1126 めでたくねーめでたくねー
見た目は堅そうな伯爵だったが、話していくうちに砕けてきて、素の顔が出て来た。
「べーはおもしろいな。まるで同年代と話しているかのようだ」
「それは伯爵の器が大きいからですよ。わたしのような子どもにも壁を作らず、受け入れてくれる方は本当に少ないですからね」
これがオレの出会い運の極致とも言ってイイだろう。こう言う身分がありながら村人(いや、今は貴族だと思わせてるけどね!)を受け入れてくれるタイプはなかなか現れない。今のところ公爵どのと大老どのくらいだ。
「ん? なんだ?」
ゼロワン改+キャンピングカーを先導する守備隊の隊長さんが片手を上げ、横に下ろした。なによ?
「速度を落とせと言う合図だ」
「あれは、帝国標準の合図なので?」
「帝国と言うよりは軍標準だな。それも中央よりの……」
オレにはその違いがはまったくわからんが、見る者が見ればわかる違いがあるらしい。
ゼロワン改+キャンピングカーの速度を落とし、五十メートルほど進むと、大森林(仮)が唐突に終わり、なにか別世界に入ったように青空が広がっていた。
「……これほど大規模な結界は珍しいですね……」
と、レイコさんがコソッと耳元で囁いた。
オレとは違う方法で敷かれた結界だが、極めればこんなこともできるのか。オレもガンバらんといかんな……。
「べー」
と、伯爵の声で我を返し、守備隊の隊長が別の道に入ったことに気がついた。あぶねーあぶねー。余所見運転ダメ。絶対。だな。
「どこに続く道でしょうかね? 先ほどとは違い、あまりよくない道ですけど」
先ほどの道はよく整備されてまったく凹凸がなかったのに対して、今の道は農道のように凸凹になっている。
「たぶん、レヴィウブで働く者か業者が使う道かもしれんな。客に裏を見せないところだから」
それはつまり、オレたちも見せたくないってことじゃね? とか思ったけど、それを見て百八十度考えが変わった。
……そりゃこれは見せれねーわ……。
なにか城のような建物の玄関前に、従業員と思われる黒服の男女二十数名が並び、その中心にマダムシャーリーとお玉さんが立っていたのだ。
レヴィウブの顔とされるマダムシャーリーだけなら驚きはなかったが、影の支配人たるお玉さんまで出るなど、見せられるこちらが迷惑だわ。
「伯爵。言わなくてもわかるだろうが、これからのことは見なかったか、忘れたほうが無難だ。それは、家族や配下にも厳命しとけ。しゃべったら碌なことが起きねーぞ」
思わず素で言っちまったが、この緊急性を考えたら穏やかになんて言ってらんねーよ。まったく、はた迷惑とはこのことだぜ。
「わかっている。あれを見て察せれないようでは貴族失格だ。バーユン、ナザリム。これからのことは生涯口を閉じろ。御家断絶級の秘密事と思え」
「……は、はい。わかりました、父上」
長男のほうは言葉にできたが、次男のほうは頷くだけで精一杯。だが、理解してるだけ立派だろう。伯爵はイイ教育をしてるぜ。
「あと、偽っていたことを謝罪するよ。こっちが本当のオレなんだわ」
「そうか。演技が上手いものだ」
この状況で笑える伯爵に最大の敬意を。そして、この出会いに乾杯だ。
玄関前はロータリーとなっており、城から見て左側から回り込むようだ。
ゆっくりと進み、お玉さんとマダムシャーリーの前でゼロワン改+キャンピングカーを停止させる。
さすがにゼロワン改のドアの開け方は知らんだろうから、こちらから全ドアを開かせた。
「久しぶり、でもねーが、また遊びに来させてもらったよ」
「いらっしゃませ、べー様。またと言わず毎日でもお越しください。わたしどもはいつでも歓迎いたしますわ」
マダムシャーリーが上品に笑って歓迎してくれた。
「いらっしゃい。悪かったわね、迷惑をかけて」
幽霊とは思えないくらいはっきりと姿を見せてるお玉さん。それはキャラの濃さか? それとも我が強いからか? その二択以外認めねーんでよろしく。
「別に迷惑なことなんてねーんだがな」
馬車の脱輪や故障など日常茶飯事。文句を言っているようではこの世界で旅なんてできねーよ。
「そうもいかないわ。レヴィウブで起こったことはレヴィウブの責任。否定したらレヴィウブの尊厳と理念が崩れるわ」
なんとも誇り高き幽霊だこと。いや、怨念からか? うーん。あまり深く考えるのは止めておこう。呪われたら嫌だし。
「そうかい。それならオレは口は出さんよ。後ろに病み上がりの夫人がいる。手厚く迎えてやってくれ」
キャンピングカーのドアを開かせる。
「もちろんよ。ウイルトン伯爵。あなたと家族には多大な迷惑をかけたことをレヴィウブを代表して謝罪します」
お玉さんが頭を下げ、続いてマダムシャーリー、従業員が頭を下げた。うん、それはもうイジメだよ。
「あ、いや、大事にいたらなかったのでそれで充分でございます! 頭をお上げください!」
口調が目上の者に対するものになっているが、まあ、無理はなかろう。帝国中から貴族が大から小まで集まり、レヴィウブのルールで運営されている。その意味がわからないようでは貴族以前に生き物して失格だわ。
「ありがとうございます。お詫びとしては心苦しいのですが、伯爵ご家族には最高級のおもてなしをさせてください」
お願いと言う名の命令に逆らえるわけもなく、伯爵とその家族は最高級と言う名の監獄へと連れていかれた。
無事、いや、生きて帰って来れるようアーメンソーメンミソラーメンと祈っておこう。
で、残されたオレはと言うと、だ。なぜかマダムシャーリーの部屋へとしょっぴかれてしまいましたとさ。めでたくねーめでたくねー。




