372 気持ちのイイところがそっくりだ
鬼のねーちゃんに案内されたのは、三階(だと思う)の大部屋だった。
広さは二十畳くらいの広さだが、なかなか豪華な造りをしていた。
「随分と、はっちゃけた部屋だな」
電化製品はねーものの、どこのマリーさんが泊まんだよと、突っ込みてーくらいの家具やら設備が揃っている。
部屋の中央には丸型のソファーとクリスタルのテーブル。壁にはアンティークの家具。右側にはちょっとしたバーがあり、左側にはビリヤード台があった。
「VIP用の会議室用さ」
あまり深く考えてのことじゃねーのがわかったので、軽くスルーさせてもらった。
「お風呂とトイレはあっち。ちょっとしたツマミはバーの冷蔵庫に入ってるから。お酒は適当に置いただけだから、追加したいときはこのボタンを押してね。用があるときも押してもらえばいいからさ」
「……まったく、ド田舎に不釣り合いなもん持ってくんなよな……」
会長さんらなんて口開けて立ち尽くしてんぞ。
「まあ、その辺はベーにサクっとお任せ。あと、よろしく~」
と、電光石火で部屋を出ていった。
こん畜生と思いながらも、自業自得とすぐに意識を切り替えた。
「いつまで突っ立ってんだ、まずは座れや」
会長さんと美中年さんの腰を叩いて現実に引き戻した。残り二人は、もうしばらく現実逃避させておこう。メンドクセーしな。
「な、なんなんだよ、いったい! 意味わかんねーよ!」
まあ、海千山千の大商人でもこれを受け入れろと言う方が悪いか。オレだって、いきなり宇宙船の中に連れてこられたら叫びもするしな。
「今の大男は、元魔王で今はこのホテル──高級宿屋の主だ。会長さんらを泊まらす場所がねーからオレが頼んで場所を提供してもらった。それで納得しろとは言わねー。オレも納得はしてねーからな。だが、オレと関わるなら見たものを受け入れろ。できねーと言うならオレに関わるな。全てを忘れて以前の生活をしろ。それがお互いのためだ」
ダチと縁を切るのはツラいが、辛いままに付き合っていても楽しくはねー。なら、すっぱり忘れる方がまだ救いがあるってもんだ。
動こうとしない会長さんらに構わず、バーへと移動し、棚に並べられている酒を見る。
じいさんの酒場同様、ここも前世の酒が並べられていた。
なにがイイかなんて知らねーから、なんか高そうなブランデーをつかみ、コップやらグラスやらが並べられた家具から適当なものを人数分出し、テーブルに置く。
あとはツマミかと、冷蔵庫を開けると、いろんなものが入っていた。
なにがイイかなと冷蔵庫を漁っていると、奥のほうからプリンが出てきた。
「プリン、か。そう言や、バケツプリンを食うのが夢だとか言ってたっけ……」
遠い昔の記憶が蘇り、思わずクスっと笑みが溢れてしまった。
そうだな。どうせ酒飲み連中だし、甘いもんは食わねーだろうし、お土産にもらって行くか。
ついでにエクレアとかケーキとかもいただきますか。タケルやモコモコガールら、喜びそーだしな。
「会長さんらにはチーズとサラミでいっか」
あとは適当に摘まめるものを皿に移してテーブルに持っていく。あ、あと氷か。
適当にソファーに座り、適当にブランデーを注いで氷をいれる。あれ? ブランデーはそのままだっけか? まあ、ダメなら違うのにすればイイか。いっぱいあんだしよ。
チラっと、会長さんを見ると、なにやら決意したような顔になり、美中年さんの腕をつかんでこちらへとやってきた。他二人はそのままね。
向かいのソファーに座り、差し出したブランデーを一気に飲み干した。
「さあ、こい!」
バンとコップをテーブルに叩き付けて叫んだ。
「なにがだよ?」
「話の続きに決まってんだろうが! 他になにがあんだよ!」
コレ、前にもなかったっけ? とか思いながらもお代わりを注いでやる。
「話もなにも、商売相手がまだきてねーんだ、くるまで酒でも飲んで寛いでろや」
「……まったく、お前と言うヤツは……」
ため息とともに会長さんの肩から力が抜け、いつものバーボンド・バジバドルへと戻った。
「それでこそ会長さんだ」
「そうだな。お前と付き合うならあるがままを受け入れんとやってけんか。まあ、常識とかなくなりそうだがな……」
「所変われば品変わるってな、異種族と付き合うならこれを忘れるなだ。お互いの常識を尊重しろ、だ」
「なんだろうな。もっともらしいこと言ってんだが、お前が言うと、わしのなにかが暴れ出してしょうがねーよ」
なんだか本当に暴れ出しそうなんで、ブランデーを勧めて落ち着かせた。
「つーか、なんなんだ、この酒は? 前に飲んだ蒸留酒に似てるようだが……」
まあ、ブランデーも蒸留して造ったやつ。似たような味に……なんのか? よー知らんけど。
「さーな。酒のことはよくわかんねーんでな、自分の好みで飲んでくれや。舌に合わねーのなら、違う酒もあっからよ」
アゴでバーの棚を差した。
「また、見たこともないもんが揃ってやがんな。あれ、全部酒なのか?」
「ああ、全部酒だよ。気に入ったのがあったら好きなだけもらってけ。カイナのことだから全部飲まれてもイイように出したんだろうからな」
じいさんの酒場であれだけ出してんだ、ダメとは言うまい。
「なんと言うか、お前の知り合いだけあって気前が良いんだな。この一杯だけでも銀貨一枚は軽く取れるぞ」
「旨いってことか?」
やっと意識が戻り、目の前のブランデーに興味を示している美中年さんに目を向けた。
「お前からもらった蒸留酒もよかったが、これは何十倍と旨い。これなら金貨十枚出しても惜しくはないさ」
そりゃ随分とお気に入りようだな。まあ、瓶の形から言って、何十万円としそうな感じだけどな。
「……旨い……」
どうやら美中年さんも気に入ったようで、飲み干したコップを見詰めていた。
距離的に届かねーので、ブランデーの瓶を会長さんの前へとずらして、お代わりをくれてやれと目で語った。
「カーベライル様」
ちゃんと通じたらしく、美中年さんにお代わりを注いでやった。
「美中年さんも気に入ったのならお土産に持ってきな。これもなにかの縁だしな」
「……本当に、見た目からは程遠いな、お主は……」
「ふふ。世の中には見た目詐欺があるからな、気を付けるとイイぜ。特に女に多いから注意しろよ」
「くくっ。できればもっと若い頃に教授してもらいたかったな」
そんな冗談を言える美中年さんに、思わず笑みが溢れてしまった。
「そりゃ悪かった。次はちゃんと教えてやるよ」
会長さんからブランデーを返してもらい、身を乗り出して美中年さんのコップにお代わりを注いでやった。
「イイ出会いに乾杯しようか」
収納鞄からブララジュースを出して掲げると、会長さんがそれに続いた。
「ふふ。なるほど。あの祖父がお主に伝言を頼むわけだ……」
自嘲気味に笑う美中年さん。偉大な祖父を持つといろいろ気苦労があんだろうよ。
「大老は大老。あんたはあんただ。オレはそんなあんたも好きだぜ」
まだまだ青いが、大老の血を受け継いでいるだけはある。気持ちのイイところがそっくりだぜ。
「……そうか。わたしもお主が、いや、ベーが好きになったようだ」
「フフ。なら、この出会いに乾杯だ」
「ああ、この素晴らしい出会いに乾杯だ!」
コップと瓶をぶつけ合い、この出会いに乾杯をした。




