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153 オレは言いました

 ……なんつーか、似たようなこと最近聞いたな、そのセリフ……。


「救ってくれって、村人のオレに言うセリフじゃねーだろ。なに言ってんだ、あんたは?」


 たぶん、こいつらの救ってくれとは安全に暮らせる土地をくれってことだろう。んなもん、この地上のどこにもねーよ。ましてやこいつらのためにオレの一生を使って守ってやるほど酔狂じゃねぇ。オレはそこまでお人好しにはできてねーよ。


「いや、お前に言うセリフだろう」


 なぜかあんちゃんから突っ込みが入る。


「いやまあ、べーの言いたいことはわかる。こいつらにやる土地なんてねぇってことはな。だが、土地はこれから増えんだろう。ジオフロント計画の発案者なんだからよ」


「確かにこれから土地は増えるさ。だが、こいつらがそこに暮らせんのか? これまでどんな場所に住んでたかは知らねーが、どうせ人も寄り付かねー山ん中だろう。しかも、一族だけで何百年とよ。まあ、こうしてオレらと話しているってことは外と多少の交流はあったんだろう。けど、それだけじゃあダメだ。ジオフロントに住むには他の種族を受け入れられる精神がねー種族は入れねー。そんな器量のちいせー種族なんて入れたら害でしかねーからな。エリナが目指すところは多種族国家。神の教えやら伝統よりルール──じゃなく、掟に寄って統治される場所だ。掟を守ると宣誓できるならどんな種族でも受け入れるさ」


 まあ、それをやるのはエリナだが、助けると約束した以上、それを守れねーヤツを入れるわけにはいかねーんだよ。


「お前らにそれができんのか? これまで守り続けてきた掟やら伝統やらを捨てて、新しい掟やら伝統に乗り換えることが? 確かにその掟や伝統やらはあんたらを纏め、ここまでやってこれただけの理由があったんだろうさ。だが、それがいつまでも続くほどこの世は甘くねぇ。強い者が勝ち、弱い者が食われる。悲しいが、それが現実だ。それでも生きたきゃ成長しろ。進化しろ。先にいけねーヤツは亡びしかねーぞ」


 調和? 住み分け? ああ、やれねーとは言わねーさ。できるヤツはできんだろうよ。だが、オレはやり方なんて知らねーし、そんなもの幻想だと思ってる。ましてや人がそれを許すわけがねー。なんだかんだとイチャモン付けて排除しようとするはずだ。


「お前らに先にいく覚悟はあんのか? ねーのなら逃げて逃げて逃げまくれ。運がよけりゃあ、生き残れんだろーさ」


 まあ、その前に苦難苦闘に心が負けなけりゃあ、だがな。


「……なんてことをすぐに判断できんならあんたらの種族はとっくに繁栄してんだろうよ」


 半分人とは言え、その暮らしは獣のそれだ。理性的に、理知的に生きろなんて言う方が間違ってる。たぶん、獣人種の半分は滅びる運命にあるとオレは見る。だってあまりにも汎用性がなさすぎるもの。これで生き残れんならこの星は生命に溢れ過ぎて資源枯渇でどっちにしろ滅びるわ。


 だが、そんな遠い未来を心配して今を捨てるのは余りにももったいねー。


 救うとか救わねーとか別にして、これだけの人(獣)材があれば、アレやコレやができる。さらに生活向上を求められるってもんだ。


「救ってやることはできねーが、仕事を与えてやることはできる。広くはねーし、不便なところだが、土地も用意してやる。生きるための武器や道具も用意してやる。もちろん、働いた対価は払う。それをどう使うかはあんたら次第。怠惰に暮らすのも世界を知るために使おうともオレには関係ねーことだ。勝手にしろだ」


 繁栄するのも滅びるのもこいつら次第。オレの知ったこっちゃねーよ。


「どうする? 今ここで決めろ」


 そろそろ夕食。サプルの料理を食べるのはこいつらの未来より重要なのだ。


「あんたらの神がなんだか知らんが、たぶん、あんたらが信じる神からのお導きだ。その手を払ったら二度はねえ。ここがあんたらの分岐点だ。滅びへか、それとも繁栄かのな」


「随分と肩入れすんだな、あんちゃん」


 まあ、こーゆーお人好しなところもこのあんちゃんのイイところだがよ。


「お前がそう言うときはなにか考えがあるとき。儲けを見たときだ。なら商人として一枚でも二枚でも噛まなきゃ商人なんて名乗れねーよ」


 ったく。ここぞと言うときに商人魂出しやがって。あんちゃんのクセに生意気だ。


「んで、どーすんだ? 受けるのか? 受けねーのか?」


「──受けます! 我々に未来をくださいませ!」


 モコモコダンディが頭を下げると、他も頭を下げた。


「そう言うの止めろ。邪魔クセー。未来を創るのはあんたらだ。オレじゃねー。だが、手伝うもんとしてあんたらの覚悟が知りてー。見せてもらえるか?」


 まっすぐ、厳しい目でモコモコダンディを見る。


「なんなりと」


 思わずニヤリと笑うと、モコモコダンディの目に焦りが浮かんだ。


「なら、全員毛を刈れ」


 と、オレは言いました。

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