184 目指せよ少年
今日は朝からマ〇ダムタイム。
前もあったなとの突っ込みはノーサンキュー。したいときにするのがマ〇ダムタイムなのである。
ラーシュの手紙を読みつつ、脇で投げナイフを創るデンコを指導する。
そんなことをしていたのだが、横道回り道の常習犯なオレ。いつの間にか物思いに耽っていた。
最初は、王都にいったときどこを回ろうかな~だったのだが、どこでどう思考回路が狂ったのか、村のことやエリナのこと、港にタケルにモコモコ族がごっちゃになって、半分意識を失ったかのように異世界を見ていた。
「──ちゃん! あんちゃんってば! あんちゃん!」
と、トータの叫びで我を取り戻した。
……いかんいかん。集中しすぎたぜ……。
両頬を叩き、意識を覚醒させた。
「ワリー。考えごとしてたわ。で、なんだ?」
目の前にいるトータとガブに意識を向けた。
「あんちゃん、ガブに剣を創ってやってよ」
「あん? 剣だと?」
意味がわからんのだが、もっと説明プリーズだ、我が愛しき弟よ。
「ガブとパーティー組んだんだ。だから修行するんだ!」
トータとガブの間でなにがあったか知らんが、スーパー幼児に臆したり嫉妬したりせず付き合えるヤツは貴重だ。なんで反対はしねーが、いつの間にそんなに仲良くなったんだ?
ガブに目を向ければ瞳をキラキラさせ、期待の籠った目をオレに向けていた。
「……えーと、ガブは冒険者になりてーのか?」
「なりてぇだ! おら、トータと一緒に冒険してぇだよ!」
「あんちゃんお願いだよ。ガブに剣創ってやってよ!」
なんと言うか、君たちの間にどんな物語があったの? マジで気になるわ。
「あーまあ、創るのは構わねーが、ドワーフの体格で剣は合わねーんじゃねーか?」
力があり体型がずんぐりむっくりなドワーフの武器は、斧か槌。または短槍だ。剣を持ってるドワーフなんて見たことねーぞ(いや、そんなに見たわけじゃねーがよ)。
「でも、ガブは動きは速いよ。木刀も軽々操ってたし」
「ドワーフじゃ剣は無理だかぁ?」
「あ、いや、無理とは言わねーが、ドワーフの体格……まあ、ドワーフの剣士がいてワリーってことはねーし、なりたいものになるのは本人の自由。オレの言うことじゃねーか。わかった。創ってやるよ」
椅子から立ち上がり、デンコが投げナイフを創っていた砂鉄箱に手を伸ばして剣(サイズ的には短剣だな)を創ってやった。
「ほらよ。ちょっと振ってみな」
「うん!」
剣を受け取ると、これまた軽々と振って見せるガブ。五歳児とは言え、やはりドワーフ。力あんだな~。
それに、言った通り速い。その体格で出せるのが不思議でたまらんよ。
そんなガブの動きを見ていてふっと思う。こいつ二刀流の方がイイんじゃね、と。
まあ、なにか確証があってのことじゃねーが、なんとなくそう思い、もう一振り創ってやり、ガブに渡した。
ヒュンヒュンとなかなかイイ振りを見せやがる。
「イイじゃねーか。将来はドワーフ初の大剣豪だな」
なんてオレの軽口にガブの瞳がキラキラと輝き出す。
「大剣豪! なんかいい響きだな! おら、大剣豪なれっかな!」
「なりてーって気持ちを忘れず、日々努力すればなれるさ」
まあ、動機なんて人それぞれ。純粋な思いが人を動かすのだ。目指せよ少年、だ。
「おら、大剣豪になるだよ!」
「おう、なれなれ。大剣豪の卵よ」
なんて無責任に煽ってやると、二人して『修行だ!』とか叫びながらどこかに駆けていった。
数十年後、ガブはドワーフ初の二刀流剣士にして大剣豪と呼ばれることになるーーかどうかはガブ次第。オレにはわっかりませ~ん。
さて。マ〇ダムタイムの続きでもしますか。