72 ふざけるにもほどがある
なにはともあれ仕事の再開である。
重傷者が出ようが、ゴブリンが出ようが、仕事が中止になることはねー。
山にゴブリンがいるのは当たり前だし、魔物による被害なんて毎年ある。オレが生まれてから七人は魔物に襲われて死んでいる。
危険なのは承知。それでも生きるためには入らざるを得ないのがド田舎ライフだ。
前世と違い、仕事が溢れているわけじゃねーからやることが決まってくる。だが、どの職種も代々続いているもの。樵が嫌だから畑仕事をしますって言っても畑はねーし、技術もねー。どうしてもって言うのなら人類最前線にいくしか手はねぇ。
運のイイ次男や三男は違う職種にいけるが、樵の子は樵にしかなれねー。その逆もしかりだ。農業やってたヤツが危険で過酷な樵なんてできるわけがねーよ。
「あ、そー言やぁ、斧、置いてきちまったっけな」
ん~、戻んのメンドクセーし、新しいの出すか。
ズボンのポケットに手を突っ込み、鍵束を取り出す。
空中に鍵を突っ込み、右に四分の一回転。カチンと音がして倉庫にある棚と繋がった。
扉を開け、中から斧と鉈(ケース入り)を出す。
「……相変わらずベーの魔術はスゲーな……」
見ていたザバルのおっちゃんらがびっくりしてる。
オレが魔術を使えることは村のもんなら誰でも知っている。この結界連結術も何度か見せた。
オレが魔術使えて当たり前を刷り込むためにやっているのだが、ド田舎もんは純真って言うのか、純朴って言うのか、一向に慣れてくれんのだよなぁ……。
まあ、否定される感じではないからイイんだが、その初めてサーカスを見た子供のような目で見ないでくれ。こそばゆいから……。
逃げるように鉈を腰に回し(ケースに革紐がついてる)、斧を担いだ。
「──あ、そー言やぁ、ゴブリンの死骸、どうした?」
ふっと思い出し、ザバルのおっちゃんに尋ねた。
「え? あ、そのままだった……」
「ザップのおっちゃんのところか?」
基本、伐り場は共同の場であるが、木を伐るのは個人だ。計画的に伐るために拡散する。
ちなみにオレは専門の樵ではなく、薬師と同じく副業樵だ。まあ、税は薪で払ってるが、ザップのおっちゃんみたいに治療した代金で税にすることもある。これは、治療費が溜まりすぎて村で払えないために税として引いてるのだ。
で、だ。副業なので伐り場の使用権利の順位は低く、結構──そうだな。この山小屋から七百メートルくらい離れている。
「ああ、そうだ」
「なら西のほうだったな」
オレの場所とは反対だが、死骸をほっといて置くのは危険だし、しゃーねーか。
「すまねー。ザップのことで頭が一杯で忘れてたわ」
伐り場はオレが定期的に見回って魔物駆除してるが、灰色狼や死肉食い(この世界、幽霊やゾンビがいやがるんだよ)が寄ってくる。灰色狼ならまだしも死肉食いなんて魔術が使えなきゃ倒せない厄介な存在だ。
この死肉食いを見過ごすとゴブリンの大暴走に勝る被害を及ぼすので、見つけたら即焼失。山火事になってもイイからとにかく燃やせと言われてるくらいだ。
「おい、皆。武器を取れ。いくぞ!」
ザバルのおっちゃんの号令の下、樵衆が山小屋に常備してある槍をつかみ、出ていった。
オレとしては付いてこられると不都合なんだが、伐り場を守るために行動しているおっちゃんらを止める言葉をオレは持ってねー。
しょうがねーなとは心では思いながらも顔には出さず、おっちゃんらの後に続いた。
まあ、三百メートルほど離れてはいたが、伐り場なので傾斜は緩いところであり、雑木類や下草の類いが少ないのですぐに到着できた。
「……こいつらもイイ装備してやがんな……」
死骸を見下ろしながら呟いた。
なんの皮だか知らねーが、なかなかイイ作りをしてる上に戦った痕が少ない。剣などオレが作るもんより上質だ。
「こりゃ、兵士級に進化してんな」
通常のゴブリンならザップのおっちゃん一人でも殺せただろうが、兵士級でこれだけの装備してたらバンたちでもヤベーぞ。
「ほ、本当か、ベー!?」
「ああ。魔物図鑑に載ってた内容と同じだ」
正しく言えば魔物図鑑と示し合わしたからなのだが、ゴブリン退治、よくやってまーすとは言えねーし、無闇に宣伝するのも迫害の元だ。まあ、一角猪やら灰色狼何百と倒しておいて今さらではあるんだがな……。
「まあ、灰色狼や死肉食いが集まる前──」
言葉途中で視界がブレ、なにが起こったか理解する暇なく木に激突した。
……な、なにが起こった……?
「ほぉう。それで生きてるか。さすがリックスを倒すだけはある」
理解不能ながらも立ち上がり、声がした方へと目を向けた。
そこには三メートル近い、赤い肌をした大男──いや、オーガが立っていた。
「……………」
クソがっ! イケメンなゴブリンを見たとき以上に言葉になんねーよ。
ほんと、なんだよ、美丈夫なオーガって? ふざけるにもほどがあんぞ、この世界の進化論っ!




