1089 味方は大事
お嬢さんを正式に市長代理にするべく上層部の面々に委任状を無理矢──進んで書いてもらい、ついでに辞職願いも書いてもらった。
ハイ、これにてこの都市、ハルメランの市長代理に任命されました。拍手~。
「……本当にいいのでしょうか……」
まだ良心があるのか、不安を漏らすお嬢さん。まあ、千里の道も一歩からって言うし、一歩一歩悪逆非道になっていけばイイさ。オレも昔は優しい男の子だったしな。本当だよ!
「そりゃダメに決まっておる。相手の意思を踏みにじるばかりか人生を台無しにしておるんだからな」
これがイイことなら世に悪事はねー。誰がなんと言おうオレらは悪いことをしているんだよ。
「非常事態には超法規的な行動で対応する。それが許されないと言うなら代案を出せ。その方法しかないと言うなら全権限と全責任を渡してやるよ」
こいつらに代案など出せるわけもないし、無能をさらした結果がこれだ。協力してくださいと言われても全力で拒否するわ。
「わしは、こんな無能な小悪党とつるむ気はない。つるむなら優秀で計算ができ、お互いの利を求められる者がよい」
片方が損する関係など早々に破綻する。長い付き合いをしたいなら互いの利を考慮したりされたりのほうが長く付き合えるものさ。
「不思議なもんで悪逆非道だからこそ救える命があり、得られる利がある。無償の愛なんぞで人が救えるか」
神ですらできないものが人なんぞにできるか。人は人にできることを成せ。そして、オレはオレにできることをやるまでだ。
「お嬢さん──いや、市長代理殿。まずは城にいる者に薬を飲ませる。煎じてる間にこの疫病が黒丹病であることを教え、それを癒す薬があることを教えなさい」
まずは城を掌握する。
「あと、部屋を二つ──いや、三つ用意してくれ。ダメなら外でもよい。わしらの拠点にしたい」
「わしら、ですか?」
「黒丹病が起きた場所に単独でとかアホがすることじゃ。十数人で来たんじゃよ。ただ、種族が違うんで都市からの許可をいただきたい。無用ないさかいはしたくないんでな」
もちろん、危害を加えられたら反撃はするがな。
「わかりました。すぐに用意します」
「いいかい、市長代理殿。これは、あんたの地位を築くもんでもある。自分に従う者や逆らう者を見極め、味方となる者を引き込むんじゃ。あんたは今、黒丹病の薬を一手に握るばかりか、どんな怪我や病気も治せる薬師が味方してるんじゃからのぉ」
エルクセプルが入った箱を出してテーブルに置いた。
「伝説の秘薬エルクセプル。これ一つのためにいくつの国が滅びたことやら。わしならいくらでも作れるんじゃがな」
この大陸に住む者ならエルクセプルの名は寝物語に聞いたことがあるはずだ。帝国にも知られているもんだしな。
「──頼む! それをおれに譲ってくれ! 娘が死にそうなんだ!」
おやまあ、なんとも好都合なことに欲しい方がいらっしゃいましたよ。
「もちろんやるとも。市長代理殿の味方だからのぉ」
街を知る隊長さんは是非とも市長代理殿の味方でいて欲しい。実働部隊は大切にせんと。
「これは隊長さんにやる。信頼する部下に渡してやるとよい」
さらに二箱出し、使用上の注意を教える。
「食料が必要ならそれも用意しよう。都市のために働く者は大事にせんとならんからのぉ」
自由平等博愛なんぞない世界では縁故、贔屓は当たり前。なんら悪いことではないのです。
「ありがとうございます!」
箱を大事に抱えながら頭を下げ、部屋を出ていく隊長さん。転ぶなよ。
「市長代理殿にも渡しておこう」
有効に使いなされ。
「ありがとうございます」
お嬢さんも大事に箱を抱えて出ていった。
はぁ~。まったく忙しい夜だ。このまま眠りにつきたいもんだぜ。
「マイロード。お待たせしました」
気を許しそうな瞬間、ダイナマイトボディーな美女バージョンのドレミが三人現れる。
「ドレミか?」
いや、どれもドレミではあるんだが、なにか本体(?)のような気がしたのだ。髪の色は黒だが。
「はい。ドレミです」
と、髪の色が水色となった。
「言いつけを守らず申し訳ありません」
やはりか。しかし、よくわかったなオレ。びっくりだよ。
「構わんよ。お前が選んで決断したならよ」
言う通りにしか動けない人形に興味はない。生きてるのなら自由意思を示しやがれ、だ。
「ありがとな。お前がいてくれると心強いよ。オレを助けてくれ」
お嬢さんに言ったように味方は大事。ましてやオレのためにオレの命令を無視して来てくれたのだ、叱るなどできるものか。
「はい。マイロード」
いつも無表情なドレミが嬉しそうに笑った。




