1124 二人の伯爵
ドレミが怪我人を治療してる間、おれは伯爵二人と挨拶を交わした。
「ヴィベルファクフィニー殿のお国はどちらで?」
まあ、立ち話もなんなのでと、テーブルと椅子、そしてお茶を出して歓待する。
「アーベリアン王国ですが、帝国の方には六ヶ国同盟国群、と言ったほうが聞き覚えがあるでしょうか?」
帝国は広い。貴族も多い。外国と貿易するところならまだしも帝国内で完結している者にはアーベリアン王国と言ってもわからんだろう。
もっとも、六カ国同盟国群もどっこいどっこいの知名度だとは思うがな。
「……すまない。どちらも名を聞いたことはない」
「わたしもだ」
申し訳なさそうな顔をする両伯爵。ってことは、伯爵の中では下位のほうか? それとも田舎のためか……まあ、なんにしろ、帝国では重要な地位にはいないってことだ。見た目年齢も三十半ば。継いで間もない感じっぽいし。
「お気になさらず。帝国は広く、世界はもっと広い。わたしも両伯爵の地名を聞いたところでわからないと答えるしかないのですからお互い様です」
地図も出回ってない世界で、あますことなく小国や小領地を知ってるヤツなんか皆無。逆にいたらびっくりするわ。
「……君は、大人びているな……」
「見た目通りの年齢か?」
「見た目通り、十一歳ですよ。大人びているのは幼い頃、父を亡くしたからでしょう。一家の長として家を回していましたから」
別に珍しい話ではねーのに、なんとも申し訳なさそうな顔をする両伯爵。人がイイんだろうが貴族として大丈夫なのか? 演技だったら大したもんだけどよ。
あと、そこのメルヘンさん。その「うわ~」って顔は止めなさい。こっちは必死で演技してんだからさぁ~。
「ところで、この道をいくと言うことは、お二方もレヴィウブへ? 前回は公爵様に連れて来ていただいたので周りの景色を見てないもので、この道でよいか不安になっていたところなのですよ」
ついでだし聞いておく。
「ああ、この道で合っている。他にもレヴィウブへ続く道はあるが、ここが一番よい道なのだ」
「まさかその道で車輪が外れようとは。まったくついていない……」
車輪が外れたほうの伯爵が深いため息をついた。まあ、わからなくはないな。タイヤがパンクしただけでも嫌になるのに、ケガまでしたら泣きたくなるわ。しかも、自分の嫁ではな。お気の毒としか言いようがねーわ。
「レヴィウブへ連絡を走らせたのですか? 見るにレヴィウブの領域? 敷地? だとは思うのですが?」
この道と言い、獣の気配がない大森林(仮)と言い、完全に人(外)の手が入っているとしか言いようなないくらい静かだ。それに、なにか大森林自体に不可思議な力が纏っているような気がする。たぶん、美魔女が使っていたような特殊結界だろう。
「レヴィウブの敷地ではある。たぶん、守備隊がそろそろ来るはずだ。ただ、広い故に時間はかかるとは思うが」
まあ、あのお玉さんやマダムに抜かりはねーだろうが、広さだけはなんともし難いか。補うために自ら動くってタイプって感じでもなさそうだしよ。
「マイロード。夫人の治療が終わりました」
と、音もなく美人型ドレミが戻って来た。
「ご苦労。で、夫人の容態は?」
「傷は完治しました。今は落ち着かせるために薬で眠らせております」
「──傷は! 傷は残るのか!?」
車輪が外れたほうの伯爵が声を荒げて席を立った。
「我がゼルフィング家の薬師は優秀です。そんな三流な治療はいたしません」
恭しく一礼しながらそんなことをおっしゃるドレミさん。
うん。遠回しにオレを褒めてくれるのは嬉しいが、そう持ち上げられても困ります。薬師にも限界はあるってことを忘れないでください。
「お館様。守備隊が来ました」
今度は無事なほうの伯爵の騎士が守備隊が来たことを告げに来た。
両伯爵が席を立ち、車輪が外れた馬車に向かったので、オレもついてってみた。
守備隊? なるものは三名一組の、騎士風の格好をしていた。
馬も華美ではねーが、騎士だと言えば大体の人が信じるくらいには立派な体格をしており、馬も馬具もよく整備され、守備隊の動きからも練度の高さが垣間見れた。
「遅れて申し訳ありません。状況を教え願いたい」
隊長らしき男が両伯爵から説明を受け、守備隊はすぐに医療班と代えの馬車を呼ぶことを伝えた。
が、オレらがここに来て二十分くらい。なにか通信できる魔道具なりこちらを見る魔術があるなら二十分くらいで来るだろうが、なければ往復で四十分はかかるってことだ。
完治させ、薬で眠らせたとは言え、野外に置くのは薬師として許容できねー。許せるヤツはここに来てオレに殴られろ、だ。
「もしよければわたしのでお連れいたしましょうか? 四名でしたら充分な広さもありますし、夫人を寒空の下で寝かせるのは体に悪いでしょうから」
どこの誰ともわからぬ者に預けるのは不安だ、と言うなら薬師としての矜持は無理にでも引っ込めるけどよ。
どうなさいます? と車輪が外れた伯爵に目で問うた。
「それがよろしいかと思います」
と言ったのは守備隊の隊長らしき男だ。
「この時期ですから馬車を用意するのに時間がかかりますので」
この時期? なんの時期だ?
「そのほうがよろしいのでは?」
「そうだな。では、お願いしてよろしいか?」
両伯爵にはなんの時期かわかるらしく、すぐに決断を下した。
「お安いご用です。では、乗り物を回して来ます」
恭しくお辞儀してゼロワン改+キャンピングカーへと戻った。




