レイコさん。竜って魔石食う生き物なの?」
浮遊する辞書に聞いてみる。
「全てが、と言う訳ではありませんが、バンデイルサーノのような高等な竜は魔石や魔を食らいます。多分、このリューコさんも魔石で育つと思われます。あと、成長したのは世界に満ちる魔を吸ったと思います」
イイんだか悪いんだかわからん生き物だな、竜って。
「で、竜って成長早いの?」
「本来ならある程度成長して生まれるものなんです。ですが、リューコさんは育つ前に生まれましたしたからね……」
まあ、あのまま卵でいたらサプルに料理されてただろうな。どんな料理かは想像したくねーけどよ。
「これはわたしの予想なんですが、魔石を与えたら成体までは成長すると思いますよ。竜の幼少期は短いようですから」
長年生きる竜の短さがどれほどのものかは知らんが、幼児のままでは不便だ。食わせてみればわかるだろう。
と言うので、魔石を食わせてみた。
「……食べ飽きました……」
魔石を三十個ほど食しての一言。味に対してはコメントは避けるが、同じものを三十個も食べたら竜じゃなくても飽きるわな。
「それでも五才くらいまでは成長したか。随分と効率イイんだな」
そんなに質はよくねーって話なのに。
「幼体時は、魔の吸収率が高いと聞いたことがあります」
便利な生き物だね。まあ、そのせいで竜の数は少ねーんだろうけどよ。
「まあ、そのくらいの体ならそう不便ではあるまい。徐々に成長して行けばイイさ」
機敏には動けんだろうが、日常的な生活を送るなら大丈夫だろう。急に成長しても体が上手く動かせないだろうしな。
「そうですね。二歳児の体のときよりはスムーズに動けますし」
ってか、スムーズに動き過ぎてね? 五歳児の動きじゃないよ、それ……。
まるで踊っているように動くドラゴンガール。人型でも竜なだけあって身体能力は高そうだな。
「この時代なら五歳児でも働けますよね?」
「まあ、田舎なら五歳児でも働くが、お前、農業とかできんのか?」
つーか、前世の職種なによ?
「授業で田植えはやったことあります」
「残念ながらオレの住んでいるところは麦文化だよ」
東の大陸なら役に立つかも知れんが、麦は種を蒔いて育てるものだ。ってか、種蒔きもそれなりに技術がいるんだ、素人にはやらせてもらえねーよ。
「草むしりなら町内会でやりました」
「そのレベルでは、三歳児に負けるわ」
田舎ナメんなよ。立ったら働かせるのが田舎の常識。三歳でも働かざる者食うべからずが適用される時代だわ。
「農業じゃなくてもイイから、なんか得意なものはねーのか?」
料理……は間に合ってるか。裁縫……も間に合ってるね。つーか、家事全般は有り余ってるか。それ以外にしてください。
「得意なことはありません。趣味もありませんでしたし」
よくそれで生きてこれたな。まあ、なくてもなんとかなるけどさ。
「強いて言うなら事務や経理は得意かもしれません。社会人になってずっと経理部で働いてましたから」
なんて会社って聞いたら、結構大手のところでした。学歴は高そうですね。
「……経理、ね……」
この時代の商売に経理がどれほど役に立つかわからんが、前世のように最適化された書類や事務が持ち込めれば仕事が楽になるかも知れんな。まあ、経験ないんでテキトーな考えだけどさ。
「なら、うちの商会で働いてみるか? ドラゴンガールの職歴がどこまで通じるかわからんけど」
「はい、お願いします! 働かせてください! 人並みには生活したいですし」
いや、あなた人じゃないから。竜ですから。
なんて言っても説得力ねーか。本人も竜って意識ねーようだし、竜として生きたいとも思ってねーからな。
「じゃあ、うちの商会で雇う。寝床は用意してやるからよ」
あ、社員寮とか造るか? これからもっと従業員を雇うかもしれんし。婦人と相談してみるか。
なんてことを考えていたら、竜人さんたちがやって来た。
この砂嵐の中、よくこれたもんだ。さすが魔大陸に住んでるだけはあるぜ。
たぶん、この団体を仕切っているだろうユカさんにマルッとサクッと丸投げです。
ハイ、物物交換お願いしま~す!




