1106 バルグル
「……これか、ハルメランを支えているバルグルってのは……」
聳え立つサボテン(っぽいもの)を見上げながら呟いた。
高さは三メートル。太さはオレの胴体くらい。華奢に見えるが、触ったら結構頑丈そうだった。ちなみにトゲはなく、表面はザラザラしている。
「これがなんなの?」
「ハルメランの主幹産業の元だ。春になる実は酒に。夏になる実は油に。秋になる実は食料にとなるマジカルな植物だ」
「変な植物ってことね。うん? 冬は実が生らないの?」
「生りはするらしいが、カスカスで燃料にしか使えないんだとよ」
まあ、一年中使えると言えば使えるんだろうが、寒い中出て来てまで収穫はしたくないな。薪は他の都市から運ばれて来るんだからよ。
手が届くところの実を一つ採ってみる。
「軽いな」
サイズとしてはレモンくらい。だが、本当にスカスカのようでスポンジより軽かった。
「にしては固いこと」
オレの力ならレモンも石も誤差みたいなもんだが、ものの固さはちゃんとわかる。これはリンゴくらいの固さはあるぞ。
まったく持ってマジカルな実である。でも、燃やすにはちょうどイイかもな。
「ぴー」
「びー」
潰した実を放り投げたら、ピータとビーダが奪い合いを始め、ビーダが勝って実を食べてしまった。
「ぴー! ぴー! ぴー!」
悔しいのか食べたいのかはわからんが、ピータがオレを見ながら鳴き叫んでいる。
実を採り、ピータに投げてやると、パクンとキャッチ。なんとも旨そうに食い始めた。
「よし、プリッつあん食え」
「食うか、ボケ!」
頭上に投げた実をオーバーヘッドキックで返して来るエースストライカー。君なら世界を目指せるぜ!
「ぴー!」
「びー!」
もっとよこせとばかりに鳴く二匹。そんなに旨いのか、これ?
黒丹病で採る者もいないから実は鈴なりに生っているし、採らなければ自然に落ちて土に返るとか。なら、二匹のエサにもらっても構わんだろう。
無限鞄からざるを出し、二匹のために採取する。
「あたちもお腹すいた」
「お前は食わんのか?」
「これ、あたち食べれない。昨日のが食べたいでち」
まあ、見た目はともかくウパ子は肉食だしな、カスカスの実は食わんか。
「食いたいと言っても全然気配がねーしな~」
キャンプ地を出て二時間。まったく持って遭遇できないでいる。根絶やしにしちゃったのかな?
「あっちから匂いがするでち。いっぱいいるでち」
よかった。根絶やしにはしてないようだ。ってか、コーヒーモドキに逃げたのかな?
「メイドさん。この実を収穫してくれ。背負い籠二十個くらいでイイからよ」
三人のメイドさん以外に八人の武装メイドさんと通常メイドさんが六人いる。
なぜその体制かはサラリと流すとして、オレの護衛や世話はイイから収穫してちょうだい。そのほうが何倍も嬉しいわ。
「畏まりました。集めたものは船に運んでおきます」
そうしてちょうだい。あとで纏めて無限鞄に放り込むからさ。
「ピータ、ビーダ。あとでいっぱい食わしてやるからいくぞ」
こいつらは溜め食いができるし、内ポケットには非常食(薪や草ね)を入れてある。なら、このカスカスの実も入れておくか。
「早く早く!」
そう急かすなウパ子よ。獲物は逃げ……たかも知んないけど、我ら狩る者からは逃れられねー。油断せず気配への感覚を研ぎ澄ませておけ。
「ん? カイナーズのヘリか?」
ウパ子を先頭に獲物を追っていると、編隊を組んだヘリが飛んで来た。
「ベー様。カイナーズより連絡で、烈竜が出たそうです」
「烈竜? なんだそれ?」
そんな竜、この大陸にいたっけ?
「申し訳ありません。こちらではワイバーンと呼ばれているものです」
あ、ああ。ワイバーンね。それならいっぱいいるわ。ってか、冬に出るなんて珍しいこと。エサがなかったのかな?
この世界のワイバーンは基本、冬眠をする。しないときは天候不良やエサとなる生き物がいなくて、冬眠するだけのエネルギーを溜められなかったときだ。
「ベーが滅ぼしたアレね」
事実だけに反論できん。だって肥えたワイバーンは人を魔物に変えるんだもん。しょうがないじゃない。
「ワイバーン、美味しいの?」
「う~ん。越冬するワイバーンはどうかな? あんまり旨くねーかもな」
油は乗ってないだろうし、手間をかけて狩るほどの価値はねーと思うな。
「来年、肥えた頃に来たほうが旨いと思うぞ」
ワイバーンの肉は滋養強壮にイイ。来年のお楽しみ、だな。
「こうしてワイバーンの全滅は免れたとさ。めでたしめでたし」
なに失敬な物語を創ってんだよ。オレは一度した失敗は二度としねー男だ。今度は半分だけ狩ります。
「ベー! 美味しいのいたでち!」
今はワイバーンよりクエオルだ。さあ、じゃんじゃんバリバリ狩りましょうか!




