1147 閃き
──プリッつあんの伸縮能力を使えば猫を二足歩行にできんじゃん!
はぁ? なに言ってんの? 死ぬの?
なんて心を抉るような突っ込みは待って欲しい。まいっちんぐだよマチコさん。
……まいっちんぐが気になる人は勝手に調べてください。オレもよく知らんで使ってるので……。
なんでそんなことを思ったかと言うとだ、まったくわからんと答えるしかない。
おっと。その握り拳を振るうのは早計だぜマチコさん。いや、あなたがマチコさんかどうかは知らんが、進行上、マチコさんでごり押しさせてもらいます。
あなたにもあるだろう。なにかを考えていたら違うことに思いが移り、なにを考えてたかわからなくなって、まあ、どうでもイイとまた違う思考に迷い混んでしまうってこと。
オレも深く考えすぎて、なにを考えたか忘れてしまう。でも思考することは止められず迷路をさ迷うが如く思考する。
で、なんの拍子か、閃きにも近い思考の爆発が起きて、真理を見つけたり答えを導き出したり、または発見をしたりすることがあるだろう。
ねーよ、そんなの。とか言われたらこの話は終わりだが、オレはたまにあるのだから納得してもらうしかありません。
やっと茶猫に長靴を履かせる手立てが……って、そうじゃねーんだよ! 迷路をさ迷いすぎて変な場所に出ちまったわ!
イカンイカン。落ち着けオレ。茶猫に長靴を履かせるために考え込んでたんじゃねーんだよ! この状況をどう打開し、有利に持っていくか考えてたんだよ! 原点に戻れや、アホなオレ!
いやホント、なにが起こってるか説明しろや! と言うマチコさんのためにもパニクるオレのためにも話を一時間前に戻そうではないか。
一時間前、オレたちは生地を売る店で商品を買い占めていた。
朝からずっとだろう。とかの突っ込みはサラッと流して、イイ生地がたくさんあるので、倉庫にあるものまで持って来てもらい、せっせと無限鞄へと詰め込んでいると、誰がやって来た気配を感じた。
「すみません。妖精を譲っていただけないでしょうか?」
なんてことをおっしゃいました。
……ふ~ん。妖精って言う生地があるんだ……。
オレも生地を買うまで知らんかったのだが、生地には名前があり規格があるのだ。
まあ、そう詳しくもなく興味もないので軽く流した。
「あ、あの、すみません」
なんだ? 店員いねーのか? 客が来てんぞ。
「ベー様。あの人、こちらを見て言ってますよ」
あん? なによ、いったい?
詰める手を止めて顔を上げると、侍女風のおねーさんがいた。どちら様で?
「あの、妖精を譲ってください」
「なんでオレに言ってんの? 店員に言いなよ。オレは客だよ」
なに言ってんだ、このおねーさんは? オレが店員に見えるとか目が腐ってんじゃねーの?
「あ、いえ、妖精の所有者があなただと……」
妖精の所有者? あ、買い占めたんだっけ。ごめんごめん。どんな柄のやつだっけ?
「ベー様。そうではなく、プリッシュ様を譲ってくれと言ってるのではないですか」
プリッつあんを? なんでまた?
「可愛いからではないでしょうか?」
プリッつあんが可愛い? アハハ。レイコさんったらご冗談を。あれは小憎らしいって言うんだよ。
「プリッシュ様に蹴られますよ」
結構な頻度で蹴られてるんですけど、あれはノーカンなんですか?
「ってか、プリッつあんを譲って欲しいとか、レヴィウブでそんなこと言ってイイのか?」
種族差別は排除案件じゃねーの?
「妖精ですよ。なにも問題はないと思うのですが?」
不思議そうな顔をする侍女風のおねーさん。あ、そうか。ここは帝国だったっけ。
レヴィウブのあり方に忘れていたが、帝国は人の国。ほとんどが人で、獣人やエルフとかは亜種族として下に見ている国なのだ。
ましてや貴族なら妖精など動物か人形と同レベル。物としか見てねーのだ。
「申し訳ないが、わたしは外国人で、妖精にも生存権がある国の者。譲れと言うのは親兄弟を譲れと言うことに等しい。バイブラスト公爵の客分として今回のことは聞かなかったこととする。お引き取りください」
ピシャリと言い捨てる。
「……バイブラスト公爵の客分……?」
その呟きには答えず、詰め込み作業を再開させる。
侍女風のおねーさんは、しばらく思い悩んだあと、店から出ていった。
「ミタさん。お玉さんに連絡して。いざとなればオレたちは速やかに撤退するって」
「畏まりました。すぐに伝えます」
配下に指示するのではなく、自らお玉さんのもとへと駆けていった。
まったく。考えが浅はかすぎたな。いや、これは出会い運がなせたことか? となれば次は本命が出て来るかもしれんな。
「……ベー……」
頭の上にパイル◯ーオンするプリッつあん。らしくなく萎えてんじゃないよ。いつものようにはっちゃけてろや。
「なに一つ気に病む必要はねー。オレに任せろ」
これは誘い。軽いジャブ。こちらへ接触して来る前触れ。本番はこれからだ。
と、考えに入り来んで、なぜか茶猫を二足歩行にする手段を思いついたんですよ。わかった?




