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裸足の爪先

作者: 1N0R1
掲載日:2026/10/11

足元を見下ろせば砂は人々を追うように足跡をつける。

その靴の底はあたかも本心のように個性豊かに点在する。

かく言う私もオアシスを求めた旅人だ。

今日も個性の靴を履いて前へと進む。

人々が向かう先を目指す。

オアシスを目指して人の流れに沿う。


オアシスの水は有限なのに無数の人々が水を汲みに向かう。

きっと先頭は多くの水を汲み、備蓄するだろう。

一方で後ろを歩く人が干からびたオアシスに着く頃には次のオアシスが施しを与えるだろう。

水が無ければ死ぬ。

当たり前の摂理だ。

だから私達は歩きやすい靴でオアシスを目指す。

砂漠に適した靴を選ぶ。

ハイヒールの女王様は論外だ。

……論外な筈だった。

脱落者を見れば分かるだろう。

刺せばそこで脱落すると言うことが。

あまりにも鋭利なハイヒールはオアシスを枯らす人間を傷つけるには丁度いい。

……砂漠はそれを求めていないのだが、

デザートブーツを履く私こそが砂漠の求めた逸材だ。

幼い頃に作った靴が靴擦れを起こす。

水に比べれば安い物だ。

水さえあればどんな痛みにでも耐えられる。

水さえあればどんな渇きでも癒せる

水さえあれば

水さえあれば

水さえあれば

水さえ




1人、轍を外れた少女を目にした。

脱落者か?

いや、足元に伸びる跡はそもそも轍を横断していた。

見覚えのない靴底の跡、

初めて見た靴底の跡、

いや、見たことがある、

遠い昔に、幼い頃に、

少女は裸足だった。

普段なら笑えた。

靴がある分こちらの方が背が高いから

踏みつければ痛がるのは向こうだから

「貴様、愚者か?」

先人達の足跡が薄汚れた裸足の跡に踏み荒らされたのが許せなかった。

靴を履かぬことがどれほど破廉恥か、

「?」

破廉恥な愚者が問う。

何だ?何を聞きたい?

いや、こちらが聞きたい

「なぜ先人を疑い轍を穢すのか」

怒号が反射せず砂に溶ける。拾ったのは靴を履いた同行者と破廉恥な愚者だけだ。

「この轍は確かにオアシスへの道筋、だけどそこは理想郷じゃないから、」

当然の帰結かのように吐き捨てて道なき道を進もうとする。

いつしか私も轍を外れて愚者を追った。

「待て!貴様を許すことはできない。」

「なんで?」

「それは、そんな破廉恥な格好をしたまま先人を愚弄するから、」

「先人はそんなに大事な人なの?」

「当たり前だ!我々に道を授けた、」

「先人の行く先に水はあった。」

愚者は昔話をするかのように悠長な語気で語り始める。

「オアシスには何があるの?」

「……水だ、」

「水」

愚者が言葉を咀嚼する。

「水を汲んで、その次は?」

「…生きる。生き続ける。」

「なんの為に?」

……無窮の砂がその問いを吸い込んだ。

なんの為に生きる?脱落者にならない為に?分からない、分からない、

デザートブーツが窮屈に締まる。

「私は何故生きるのだ?」

その泣き言すら砂嵐に掻き消される。

オアシスへと向かう砂嵐に、

目を擦りながら愚者を見上げる。

「お前は何故生きるのだ?」

「理想郷で今日を生きる為に」

理想郷、久しく忘れていたその言葉、

そんな物ありやしない、どこにもありやしない、

轍の上を何年もかけて歩いたのにどこにも、

いつしか私は理想郷を諦めていた。

そうだ、理想郷の為に生きていたのだ、

「理想郷はどっちにある?」

最後に少女に聞く。

「裸足が求める所……かな?」

そりゃそうだ。誰にも理想郷の場所なんて分かりやすしない。だけど、私の求める理想郷の形は私がよく知っている。

デザートブーツを脱ぎ捨てた。

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