251 真の目的
「さて。まずは自己紹介からといこうか」
反論もなけりゃ進行役に不満はないので会長さんにサクッとお任せだ。
「まず、こちらからだ」
と、七人の老人らに目を向けた。
「こちらは王都で有力な商会の会長や代表をしているものたちだ。名前は……いいだろう。どうせ覚える気がないだろうしな、お前は……」
別に覚える気がないわけじゃない。ただ、忘れるだけだい!
「皆もすまんが、こいつは見た目や感じで名を決めるんでな、怒らんでやってくれ。わしも会ってから会長さんとしか呼ばれてないんでな」
「なんだい、名前で呼ばれたかったのかい?」
「フフ。今さら名前で呼ばれんのもむず痒いしな、会長さんで構わんよ」
ならそれでいかせてもらいます。会長さんに愛着あるしな。
「では、そっちの自己紹介を頼む」
と、会長さんにふられたのでそのまま親父さんに目を向けてパスを回した。
「……お前は……」
呆れた目を向けられるが、にっこり笑って受け止めた。
「まあ、良い。おれは、アブリクト貿易連盟代表のブラーニー。知っての通り、数日前までは冒険商人だった男だ」
何人かの老人の口許が動いたことからして何度かは会ってるらしいな。
それで終わりなようなので、ご隠居さんに目を向けた。
「わしはただの隠居じじぃさね。どうとでも呼んでくれさね」
と、部屋の空気が固まった──ように感じた。
「やっぱ、ご隠居さんを知ってる者って少ねーんだな」
これだけのメンツが揃えば一人くらい知っててもイイんだがな。
「わしは隠居。小僧どもではどうにもならんときに出てくるさね」
「過保護だね~」
そんなんだからバカばっかになんだぞ。
「……耳が痛いさね……」
肩を竦めるご隠居さん。自覚はあったんだ。
「お、おい、ベー! ほ、本当にこの方は、隠居、なのか?」
「あれ? 気づいてたんじゃねーの?」
なんかわかったような顔してたじゃねーかよ。
「いや、マフィアの重鎮かとは思ってたが、まさか、隠居が出てくるとは思わねーよ……」
「まあ、会長さんが言ってる隠居で合ってんだろう。だよな?」
「ああ。その隠居さね。よろしくさね」
緊張が走る中、孫にでも挨拶するかのような軽さと温かみのある笑みを見せた。
……まあ、ご隠居さんにしたら皆、孫にしか見えねーか……。
「……ほんと、お前の顔の広さには呆れるわ……」
出会い運がイイからな。まあ、よかったり悪かったりするがな。
「まあ、いい。来てくれたのなら話は早い。マフィア側もそれだけベーの重要性に気がついたってことだしな」
「そうさね。正直、お宅らだけなら顔など出さんかったね。だが、ベーがそちら側についたとなればこちらの立場が悪く、最悪は潰される。終の棲家がなくなるのは困るさね」
別に争う気はねーんだが、まあ、やること自体が宣戦布告みてーなもんか。商売人にはよ。
「オレとしては仲良く、もしくは共存共栄でやってくれっと助かるんだがな」
争いになると完成が遠退くし、気軽に王都にこれなくなる。なによりメンドクセーわ。
「具体的には?」
「商人もマフィアもアブリクト貿易連盟に加入すればイイさ。なんせ、調和を掲げた島だからな」
親父さんを見ると、苦笑して肩を竦めた。
やっぱ、この親父スゲーわ。こうなることを見越して名付けやがったな。
「加入と言っても我々は商人ギルドの一員だ、そんな勝手なことはできん」
「そうだな。他の奴らにも示しがつかん」
問題提起をあげてこちらを揺さぶってくる。
「見習え、マフィア。商人の方が先を見てるぞ」
「……まったくすぎて反論もできんさね……」
オレの言葉に小さくなるご隠居さん。
確実にマフィアをダメにしたのはご隠居さんらなのでキッパリと言わしてもらうぜ。
「国も恐れるマフィアの隠居に説教とか、どんだけなんだよ、お前は……」
「こんだけのヤツだよ。で、だ。ちょっと聞きたいんだが、経済封鎖とか海上封鎖って言葉、あるのかい?」
「経済封鎖?」
「海上封鎖?」
全員が首を傾げてるところからしてねーようだな。
「……その言葉からなんとなくは想像できるが、どう言う意味なんだ?」
「まあ、簡単に言えば武力で物や人を出さなかったり入れなかったりすることだな」
「……えげつないな……」
やっぱ商人。それがどれほどのもんかわかるらしいな。
「会長さんらの心配もマフィア側の不安もよくわかる。だが、それをさせないのもさせるのも双方次第。こちらが口出すことじゃねー。が、それは脅しだ。調和とはほど遠い。加入できねーって言うなら新しい商会を作って加入させればイイ。背後に誰がいようがアブリクト貿易連盟には関係ねーし、そこは親父さんの腕次第。ガンバレだ」
「……やり甲斐のある仕事で嬉しいよ、まったく……」
オレもメンドクセーこと引き受けてくれる親父さんがいて嬉しいよ。
「マフィアは港を開放して協力してくれればイイさ。他の国から運んでくるのも一苦労だしな」
敵対しなけりゃマフィアは安泰。変な欲をかけば滅びる。それだけのことさ。
「まあ、直ぐに決めろとは言わねーさ。まだ島を改造してるとこだし、人もまだまだ足りねー。まだ始まったばかり。これからだ。焦る必要なんてなにもねーよ」
だからこそ付け入る隙があると知らしめる。
この計画の真の目的は、貿易島を造ることじゃねー。全てを巻き込むことにあるのだ。




