623 ハイヨーモコモコガール!
目覚めたら九時を過ぎていた。
「って夜のかよ!」
まさかのことに思わず突っ込んでしまった。
道理で暗いはずだ。まさか一日以上眠るんだからよ。オレ、変な病気にかかってないよな?
薬師としてね知識をフル動員させるが、まったくわからねー。先生に診てもらうか?
「あ、ベー。起きたのね」
と、部屋の明かりが灯り、プリッつあんが入って来た。ドアを開けて。え、ここどこよ?
「ニュープリトラスの中よ。ヴィアンサプレシア号にベーの部屋ないんだからさ」
……あ、ああ。そうだった……。
ヴィアンサプレシア号はサプルのもの。なのでオレの部屋はいらんと造らなかったんだっけ。寝る場合は転移バッチで帰ればイイと思ってたし。
「……そういや、材料無限増殖してたんだっけな……」
調子に乗ってやってたら午前様になって、メンドクセーからコーランで寝た……はずなんだが、なんでここでいるんだ?
「ミタレッティーさんがニュープリトラスまで運んでくれて、ドレミがベッドに寝かせたのよ」
なるほど。手間をかけさせたようですみません。
「ありがとな、ドレミ」
スライム型ドレミに感謝を述べる。あーよしよし。
「マスターのお役に立てたのなら幸いです」
ぷるぷる振るえるドレミ。ワリー。まだスライムの感情表現がわかりませんです。
「プリッつあん。船は出たのか?」
一日だけの停泊って計画だったが。
「出たわよ。朝一番に。今は、雲の上で投描してるわ」
空の上で投描ってのも変な話だが、夜の海に降りるよりは雲の上にいて浮いてる方が安全だ。
夜行性の竜もいないではないが、雲の上まで来るような竜は昼行性だ。怪鳥類も同じなので雲の上で船を泊めるから投描となる訳よ。
「そうか。なら、問題なく航行してるってことだな」
まあ、黒髪の乙女さんらが護衛してるから襲われても平気だし、フミさんたちが三交代で待機している。これで問題がある方が問題だわ。
「ねぇ、人魚の国って遠いの? なんだか海に飽きちゃったわ」
陸のメルヘンには海のよさはわからんか。まあ、オレも陸の生物なので飽きてますがね。
「そうだな。あと二日ってところかな?」
人魚の距離と人の距離感は違うからはっきりとはわからんが、ハルヤール将軍の話を鑑みて、うちから人魚の国まで約四百キロ、と言ったところか。
今回は航路を開拓しながら進んでいるし、天候や外敵を計算しても三日もあれば余裕と見てる。まあ、遅れたところで支障はない。ハルヤール将軍に行くとは伝えてないんだしな。
……オレの出会い運なら大丈夫だろうしな……。
「眠り過ぎて体いてーわ」
「マスター。お風呂の用意ができてます」
できるドレミに感謝し、ありがたく風呂へと入る。あーイイ湯だな~。
すっきりさっぱりした~。って、今、夜じゃん。すっきりさっぱり目覚めてどうするよ? 昼夜逆転なんて前世で充分だわ。
早寝早起きが今生での目標なのに、これじゃ前世と同じじゃねーかよ……。
とは言っても今さら寝るなんて不可能。完全に目覚めている。最低でもあと八時間は眠れんぞ。
「しゃーない。なんかやるか」
眠れないのにベッドにいてもしかたがない。無駄に過ごすくらいならなんかしてる方が落ち着くぜ。
「わたしも行くわ」
ベッドから起き上がり、作業着に着替えると、プリッつあんがパ〇ルダーオンしてきた。寝る時間だろう?
「お昼寝したから眠くないの」
昼寝したからと言って、夜はしっかり寝ているプリッつあん。まあ、なんでもイイわ。眠くなったら勝手に眠るんだろうからな。オレの頭の上でよ。
構わず部屋を出て、ニュープリトラスを出る。
なんか変な表現だなと思いながら出たところは、サプルの部屋だった。
九時には寝るので部屋は真っ暗――でもないか。ニュープリトラス、全部屋点灯ばりに明るいし。
「ん?」
さて、こっからどうしようかと考えているとサプルの横にあったモコモコの山が動いた。
……あ、モコモコガールだったっけ。羊バージョンの……。
トイレか? と見ていたら、なぜかこちらに来た。寝惚けてんのか?
「……お腹空いた……」
食いしん坊な発言に苦笑するより、羊バージョンでも声出せるんだと、変なことに感心してしまった。
「夕食食わなかったのか?」
不思議なことに夕食の後は食わないのだ、このモコモコガールは。
「食べた。でも、お腹空いた」
「サプルに怒られたりしないか?」
サプルが腹減ってんのに食わせない訳がない。なら、なにか食わせない理由があるはず。それを無視して食べさせられんぞ。
「……怒る……」
しょんぼりするモコモコガール。
「なんで怒られるんだ?」
肥満になるからか? サプル、肥満は敵だって言ってるし。
「口から熱い光出すから」
は? 熱い光? なんだそれ?
「……前、熱い光出して、家、壊すところだった……」
それでなんとなく理解し、頭が痛くなってきた。
突っ込みどころはいっぱいあるが、こんなときのスルー拳。三十倍も出せば……ん? なんか閃いた。
「なあ、モコモコガール。その熱い光って、何回出せるんだ?」
「……多分、今なら五回は出せるかも」
五回、か。そりゃ、食わせないようにするわな。
「よし。内緒でオレが食わしてやる。静かに部屋を抜け出せ」
モコモコガールに飛び乗り、部屋を抜け出した。
フフ。新たな殺戮技が一つ、我が身に宿る。
「……サプルに言いつけるわよ……」
頭の上のメルヘンをサクっと拘束。これで君も共犯者だ。
「ハイヨー、モコモコガール!」
空気の読める子のようで、オレのノリには付き合わず、静かに部屋を抜け出しました……。
なんでこうなったかは知らん。あと、ハルヤール将軍の国、なんて言ったっけ? 何話に書いたっけな。




