1114 ご招待
──ヨウテンイキ。
レイコさんの説明によれば、ヨウテンイキ──妖天域とは妖狐族が使う、結界術みたいなものらしい。
オレが感じたと言うことは、魔術や精霊術の類いではなく、神よりの力なんだろう。
「妖狐族、もう滅びていなくなったと聞いてたのですが、生き残りがいたようですね」
たぶん、その情報源は先生からだろう。オレも妖狐族の話は先生から聞いたからな。
「なんの結界なんだ? やたら薄い感じがするが」
オレもよく気がついたな、と言いたくなるくらい薄く、集中しないと感じ取れないくらいなのだ。
「たぶん、一種の防犯装置、みたいなものでしょうかね? 妖狐族は千の眼と千の手を持つとも言われ、自分の住処内のことはなんでも見通すそうですから」
それが本当ならオレたちのことは筒抜け、ってことか……。
「……これは、相手が接触して来た、ってことかな?」
なんのためかは知らんし、カイナが気がついた様子はなかったことから見て、そう思うほうが自然だろうよ。
「だと思います。カイナ様から隠れ抜くことは不可能でしょうし、押さえているとは言えあの魔力を前に隠れていられる豪胆な者はいませんよ。ましてや魔王軍に匹敵する集団がいるんです。心中穏やかでなんていられません」
まあ、そりゃそうだ。オレだって怒れるレディーが集団で近くにいると知ったら全速力でドロンさせてもらうわ(たとえが悪くてすみません)。
「なぜそれでオレに接触して来るかね?」
カイナのところにいけよ。オレのところに来んなよ。オレ、関係ねーじゃん。
「それはベー様がこの都市を掌握し、カイナ様と同等どころか抑えているようにしか見えません。どちらに接触するかなんて愚問でしかありませんよ」
愚問でもイイから違う答えが欲しかったです……。
「諦めてください。ベー様の業です」
そこは運命と言って欲しかった。業ではオレに責任があるみたいじゃんかよ。
……あぁ、神様。この常時発動している出会い運にON/OFFできるようにしてください……。
──諦めよ。
とか聞こえような気がするが、きっと幻聴なのでサラッと流しておこう。そして、気を取り直して現実を見よう。きっとそのほうが心の負担が軽いはずだ……。
「チャコ。ここまででイイ。こっからはオレたちだけでいく。それと、オレからの依頼だ。ガキどもを使ってバルグルの実を集めてくれ。酢漬けでも酢漬け前でもイイ。今後のために孤児院を富ませろ」
今使えなくてもいずれ使うために。それが仕込み道の基本である。いや、テキトーだけど!
「……ベーってそつがないわよね……」
「大雑把に生きられるほど単純な世じゃないからな」
悠々自適に、平々凡々に、今日と言う日を楽しく過ごしたいのなら、今日と言う日の数時間を未来のためにも使うのが賢い生き様なんだよ。
「冒険者に言ってもしょうがねーが、もうちょっと計画的に生きろ。ましてやS級を目指すなら援助者は多いほうがイイ。人との出会いや繋がり金貨百万枚にも勝り、窮地に陥ったとき、己を救ってくれるもんだからな」
まあ、一種の保険だが、あるとないとでは心の持ちようが違う。貯金がないより合ったほうが安心するのと同じ理屈だ。
「なんて言葉を飾ろうが、これは偽善であり打算でありエゴでもある。自分を守るために悪になれ。だが、人からは善と見られるように注意しろ。なんたって人は善が好きだからな」
オレは人が善き者とは思わないが、悪の者とも思ってねー。ただ単に都合のよい生き物だと思っている。
善が多ければ善に傾き、悪が多ければ悪に傾く。たまにどっちつかずがいるが、まあ、そんなヤツに世の天秤を傾けることはできねーんだから無視──とまではいかずとも傾きが強くなってから対処すりイイさ。
「……あんたはどこの裏ボスよ……」
「フフ。イイ褒め言葉だ。そうなれたらおもしろいだろうな」
オレなんてまだまだ。裏ボスの下っぱがイイところさ。
「まったく、ベーには勝てないわ……」
「そうかい? チャコだってがんばればオレくらいにはなれるさ。踏まれても枯れない花ってのは厄介だからな」
しぶといやへこたれないってのは脅威でしかねーが、咲き場所がオレの領域でなければ好き勝手に咲き乱れろ、だ。
「わかった。ベーの忠告に従っておくわ。先達の声は金百貫の価値があるからね」
……こいつ、絶対昭和生まれだな……。
「じゃあ、あたしたちはあたしたちの冒険を続けるわ」
そう爽やかな笑顔でチャコたちが去っていった。
「……ベー様。通りから人が消えました……」
ミタさんが銃を出して辺りを警戒する。
「妖天域が強力になりましたね」
もう隠す気もねーってことだろう。やれやれだよ……。
ため息一つ吐くと、数メートル先に牛の首でもねじ切れそうな厳つい婆様が現れた。
……普通、この場合、幼い子か美女が現れるもんじゃね……?
とか思うオレの感性が間違っているのだろうか。いや、ノーと叫ぼう。間違ってんのはテメーらだ!
と叫びたいところだが、空気の読めるオレは黙って流れに身を任せるのでした。
「御姉様がお会いしたいそうだ」
「女性からのご招待と合っては嫌とは言えんな。よろこんでお会いしましょう」
優雅にして華麗に一礼してみせた。が、相手はシャイなようで鼻を鳴らすだけだった。
「こっちだ」
あいよと肩を竦めながら答えた。




