79 開店だ
扉(土魔法による砂の分解と固定方式)を開けると、やや下り坂の通路が現れた。
一応、馬車二台がすれ違っても余裕があるように造ってある。
なんでやねん! って突っ込まれたら『なんとなくだ!』と答えます。実際、港まで繋げるまで気が付かなかったからな。
通路には二十メートルごとに光を封じ込めた結界を置いてあるので結構明るい。
「なんか味気ねーよな、この通路」
まあ、通路に味を求めるのもなんだが、結構長いんだよな、この通路。
陽当たり山の標高が約八百メートルくらいある。そこから幅の広い道が港まで二十キロメートル近くある。こんな荷物載せて飛んでるからスピードも出せない。いや、出す気になれば出せるが、念のために扉は五つ用意してるので飛ばすことができんのだ。
なぜに? とサプルにと聞かれたが、海の中の生きもんって結構どころか相当ヤバいもんがいるのだ。
まあ、この近海ではいねーし、人魚族が縄張りにしてるから寄ってこねーが、絶対にこないとは限らない。危険ではねぇが、百触手虫とかザリガニ(モドキ)ヘビとか、あんなゲテモン、こんな狭いトコで会いたくねーよ。心臓止まるわ!
五つ目の扉を潜り、三十メートル進むと、ちょっとした体育館くらいの 広場に出る。
ここは一応、離れの保存庫であり、港にあるオレの店の倉庫でもある。
店? と首を傾げられるかも知れんが、人魚族相手に商売しているので店が必要なのだ。
ファンタジーの代表格みたいな人魚族だが、これがまた人間にも負けぬ俗物な生きもんで、戦士もいれば商人もいる。奴隷だっているくらいだ。
見た目さえ気にしなければ人間相手にしてるのとなんら変わらん。もちろん、種族に寄る価値観や文化、言葉の壁はあるが、決して付き合えぬ存在ではねぇ。それどころかこれまで交流がなかったのが不思議なくらいわかり合える存在である。
まず、品をそのままにして店へと入る。
港にくるのは商売のときか魚介類を獲りにくるくらいなもんで、そう毎日のようにはこねーんだよ。今日も十日振りにきたくらいだ。
店の中──つうか、裏から入ると、まずバックヤード的な商品を置いた部屋になる。
人魚相手になに売ってんだと、気になるモンがいるのだろうが、特別な品は置いてはいねーよ。町の雑貨屋にあるよーなもんばっかだ。まあ、売れ筋は決まってるんだが、やはりそれだけつうのも味気ねーんでな、雰囲気を出すために置いてるだけだ。土産に買ってくヤツがたまにいるんでな。
バックヤード的な部屋に異常がないかを確かめる。以前、三十センチ超えのフナムシ(触手つき)がいたときはさすがに叫んだよ。海のもん、進化がハンパねーぜ。
「おし。いねーな」
結界張ってるから大丈夫なんだが、あのインパクトはもはやトラウマだ。万全にしてても不安でしょうがねーよ。
バックヤード的な部屋の安全を確認し、店へと続くドアを開ける──と、目の前にプールが広がる。
人魚は空気があるところでも生きられるが、基本は海の中で生活する生き物。海の中の方が自在に動ける。なので店は海の中にあるのだ。
ちなみに港には人間用に桟橋を二つ造り、会長さんが乗ってた魔道船クラスの船でも停泊できるようにはしている。
もちろんのこと海の中も同じくらい広くしてある。なんせ、人魚族の船──って言ってイイのか謎だが、巨大生物を利用した運搬方法を取っているんで広くないと不都合なんだよ。
ハルヤール将軍と出会ったときは、土魔法で小さなプールを造り、怪我の治療やコミュニケーションを取っていたが、人魚族の商人やら客やらくるようになり、住み着くヤツまででてきた。
ここを造ったのは確かにオレだが、趣味と勢い、そして、釣り場が欲しかっただけに過ぎない。なので、これと言って支配力もねーし、所有権を主張したい訳でもねー。住みたいなら住めばイイし、店を開きたいのならやればイイ。どうせ人魚族からも人間族からも辺境と見られてる地。住み着いたところで文句を言うヤツはいねーんだ、勝手にしろだ。
三時間は空気の心配はしなくて済む結界を纏わせる。
「さて、店の開店だ」
言ってプール──いや、店へと飛び込んだ。




