708 引き上げ
一瞬の暗転の後、瞼を開くと高い視線となっていた。
……巨人になったらこんな感じになんだ……。
比較対象が空母ってのもなんだが、まあ、そこは気にするな、だ。この目に映る風景を素直に受け止めよう。
固定具から轟牙を解除し、自らの足で甲板に立つ。
腕や体を動かしてみるが、これと言った違和感はねー。普通に立っている感覚だ。
「ベー。動けないんだけど?」
「あ、ワリー。今外すわ」
結界固定を解き、カイナのブラックサウザンガー? を固定具から外した。
「なんか違和感はあるか?」
この目に映るのはブラックサウザンガーなんだが、動きがなんとなくカイナなので違和感をまったく感じねーな。動きって個性が出るもんなんだな……。
「これと言った違和感はないね。でも、視界が高くなって──ぬわー!?」
カイナが動いたら突然足元が揺れ出し、とっさに固定具につかまり、転倒を防いだ。
「……な、なんだ、いったい……?」
「ご、ごめん! 空母の上だってのを忘れてた」
あ、そうだった。オレも忘れてたわ。海に浮かんでいる艦だってことを。
「さすがに巨大化してたモコモコ獣は無理だったか」
一体でも無理だとは思っていたのに、二体も乗ってたらさすがに無茶も言いところだわな。
「だね。中は大丈夫かな? レガノ、被害は出た?」
カイナが艦橋を向いて、レガノさんとやらに尋ねた。どちらさん?
「もうしばらくお待ちください!」
スピーカー越しから女の声が──あ、司令官さんか! 誰かと思ったよ。
司令官さんの返答が来るまで轟牙の足の下に結界を展開し、空中に浮かせたら、また空母が揺れてしまった。
「ん? ベーなんかした?」
「ワリー。軽くしようと空中に浮かせたわ」
結構轟牙が重い。カイナの方に空母が傾いてしまった。
「さすがにこの巨体では無理があるか。一体でも結構沈んでるや」
器用に体を動かして海面を見るカイナ。落ちるなよ。
「カイナ様。飛行不可能が十三機。他は軽微とのことです。軽症者は三名。頭を打ったくらいです」
それはワリーことしたな。あとで謝らんと。
「ワリー。考えなしだったわ」
とりあえず持ち主に謝った。
「いいよ。壊れたらまた新しいのを出せばいいんだしさ。怪我と言う怪我でもないんだし。それより、この巨体をなんとかしないと……」
結界で浮かせようかと言う前に、カイナがフワリと浮かび上がった。なにしたん?
「重力魔術だよ。初めて使ったけど、結構使えるもんだね」
なんでもありの野郎だな。まあ、言い返されそうなので言わんけどさ。
「でも、面白味がないよね。飛行ユニットとかないかな?」
「無茶言うな。飛びたきゃ竜にでも乗りやがれ」
ファンタジーな世界なんだ、轟牙を乗せられる竜でもいんだろうよ。オレは知らんけど。
「あー、なるほど。その手があったか! 黒王竜なら乗れるよ!」
ど、どうやらいるらしいです。世界は広いんだね……。
まあ、オレは轟牙で空を飛びたいとは思わないので好きにやってちょうだいな。
ここは、サクッとスルーして次に移りましょうね。
空中を歩き、海へと下りる。
「そう言えばなにしようとしてたの?」
今さらな質問をしてくるカイナ。わかってて来たんじゃねーのかよ!?
「あ、いや、レガノからベーがなにかしようとしてると連絡を受けて、これはなにか楽しそうなことをしてると、考える前に来ちゃたんだ。ナハハ」
「……ったく。本当にお前は思ったが吉日野郎だな……」
オレだってもうちょっと考えて動くぞ。
「まったくもってごもっとも。で、なにするの?」
「宇宙からの使者をサルベージすんだよ」
いやまあ、使者ってより迷子って感じだが、そこは岩さんの名誉を重んじて使者としておこう。
「は? なにそれ?」
「カイナは、この下にあるもの、見えるか?」
「下? なにがあるの?」
カイナも海面に立ち(?)、下を見る。つーか、透しとかできんの?
「……なんか、不思議なのがいる、ってのはわかるんだけど、姿がまったく見えないんだけど。なんなのこれ?」
どうやら感じはするが、姫さんズやレイコさんと同じく見えないようだ。まったく、なんの不思議現象が働いてんだ?
「まあ、引き上げてからだ。それより、轟牙の手に合いそうな丈夫なワイヤーとかあるか? 四百メートルくらいあって、できれば二本。あと、引き上げたら空母に乗せるが構わんか?」
「ワイヤー? 確か創ったと思う。ちょっと待って」
なにやら遠くを見るような目をしたと思ったら、空中に丸めたワイヤーが二本現れた。
「こんな感じのでいい? たぶん、一本で五百トンは保つと思う。サルベージに使うクレーンのワイヤーだから」
なんでも出してんだな、お前は。でもまあ、今はその非常識に感謝しよう。サンキュー。
「空母は好きに使っていいよ。訓練にもなるしさ」
それが今後どう活かされるかは知らんが、カイナが納得してんなら遠慮なくさせてもらうよ。
空中に浮かぶワイヤーをつかみ、ヘキサゴン結界で覆う。
「んじゃ、岩さんを引き上げますか!」
ワイヤーに意識を通わせ、海底にいる岩さんへと向けて放った。




