1093 都市を覆う影
石造りの街の中を軍用車輛が列をなして走る。
まるで戦争映画の一シーンのような状況である。その場合、高いところからロケットランチャーとかで狙われてる事が多いよな。
……しかし、前世でも経験するのが難しいのに、異世界で経験するとか夢にも思わんかったわ……。
あまり、いや、ほとんどと言ってイイくらいミリタリーに詳しくはないのだが、軍用車輛ってドライブには不向きな車だよな。
窓が小さい上にオレ真ん中の席に座らされたため、街の様子がさっぱりわからん。これなら馬車を用意してもらうんだったぜ。
「街に人の姿はあるかい?」
右側に座るミタさんに尋ねる。ちなみに左側は武装したカイナーズの男だが、ガスマスクしてるので種族は不明です。でも、体格から言って鬼族の男だろう。
さらにどうでもイイことだが、運転手はなぜかカイナがやってます。
カイナーズの代表が運転とかイイの? とか聞いたら、運転は他人に任せないタイプなんだってよ。
「はい。それなりにではありますが」
まあ、滅びの一歩手前までいったんだからいるだけマシだろうよ。
「ただ、なんでしょうか? 街の者の表情が怯えているように見えます」
どれ? と見たいところだが、挟まれる形なので見ることはできません。ほんと、不便な車だ。
「あー、それはおれも気になってた。まるで切り裂きジャックでもいるかのようだよ」
お前の例えがよーわからんわ。お前、平成生まれの高校生じゃなかったのかよ。なんで十九世紀のイギリスを知ってんだよ! まあ、オレも映画でしか知らんけど。
それはともかくとして、なにか危険なフラグを立ててしまったようなこの不安はなんだろう? いや、不安はこの都市に来てから感じていた。
カイナの例えじゃねーが、都市全体を包むような闇だか、影だかが、覆っているように感じたのだ。
……そもそもトータたちがここにいることが引っかかってんだよな……。
まあ、聞けばイイだけのことなんだが、オレの勘が都市を掌握しろと囁いたのだ──とは冗談だが、なにかあった場合を考えて掌握したまでなんですけどね。
「……なにか、気になることでもあるんですか?」
考えて込んでいたらミタさんが不安そうに尋ねて来た。
「……七歳の頃かな? 種蒔きの時期から雨が降らず日照りが続き、川の水も渇れた年だった。うちは薪で税を払うから問題はなかったんだが、山の畑にも影響が出て軽い飢饉に陥ったんだよ」
突然の昔話に車内が戸惑い色に染まるが、オレは構わず昔話を続けた。
「うちはオトンが死んでから食料は貯めるようにしたから三年くらい飢饉に陥ろうと平気だが、村はそうはイカンし、オレも村を見捨てる気はねー。村の連中を懐柔するために使ったんだわ。けど、利用されるのも困るから量は僅かにしてた」
七歳では山の集落を掌握するのが精一杯だったのだ。
「村長や長老衆が集まって話し合いが行われた。そこでオハバが言ったのさ、これはゴガが出たかもしれんと」
そこにオレがいることはスルーしてください。
「ゴガ? なにそれ? 魔物?」
運転中に振り向くんじゃねーよ。前見ろ。
「カイナには東洋の龍と言えばわかりやすいだろう。ヘビのような体で頭にはツノ。髭が生えててなぜか手には玉を持っているっての言う龍だ」
「いるの!? 龍っ!」
だから前を見ろ。振り向くんじゃねーよ。
「ラーシュがいる南の大陸ではたまに見られる存在らしい」
「つまり、ルククの様に渡って来た、ってこと?」
「はっきりとは言えねーが、この大陸で見る竜──ドラゴンタイプはほとんどが南の大陸から来たものだ」
まあ、オレの推察と想像が六割ほど占めてるがな。
「あー確かにこの大陸って竜は少ないよね」
オレは少ないと思えないくらい遭遇してるがな。もうドラゴンスレイヤー(あ、サプルもね)と名乗ってもイイくらいに。
「オハバも子どものころに御伽噺的に聞いたから真実かはわからんと、冒険者ギルドに調査を依頼し、運悪く村に来ていた冒険者パーティーが受けたわけだ」
「その言い方だと、誰も帰って来なかった、だね」
「ああ。丸焦げになってた」
「……べーが見つけたような口振りだね……」
「そのとき偶然にも老魔術師が訪れて、オレが案内した」
っ形にしました。あと、七歳の子どもに、とかの突っ込みはいりません。スルーしてください。
「……べーは昔からべーだったんだね……」
永遠の十六歳みたいなお前には言われたくねーよ。
「ともかく、そのゴガがここに出た、ってこと?」
「違う。この感覚はあれだ。なんつーか、獲物だと思ってたら実はこちらが獲物でした、って感じかな?」
天候を操るとかマジ反則。結界がなかったらマジ死んでたわ。
「べーが言うと洒落にならないから笑えないよ」
「オレは狩ったり殲滅したりは得意だが、戦いの才能はねー。だから用心のために──」
と、ジャケットの内ポケットからピータとビーダ、そして、ウパ子が出て来た。
「ぴー!」
「びー!」
「臭いのが来る!」
いたんだ!? ってびっくりするよりオレの考えるな、感じろがざわりと震えた。
「ブレーキ!」
そう叫ぶとすぐにカイナがブレーキをかけた──その瞬間、車が吹き飛ばされた。




