表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/1719

4 二つの習慣

 オレには毎朝やる二つの習慣がある。


 一つは朝日に向かって二拍一礼することだ。


 別に昔(前世)が信心深かったってわけじゃない。これはこの世界に生まれ、六歳のころからやり始めたものだ。


 この世界は弱けりゃ死ぬし、死がすぐ横にある。まさに弱肉強食だ。


 警察機構もなければ医療が発達しているわけでもねぇ。剣と魔法の世界らしく魔物は当たり前のように出没するし、盗賊も珍しくもねー。天候が悪くなれば簡単に食料危機だ。


 なのに税は一定ときてやがる。オレが生まれてからはないが、ちょっと昔までなら普通に娘を売るってこともあったと聞く。


 オレには三つの能力があるとは言え、順風満帆に生きてこれたわけじゃねー。死にそうなことにあったのも一度や二度じゃねーし、人が簡単に、理不尽に死ぬところなど六回は見た。


 ここは生きるには厳しいところだ。そんな世界(時代)だから、昔(前世)を覚えているから、わかるんだ。生きている幸せ、生かされているありがたみが。


 そう思う度に感謝したくなる。形にしたくなる。昔(前世)を忘れぬために、昔(前世)のようにならないために、今を生きている証しが欲しいのだ。


 パンパン!


「生きていることに感謝を。そして今日も生きられますように」


 深々と一礼する。


 ちなみに雨が降ろうと嵐だろうと欠かしたことはない。オレには自由自在に操れる結界があるから問題なしである。


 そして、二つ目の習慣は、オトンの墓にお参りすることだ。


 オトンの墓は家を正面から見て右側、大きなレニの木(柳の木っぽいもの)の下にある。


 かまぼこ型の石板にオトンの名前を刻み、力任せに剣を刺しただけの墓である。


 前世の墓と比べたら質素なものだが、この世界の可もなければ不可もない村にしたらまるで英雄の墓並みに立派な墓だそーだ(行商人や冒険者談)。


 まあ、オレにしたらオトンは英雄なので特に反論はねぇ。


 オトンはこの村で唯一の専属冒険者であり、剣も魔法も使え、オーガとも互角に戦えるほどの腕を持っていた。


 だが、そんなオトンでもオークの群れには勝てず、追い込まれて嬲り殺しにあった。


 昔(前世)のオレより若く、父親とも思えなかったが、それでもオレを育ててオレたちやオカンを守ってくれた人だ。


 生きていること以上に感謝もあれば愛情もある。その証を証明するためなら雨も嵐も苦にはならない。


 パンパン!


「オトン。オトンの息子に生まれて本当によかったよ」


 一礼はしない。ただ、笑顔を見せた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] 他の死んだ人は違う異世界に転生したの?それともおんなじ世界?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ