1186 男泣き
夕食が終わり、サプルによるお土産話が開催された。
友達と遊んだーとか、舞踏会にいったーとか、まあ、半分は右から左へと流れ、サプルがうつらうつらしたのでお開きとなった。
時間はまだ九時前なので、もう一読書といくかね。
「ベー。ちょっといいか?」
と、寝室に下がったはずの親父殿が戻って来た。なによ?
「う、うん、まあ、一緒に飲もうと思ってな」
オレ、酒飲めねーよ。と言うのは野暮か。親子の話をしたいって言ってんだからよ。
「イイよ。書斎で飲もうぜ」
ここではメイドの目があるからな。二人っきりがイイだろう。
「ああ」
ミタさんにやすんでイイと目配りし、次にドレミ。プリッつあんは……いませんでした。幽霊は消えててね。
久しぶりに親父殿の書斎に入ると、なんか家具の配置とか酒の量とか変わってんな。
「客が来てんのか?」
変わってるってことは利用してるってこと。誰が来てんだ?
「ああ。冒険者時代の知り合いがな」
A級ともなれば知り合いも多いだろうよ。人付き合いも大変そうだ。
たぶん、カイナーズホームで買っただろう、合成革のソファーへと身を沈める。
「なにを飲む?」
「親父殿と同じのでイイよ」
「訊いておいてなんだが、飲めるようになったのか?」
「飲めねーよ。形だけ付き合うだけだ」
片方がホットミルク飲んでたら締まらねーだろう? 雰囲気は大切だぜ。
「じゃあ、ウイスキーにするよ」
なんでもどうぞ。
カウンターで手慣れた感じに酒を用意する親父殿。書斎を使いこなして……んのか? まあ、親父殿の領域。好きなように使えだ。
酒を受け取り、結界で包む。酒の香りで酔っちゃうからね。
「そう言や、親父殿って冬はなにしてんの?」
雪がそれほど積もらない土地なので、山の者は木を伐るが、集落のもんは内職か海で漁を手伝ったりするな。
「バンたちに剣を教えたり狩りにいったりだな。あと、牧場の様子見、かな」
「やることがあってなによりだ」
「お前はなにしてたんだ?」
「ラーシュに送るもの作ってたり薬草煎じてたり、まあ、いろいろだな」
思えばあの頃がスローライフしてたな~。いや、今でもしてるよ! そうは見えないとか言っちゃイヤだからね。
「冒険もよかったが、こうのんびり過ごすのもいいもんだな」
グラスをかかげて満足そうに微笑む親父殿。百八十度違う生活してるのによく馴染んだもんだ。
「今の暮らしに乾杯、だな」
「ああ。今の暮らしに乾杯だ」
グラスをぶつけ合い、酒を飲み合う──ことはできないんで形だけね。
「ワリーな、酒が飲めない息子でよ」
サプルもトータも酒が飲めるまでまだ時間がかかりそうだし、一人酒に楽しみを見つけてくれや。
「そんなの構わんよ。こうして息子と語り合えるんだからな」
「息子として嬉しいよ」
乾杯で喜びを表現し合った。
しばらく無言が続くが、沈黙もまた酒のツマミ。よく味わえ、だ。
「……シャニラに子が宿った……」
イイ空気が満ちる中、親父殿がポツリと呟いた。
「そうか」
まあ、やることやれば今さらだろうな。
「その、おれは詳しくないんだが、シャニラの歳でも大丈夫なのか? サラニラは大丈夫だと言うが……」
「問題はねーよ。体は丈夫になってるからよ」
「ん? なってる? どう言うことだ?」
あれ? オカンから聞いてないのか?
「前にオレが飛竜を求めたのを覚えているか?」
「あ、ああ。そんなことがあったな。二、三年前、だったか?」
時期はいつでもイイよ。飛竜のことさえわかるのならな。
「あのとき、オカンは心臓の病にかかってた」
「ほ、本当か!?」
心臓の病ってのは結構昔から知られている病で、驚いたことに薬もあるそうだ。まあ、メチャクチャ高額らしいけどな。
「ああ。オレも気をつけていたんだが、末期まで気がつかんかったよ」
ほんと、あのときはこっちの心臓が止まるかと思ったわ。
「な、治ってるんだよな?」
「治ってるよ。なんせ、万病に効くと言う竜の心臓を食わせたからな。オカン、メッチャ元気だろ?」
あれから風邪一つ引かなくなったし、なんか若返った感じだ。
「あ、ああ。オレより元気だ」
なにが? なんて訊いたらダメよ。いろいろ、ってだけ理解してなさい。
「だから、妊娠しても大丈夫だよ。なにかあれば隣に医者がいる。なくした腕すら蘇らせる薬もある。なんら恐れる必要はねーよ。生まれ来る子どもの名前でも考えてろ」
それでダメでも神(?)からもらった転生者たちの力を借りる。もう家族を死なせたりしねーよ。
「……よかった……」
両手を顔に当てて小さく呟く親父殿。オカンは愛されてんな。
男の泣く姿を見るのは失礼と、グラスを置いて書斎から出た。
まあ、思いっ切り泣くとイイさ。




