757 君たちに幸あれ
──クッ。な、なんとか勝てたぜっ!
死闘であった。
コレまでにない死闘である。自分でもよく勝てたと思うぜ……。
「あ、皆。ベーの喜劇がそろそろ終わりそうよ」
なんて死闘から生還したのに、その場の空気が和気藹々。なんですの、その家族団らんより温かい空気は?
「で、リリーたちを呼んだのはどう言うわけよ?」
なにやら頭の上の住人さんが場を仕切ってますが、あんた、関係ないやん。
とか言うのもメンドクセーので話に乗っかりますか。
「魔王ちゃんをヤオヨロズ国の王にすることを伝えるためだ」
リリーを見ながら言った。
「え? なにか当たり前のように繋がったでござるよ」
「まあ、ベー様とプリッシュ様ですからね」
「さすがベー様とプリッシュ様です」
ちょっと、外野がうるさいよ。ヒソヒソ話ならもっと静かにやれや。
「ヤオヨロズ国の王さまってリリーにするんじゃなかったの?」
外野を無視して話を進めるプリッつあん。ムム。貴様、スルー拳を極めておるな……。
「前はな。だが、リリー以上に魔王ちゃんが王に相応しいから魔王ちゃんを王にする」
こちらも負けずにスルー拳発動! 外野のヤジを排除してやる。
「……わたし……」
オレの目から逃れ、俯いてしまった。
沈黙が満ちる中、横にいた魔王ちゃんが立ち上がり、リリーのもとへ向かった。
「我は、タケナカ・アリエス・ユリエだ。名を教えてくれ」
リリーの前に立ち、胸を張って名を告げる魔王ちゃん。多分、その行動は誰かを真似ての行動だろう。もし、自分の考えでやってたら魔王ちゃんはこの世界は魔王ちゃんの物語だわ。
「……リリー・シラトリ……」
「そうか。リリーか。よい名だ」
いや、あんた名に興味ないやん。と、突っ込みが出かかったが、プリッつあんのストレートパンチに引っ込んでしまった。
「黙ってろや」
メルヘンの口から出たとは思えないほどのドスのきいた一言。イエス・マイ・メルヘン。
「わたしに不満があるのなら言ってくれ。気に入らないと言うのなら我はリリーの影となり盾となる。我はヤオヨロズ国に住む民のためになるのならば王には拘らぬ。この命も惜しまぬ。リリーが王となるならこの命をリリーに託す。好きなように使ってくれ」
今まで無表情な魔王ちゃんが柔らかく微笑んだ。
「……あ、あなたは、なぜそこまで自分を犠牲にできるの……?」
そうリリーが魔王ちゃんに問うと、今度は誇り高く胸を張り、覚悟を決めた顔を見せた。
「犠牲ではない。これは我の願いを叶えるための努力だ」
キッパリと言い切る魔王ちゃん。その迫力に圧されるリリー。
「我が父が言っていた。王は民のために。臣は王のために。民は国のために。立ち止まることなく、守るべきものを守り、愛する者を愛し、親を慈しみ、子を育て、挫くことなく、明日を得よ、と」
魔王ちゃんが目を逸らすリリーの手を取り、無理矢理自分の目に向けさせた。
「リリー。我は弱い。知恵もない。一緒に進む者もいず、支えてくれる者もいない。我はなにも持ってはおらぬのだ……」
今度は魔王ちゃんがリリーの目から逃れた──が、直ぐに戻してリリーの目を見詰めた。
「リリーよ。そなたは王となり、民を導く光となるか?」
「……わ、わたしには、その力がなかった……」
「だが、民を導く光として戦ったのであろう? そなたの目は父と似ている。民のために戦い、民に裏切られても尚、王とあろうとした目だ」
「けど、わたしは、挫けたわ……」
「ならば、我が光となろう。リリーが挫け、地に伏せたのなら我が手を延ばす。常にリリーを照らす光となる。だからリリーよ。なにも持たぬ我の最初の友となれ。我とともに行こうぞ」
リリーの目に光が宿る。それは昔になくしたリリーの原初の思いだろう。
「リリーが行くならボクもいく!」
と、ルンタが魔王ちゃんとリリーの手を繋いだ。
「じゃあ、あたしも」
食以外に興味を示したアリザが三人の手の上に重ねた。
イイ感じに纏まりそうだが、なにかが足りんな?
もとより魔王ちゃんの部下にリリーとルンタ、そして、アリザをと考えていたが、どうもこのメンツだといまいち不安でしょうがねー。
魔王ちゃんはイイ。この子はオレの教えを一聞いて十を理解する。今のも巻き込ませろの応用だ。リリーの心情を利用して、口八丁で味方にさせたのだ。
黒いと言うことなかれ。キレイなだけの王など害でしかねーし、弱肉強食な世界には不要だ。味方をも欺く強かさが求められるんだからよ。
問題はリリーだ。こいつは純情で夢を見がち。理想を求め過ぎるきらいがある。とまあ、しゃべっていて感じただけだかな。
こいつを制するのは魔王ちゃんでもキツいと思う。ルンタかアリザがその間に入ってくれたらイイんだが、まず無理だろう。
ルンタはまだ子どもでアリザは無知過ぎる。今は魔王ちゃんとリリーと一緒にさせておく時期だ。
となると、残された選択はただ一つ。
オレの横でホバリングするプリッつあんをわしっとつかみ、四人の手の上に乗せた。
「え、なに!?」
「任せたっ☆」
キランと白い歯を光らせサムズアップ。今日から君はニューブレーメンの纏め役だよ! と、マルッとサクッと押しつけた。
「え、ちょっ、ベー!」
「アハハ。あとは若い人たちで、ってことで我々は買い物にでも行きますか。では、失礼します」
なにか後ろで騒いでいるが、オレの心はもうカイナーズホームへと飛んでいる。さて、ラーシュへの贈り物、なににすんべ?
エレベーターに乗り込み、地下三十六階と思われるボタンをポチッとな。
「アディオス、魔王と四天王たちよ」
仲むつまじい五人に敬礼! 君たちに幸あれ!




