712 勝負しようや
空母の艦尾で海を眺めながらゆったりまったりコーヒーブレイク。あーコーヒーうめ~。
「……でも、飽きた……」
いや、さすがに三日も同じ光景見てたら飽きますって。つーか、三日も見てるオレ、スゲーな! 我ながらビックリだわ。
「……帰ろうかな……」
急ぐ人生ではねーと岩さんを引っ張りながら我が家に帰ろうとしたが、変化のねー人生はつまらない。刺激があってこその人生だよ!
「ドレミ。プリッつあんとミタさんは?」
一時間もしないで飽きたメルヘンとシーカイナーズの面々に強制連行されたスーパーメイドのミタさん。なにやってんのよ?
「プリッシュ様は衣服や小物を売ってます」
は? なにやってるって?
「売店の空きを利用してプリニーツと言うお店を開いてます」
なにやってんのようちのメルヘンは? つーか、商売成り立ってんのかい?
と、気になっていってみたら大繁盛でした。シーカイナーズの女性陣が楽しそうにお買い物してますがな。
「あ、ベー様」
と、声をかけられて反射的に見たらスーパーメイドが小洒落たお店でクレープを焼いてましたよ。なにやってんのよ、君たちは?
「スイーツの話をしましたらぜひ食べてみたいとせがまれまして。どうも艦隊で働かれている方々は娯楽に飢えているようです」
「すみませーん。ベリー&メープルくださぁ~い」
「わたしは、チョコバナナをお願いしまーす」
次から次へとやって来る軍服姿の女子たち。
な、なんだろうな、この納得いかない気持ちと不可解な気分は?
字にしたらそう違和感はねーんだが、鬼やら青い肌の魔族の女子たちがクレープを買い食いしている光景ってなによ? ここどこよ? オレ、どんな世界に立ってんのよ?
「はぁ~い、ベリー&メープルとチョコバナナお待たせしました~!」
と、なんかお洒落なユニフォーム着ちゃってる乙女騎士さんが鬼っ娘たちにクレープを渡していた。
「──あんたなにしてんのっ!」
思わず突っ込んでしまった。
ほんと、あんたなにしてんのよ? 姫戦士や姫商人と帰ったんじゃねーの? あとは任せたと言ったじゃん。食料も渡したじゃん。つーか、あんたお姫さまだよね? なに異文化交流してんのよっ!
「社会勉強のために同行させていただいてます」
「そっか~。じゃあ、しょうがないよね~──じゃねーわ! そんな簡単でイイのかよっ!」
それで許されるあんたの国ってなんなによ? めちゃっ軽くね?
「はい。本国からベー様とは友好を結べと言われてますから」
「ベー様。今は忙しいのでその話はあとでお願いします」
シーカイナーズの娘さんたちがこちらを睨んでいる。
そんな眼差しに勝てる男子なし。即退散が賢い選択。お邪魔しました~。
「……こ、怖かったぁぁぁっ!!」
マジ股間がキュッとしましたがな。寿命が三年は縮まりましたわ ……。
「種族は違えど女子は恐ーわ」
もう二度といかん。つーか、シーカイナーズの男子はなにしてんだよ! もっと男の威厳を主張しろよな!
「あ、いや、女には勝てませんって。艦隊に乗る女ですし」
「まあ、そりゃそうだわな」
ん? オレの心の声に答えたのは誰よ?
と、横を見たら魔族二十四種族が一つ……シープリット族の中年男がいた。
シープリット族は、人型はしておらず、狼版ケンタオロスって感じだ。
「あ、わたし、艦隊副司令官のバルナド・バダルと申します。お見知りおきを」
「いたんだ、副司令官って」
いや、普通はいるもんだし、いても不思議ではねーが、まさか狼の四肢を持つシープリット族だとは想像できんかったわ。
「はい。まあ、司令官が有能なので出番はそうありませんがね。あ、タバコいいですか?」
「構わんよ。ってか、タバコなんて吸うんだな。シープリット族にそんな文化があったんだ」
この世界にもタバコはあるし、魔族でも吸うとは聞いている。が、シープリット族って大地を駆ける種族じゃなかったっけ? 書物にはそう書いてあったぜ。
「いえ、タバコを吸うようになったのはカイナーズに入ってからですね。まあ、ストレス解消ですよ」
なにやらくたびれた中年サラリーマンのように哀愁ある笑みを浮かべた。
……まあ、この艦隊、なんか女子率高そうだし、中年には肩身が狭いか……。
「艦隊設立時はタバコも自由に吸えたんですが、今の司令官になってからは艦内禁煙で参りますよ」
これまた家庭で威厳をなくした父親のように情けなく笑う副司令官さん。苦労してそうだな。
「この艦隊に、ってか、この空母には娯楽施設とかねーのかい?」
前にテレビ番組で空母の特集やってたが、ビリヤードやボーリング場があったはずだぜ。
「あるにはありますが、どうも我々の趣味嗜好とは違いましてな。唯一の娯楽と言えばカードゲームくらいです。と言っても最近では下火になってますがね」
「賭とかはしねーの?」
「しますよ。ですが、カイナーズは給金も配給も文句のつけられないくらい充実してますからね、他人から奪ってもおもしろくありません」
これは、環境がよくてダメになるパターンだな。
「まあ、カイナは好きなことにしか興味を示さねーからな」
別に悪いとは言わねーが、好きなことを好きなだけしてるヤツは周りにはなかなか目が行かねー。他人も自分と同じだと思っちまう。
それに、魔族も娯楽なんて概念が生まれたのもここ最近だ。趣味嗜好なんて言葉もねーだろうな。生きるので精一杯って状況だったんだからよ。
「副司令官さんは、カイナんとこに来る前はなにをしてたんだい?」
見た目、つーか、上半身でしか判断できねーが、四十年以上は生きている感じだ。充分過去があるだろうよ。
「自警団の隊長をしてました。うちの一族は魔王に仕えるほど優秀ではありませんでしたから」
それでも副司令官さんは、強いってことは感じ取れたし、手の厚さからして剣か槍を振り回していたのはわかった。
「ふ~ん。そう言や、副司令官さんは銃とか持ってねーんだな?」
艦隊のお洒落女子たちですら拳銃は装備していたが。
「わたしのような古い者には銃はちょっと馴染まないもので。まあ、訓練は必須なのでやりますがね」
多分、この副司令官さんは、リーダーの要素があったから副司令官、これもたぶんだが、司令官さんのフォローをするために選ばれたんだろうな。
そして、これもたぶんになるが、副司令官さんは、体を動かすのが性に合っているんだろう。
ズボンのポケットから魔剣を取り出し、無限鞄からカイナーズで買った硬球を取り出した。
「副司令官さん。暇ならちょっと付き合えや」
戦闘能力はピカ一と見た。なら、ちょっと勝負しようや。




