133 家族優先主義者
さて。いきたくはねーが、エリナの方を進めんとな。
朝食後、オカンらに出掛けることを伝え、エリナんとこに行く用意をするため武器庫に向かった。
結界鎧は渡したが、武器類は後日と約束していたのだ。
収納鞄に鉄製の剣や槍、弓に矢を詰めて行く。
どれもこれもできは悪く、駆け出しの冒険者くらいしか買わねーもんだが、ゴブリンが持つには充分すぎるくらいのものだ。
「にしても、いずれ役に立つだろうと残していたが、まさか役に立つ日がくるとは夢にも思わんかったぜ」
世の中なにが起こるかわからんもんだな。
武器庫の三割以上を占めていた死蔵品がなくなり、すっきりしたスペースを見て苦笑が漏れてしまった。
外に出ると、完全装備のねーちゃんらがいた。
「どうしたい、ねーちゃんら。今日はゆっくりだな」
だいたい遅くても七時前くらいには出るのに、今日は八時くらいになっても仕事に出てなかった。
「そろそろだと思ってね。いくんでしょう、あのリッチのところに」
「ああ。にしてもよくわかったな?」
今日いくのは三日前(あんちゃんちができた頃な)から決めていたとは言え、それを語ったのは今さっき。家族にしか言ってねー。なんでわかんだよ?
「なんとなく、らしいわよ」
と、三人のねーちゃんらがアリテラを見た。なにやら呆れた感じで……。
短い付き合いだが、ねーちゃんらがファインプレーを見せるときは、オレに災い(理不尽)がくるとき。ツッコミしねーのが無難と学んだ。なので『ふ~ん』とスルーしておくのが大吉である。
「なのでわたしらも付いていくわ」
「いや、なのでの意味がわからんのだが? 別にねーちゃんらがこなくてもイイだろうが。ねーちゃんらの依頼は見回りなんだからよ」
関わりがあるとは言え、エリナのことはオレの問題であって、ねーちゃんらには関係ねー──以前に関わり合ってイイもんじゃねーだろう。汚物と関係あるとわかったら討伐対象になっちまうぞ。
……オレの場合は村長から一任されてるからな、作戦だと言えばなんとでも丸め込めるのさ……。
「わたしたちが行ったら不都合なことでも?」
なんか不機嫌なアリテラさん。あなた最近、情緒不安定ですよ。
「いや、不都合しかねーだろう。汚物──じゃなくて、リッチと関わりがあるヤツに好意的な目を見せるヤツなんていないだろうが」
極当然なこと言ったら、なぜか『あんたが言うな!』的な目で見られた。理不尽な!!
「ま、まあ、きたいって言うなら別に止めねーが、自分の身は自分で守れよな」
か弱い女子供を守るくらいには優しいと自負するが、女ならなんでもかんでも守るほどのフェミニストじゃねー。いくら友人とは言え、一人前のヤツには一人前の対応をするぞ、オレは。
「そんなことは当然よ。できないのなら冒険者失格よ」
「十歳の子供に守られるとか、恥も良いところだわ」
「べーくんから買った装備もあるしね、邪魔はしないよ」
「…………」
なんかアリテラが呟いたみたいだが、生憎オレの耳には届かなかったのでスルーした。
「まあ、勝手にしな」
ねーちゃんらが決めたのならオレが口出すことじゃねーしな。
「あ、でも、ゆっくり歩いていく暇はねーから魔術的移動方法を使うぞ」
言って空飛ぶ結界を出した。
「……また、変なもん出した……」
「……なんでもあり過ぎよ……」
「どんだけ常識にケンカ売ってんのよ」
「……もう勝手にしたら……」
なんか酷い言われようだが、もうなんとでも言ってくださいの心境。気にしな~い、である。
「あんちゃん、おれも行きたい」
と、いつの間にか横にトータがいてそんなことを言ってきた。
「……行きたいって、あの汚物のとこだぞ?」
トラウマ、とまでは行かないが、汚物らに捕まったことがショックだったようで、汚物の話題になるとオカンに抱きついていた。
「……怖いけど、こくふく、する。じゃないとニンジャになれないから……」
いやもう、なんなんでしょうね、この五歳児は。どんな心してんだよ。我が弟ながら末恐ろしいわ!
とは言え、このくらいで狼狽えていたらあんちゃん失格。威厳の八割はやせ我慢でできているのだ、堪えろ、オレ!!
「……それでこそオレの弟だ。しっかり克服しろ」
ニカっと笑って見せると、トータは元気百パーセントの笑顔を咲かせた。
「よし。汚物のとこまで競争だ!」
「うん、負けない!」
よーいドン! かけ声で双方弾丸スタートする。
あん、ねーちゃんら? 兄弟のコミュニケーションの前では児戯にも等しい。オレは家族優先主義者なのだ。