653 ヤヴァイ
「……ところで、その性格って地?」
プライベートなことを聞くのは主義に反するが、どうも王さまの様子が気になるんだよ。
「ううん。呪いのせい」
はぁ? 呪い?
「ハレナがかけたの。困るよね」
「……えーと、ハレナさんって、どちらさん?」
「わしの奥さん」
奥さんって、王さまの? つーことは王妃ってこと、か?
「な、なんで奥さんが王さまに呪いをかけるんだ?」
つーか、呪いかけられる王妃と王ってなによ?
「浮気したから」
ん?
「酷いよね。ちょっと部屋に呼んで愛を語っただけなのにさ」
……ん?
「陸はいいよね。一夫多妻で」
えーと、なに言っちゃってんの?
助けを求めて衛兵や姫戦士に目を向けるが、サッと視線を反らした。え、どーゆー意味!?
「……人魚は一夫一妻制なんだ……」
埒が明かんので王さまに目を戻す。
「そうなの。わし、王さまなんだし、力あるし、奥さんいっぱいいてもいいよね。そう思わない?」
どうなの? と、衛兵や姫戦士に目を向けたら、完全に無関係を装っていた。テメーんとこの事情じゃねーのかよ!
「あ、えーと、どうなのかな?」
なにか答えを間違えたら死を感じたので、取り合えず誤魔化した。
「あーなんだ。一夫多妻も大変らしいよ。奥さんの機嫌とるの」
公爵どのはそれも楽しいと言うが、オレには拷問にしか思えねーよ。
「わし、愛したら愛せるよ。夜も強いよ」
知らねーよ。人魚の秘め事どころか他人の秘め事に興味はねーわ!
「あ、うん。そうか。まあ、飲みなよ」
空になったカップに芋焼酎を注ぐ。秘技、飲ませて反らせ話題を変えろ!
「芋焼酎、旨いよね。美女に注いでもらえたら最高だね」
そうだねそうだねと、どんどん飲ませるが、ザルなんたかなんなんだか、まったく酔わねーな、この王さま。どんだけだよ。
「奥さん好きよ。でも、ハーレムは別問題な訳よ」
一緒だよ! と叫びたいのを我慢して芋焼酎を注ぐ。もうほんと、潰れてよ。オレを解放してよ……。
「美女。いいよね。わし、美女好き。美女と遊びたいのよ。隠れてするけど、奥さん見つけるのよ。怖いよね」
オレは帰りたいよ。帰してくださいよ。
自業自得とは言え、なぜにこんな話を聞かせられなくちゃならんのよ。夫婦間の問題は夫婦間で解決しろや。他人を巻き込むなよ。
お酌マシーンと化してると、突然、背筋に悪寒が走った。
……これ、ヤバいやつだ……。
視界に入っている衛兵を見ると、はっきりとわかるくらい青くなり、視線を床に向けながら震えていた。
……う、後ろになんかいる……。
気配はないが、凶悪な存在は感じる。悪霊もビビって逃げるなにかがいる。
逃げろと自分に命じるが、不可思議な圧力で体が動かない。衛兵の震えが伝染したかのようにオレの手も震えて来た。
「陛下。楽しそうですね~」
声音は優しく艶っぽいが、そこに含まれた感情は修羅のもの。オレにはわかる。これはヤヴァイヤツだって……。
「ハレナ、いたの?」
このプレッシャーに慣れてるのか感じてないのかわからんが、王さまは至って無気力。は! 呪いのせいかっ!
「はい。いましたよ~。ずぅ~っと。お客さまがいらっしゃったのなら呼んでくださればよろしいのに~」
ヤヴァイなにか、いや、奥さんって言ってんだから王妃なんだろうが、そんな軽いもんじゃねーだろう。ある意味、姉御に匹敵するバ──殺気! いえ、なんでもありません。姉御は美人で優しいオレの女神デス。ああ、我が女神に最大の愛を捧げます!
「初めまして、お客さま。クロードの妻でハレナと申します」
オレの視界に入った王妃さま。姫戦士とそっくりで。主に肉体的に……。
「……どうも。オレはベー。村人やってます」
「村人、ですか。陸の村人と言うのは外交までなさるのですか?」
「最上級の村人ならな。人魚の世界ではしねーのかい?」
うん、オレなに言ってんだろうね。自分でもよーわからんわ。
「え、ええ。村人に最上級も最下級もありませんので」
だよね。いたら村人ギルドに勧誘するわ。
「ところで、王妃さまって、戦士なの? それとも呪術師なの?」
見た目は究極戦士ですが。それともボディービルダーですか?
「いやですわ。わたくしは魔法師ですのよ」
ああ、戦って呪えるアレね。知ってる知ってる。
「……ソウデスカ。魔法師デシタカ。それはお見逸れしました」
なににかは知りませんけどね。
「ベー様。あまり陛下に飲ませないでくださいね~。陛下ったら酔っぱらうと女性にいたずらしゃうんですの。わたくしがいながらいけない陛下ですわよね~」
ソウデスネ。ソウオモイマス。
「ベー、助けてよ」
無理です。不可能です。だって王妃さま、ヤヴァイんですもん。
それに、目がイッちゃってる方には近寄っちゃダメってパパの遺言なんだ。ゴメンね、王さま。
「では、王さま。お買い上げありがとうございます。そうだ。今度、我が港にお越しください。友人と会っていただきたいので」
男として見捨てるのも偲びねー。助け船を出してやろう。
「わかった。超いく。約束だよ」
オレの言いたいことがわかったのか、目をちょっとだけ輝かせていた。
「王妃さまもそのときはご一緒に。友人も喜ぶでしょう」
王妃はエリナに任せよう。多分、エリナの管轄だ、この王妃(性格)は。
「では、王さま。また男同士、盃を傾けましょう」
「うん。楽しみにしてるよ」
では、速やかに撤収。あと、呪い返しの結界発動。そして、お祓いできるとこ探さないと。
ほんと、人魚に夢も希望もねー!




