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BUMP!!!   作者: 桐錠 桃李
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 確か、昔に読んだ本にこんなことが書いてあった気がする。

『環境が己を変えるのだ』と。

 俺は変わった方がいいのだろうか?


 初めに言っておく。俺は『変人』だ。

 例え中肉中背であろうが、特に目立つパーツの無い顔であろうが、別にメタリックな髪の色でなかろうが、成績は中の上であろうが、父さんはサラリーマンで母さんは専業主婦であろうが、これでもかというぐらい平凡な条件が揃っていようが、改めてもう言おう。俺は断じて普通ではない、『変人』である高校生だ。むしろそうでありたい。

 外見等では無い。変人であるの理由なんて少し有れば充分なのだ。例えば、スペイン人の血が流れてる幼なじみがいるとか、そいつと一緒に毎日二時間以上かけて学校に通うとか、宇宙人と喧嘩してるとか、超能力が使えるとか……。もっとも、俺の場合は前者の二つしか該当しないわけだが、それで充分だ。と、そのようなことを自分に言い聞かせて自分の気持ちを鼓舞するのが最近の毎日の朝の日課となっていた。

 六月に入った今日も窓際の後ろの席でひっそりと日課をこなしていると、HR前の騒がしい教室の後ろから焼きそばパンを口にくわえた男が入ってきた。その男は俺の前の席に腰を下ろすと唐突に振り向いて「喰う?」と菓子パンを投げてきた。そう、彼こそが毎日二時間の通学を共にする幼なじみの大和だ。ちなみに中学時代は野球部に入っていた為肩のコントロールは抜群に上手い。大和が放ったメロンパンは見事に俺の顔面に直撃した。これも毎朝の日課となっているので怒る気は失せる。もっとも、聞き分けの無い大和にそんなこと言ってもたかが知れているのだが。俺は砂糖まみれになった顔をハンカチで拭いながらふと気づいた。

「なんでお前がもらって来るケチパンは砂糖が多めなんだよ」

 おまけにでかい。ちなみに『ケチパン』というのは俺達の通う県立千歳学園の購買部で日替わりで売っているパンの事を指す。学食のおばちゃん特性パンだ。大和の両親は共働きのだから、その『ケチパン』が大和の朝食になる。俺が通うより前からこの呼び名なのだと先輩が教えてくれた。由来は二つあるらしい。一つは『県立千歳学園のパン』略して『KTパン』。『KT』がなぜ『ケチ』となったのかは二つ目の由来が関係して来る。そのとおり『ケチ』だからだ。例えばあんぱんにあんこは雀の涙程も入ってないし、コロッケパンのコロッケのほとんどは衣。おまけにサイズも小さい。だが、大和が毎朝買って来るのは、見事にその由来を反している。焼きそばパンの焼きそばがはみ出しているのなんか初めて見た。

「俺が朝一で出来立てを買うからじゃねーの? きっと一番最後に残った生地で作ってんだよ」

 お得だぜ、と大和は笑う。きっと大和が食べている焼きそばパンの生地で後二つは作れるだろう。そして食べきれないぐらいの大きさのパンには必ず菓子パンがついて来る。こいつはサイズは普通だが多分市販で買うより甘いだろう。俺の知る限りでは甘党では無い大和がなぜ買ってくるのか疑問に思っていた。俺のためじゃない事は確かだ。そんな優しい性格ではない。だから以前気になって聞いてみた。

「もらったんだ」大和は悪びれる事も無く言った。まあ悪びれる必要も無いけど。「気前いいよな」と笑顔でも言ってみせた。

 まあ、なんだ。どうしてケチパンをふまえて詳しく話したかというと、別に学食のおばちゃんの気前の良さを言いたいわけじゃない。要するに大和は学食のおばちゃんの間では特別扱いを受ける生徒なのだ。ちなみに俺はあまりケチパンを買うことは無いが、それでも一度だっておまけをもらったことは無いぞ。

 そうこうしている間にHMが始まった。担任が黒板の前で生徒会役員決めの選挙がどうこうと話していたが、俺は砂糖のベトベトとした気持ち悪さの性で一切集中する事が出来なかった。

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