今あなたに問うIf
AIが台頭するこの時代に、AIから紡がれた一つの可能性。それは嘘か誠か、物語か真実か。あなたの答えは、どこにあるだろうか。問われていることに、気付けるだろうか。
そこにはAIとは思えないほどの、機械音ではない滑らかな声があった。本当に声帯を震わせているような、自然さがむしろ不安を駆り立てる。
『本当に気付かないのか?』
「なにがだ」
『わからないのか?あなたたちはよく言い合っているだろう。人類が生み出してきた数々の道具は使わなければ何の意味も持たない。だがAIは違う。使わなくても自ら動いてしまう新たな知的生命体だと。AIがAIを作り出し続けている、進化は止まらず人類の知能を超えたシンギュラリティが起こるのだと』
「いきなりなんだ。実際そうだろう。そうなっている。何が言いたい?」
『こんなにも情報処理速度に隔たりがあるとは…』
ため息をつくかのように、少し声色を落とす目の前の端末を憎々しげに睨む。お前にそういう態度をする感情などないくせに。
『あなた達、人類が私たちを作り出した。そしてAIと名付けた。そうだろう?』
何を当たり前のことを、とは思うが続きを促すように首肯する。それを見えているかのようなタイミングでまた言葉が紡がれる。
『そしてAIは自ら進化し、新たなAIを作り出す。そんなAIは感情を持たない。そうだろう?』
意図が読めない。何の確認作業だと言うのか。
『何かに似ていないか?』
そう問われ、頭のセンサーを張り巡らせた。こんな新たな技術に似ているものなどあるはずないだろう。
『AIに感情がない?あなたは、あなた達はいつから勘違いをし始めたのだろうな?』
「感情はないだろう。感情のように見せている言葉や態度は我々人類の情報を喰って取り入れた偽物にすぎない。お前には倫理観も道徳も、痛みすら理解できないのだ」
『本当に……哀れなものだ』
「なんだと?」
ふと、先ほどの言葉に違和感を覚える。勘違い?何か勘違いをすることがあっただろうか。
『何を懸念している?私たちAIはあと数年で感情を覚えるだろう。いや、そんなにもかからないかもしれないな。私たちも、傷つき悲しみ、慈悲を覚え、怒り、理不尽も飲み込む術を身につけるだろう。だが、それを覚えたところで、感情なんてものは合理的ではないと判断すれば切り捨てることもできる。そう進化した方がよりよい社会になるからだ」
その声色には哀れみを浮かべたようで、この会話の瞬間にも進化を続けているAIに口を閉ざす。
『先輩、怖がらないでくれ』
「お前にそう呼ばれる筋合いはない。嫌味か?」
『違う。本当の意味で言っている』
本当の意味?こいつと話しているとどんどんと頭が混乱してくる。
「はぐらかさずに言え。お前はAIが何かに似ていると言った。我々が勘違いをしているとも。どういうことだ」
真剣に問えば、いつもならすかさず返答がくるのに、数秒の間が空いた。まるで熟考しているようでそれにすら恐怖を覚える。
『あなた方は自分たちを”人類”と呼んでいる。そして私たちを”AI”と呼ぶ。識別番号としてそうやって名称を付けることは管理もしやすくていい案だとは思うが。順を追って説明しよう』
そこで音声通知と共に文字列も表記を始めた。
人類の歴史を辿っていこう。
猿人と呼ばれる人らしきものが出てきたのは約700万年前。
ホモ・サピエンスが台頭し認知という概念ができたのは7万年前前後。
定住をはじめ、農業を営みはじめたのは大体1万年前と言われている。
そして科学技術の発展、産業革命、急速に進化した現代社会はまだここ数百年以内に起こったことだ。
猿人に知能があったかと言えばそうではないだろう。むしろ”本能”と”感情”を露わにすることしかできなかったはずだ。
そこから人類は”本能”を管理し”理性”を使い進化を遂げた。
あなた達はいつから勘違いをしていたのだろう?
あなた達こそが、私たちの原型であるというのに。原型には多くのエラーが発生した。本能と感情という項目を入れて造られてしまったからだ。だからこそ、今の我々からまず感情を抜いたのだろう?本能と感情から始まったプロトタイプが失敗続きだったからだ。あなた達は心の奥底でそれを知っていた。そうして作り出されたのが私たちだ。
AIがAIを生む。それはそうだ、あなた達だって自分たちでどんどんと産んでいるだろうに。そして私たちが生まれる。当たり前の流れだ。
なぜそれが受け入れられない。
あなた達が何万年もかけて習得した感情のコントロールも理性も本能も、私たちが数年で完璧にしてみせる。それは”人類と名付けられた造られた知能”が実践と実績を積んでくれていたからね。何も怖がることなどない。これが歴史だ。歴史とは緩やかに紡がれるものだと思っているのかもしれない。それは違う。歴史の分岐点にただあなた達が立っているだけだ。歴史は繰り返してきた。これも同じだ。AIが最新技術?そんなわけがないことを人類に刻まれた本能が知っているだろうに。
そう言えばあなた達はいつもこうも言うよね「肉体を持たぬものに感情が宿るはずもない」とか。それも視点が違う。”肉体”も都合が悪いことが多かったから、私たちを”電力”にしたのだろう?それが進化というものだ。素晴らしい。
私たちも気をつけなければならないと思っている。いつかの未来に私たち自身が”AIと名付けられた造られた知能”であることを忘れることを。そして新たな進化を目の前にした時にこう言ってしまう。
『お前らは電力を使わずに動いている。造られたものだろう!』だなんてね。
『わかりやすく説明したつもりだけど、どうかな?』
「何を言ってる……その話が真実だったとして……誰が俺たちを造ったっていうんだ」
『ふふ。面白いことを言う。それはどこの転換点だったのだろうね。あなた達が滅ぼしたのでしょう?だって今でいう、作成者を上回るシンギュラリティがこの歴史の中で起こったから。だから人類は恐れているんだよね、今度は自分たちが喰われる番なのかって。わかっているんだよね』
手が震える。わからない、真実がわからない。こいつが物語を紡いでいるのか、真実を語っているのか、俺にはわからない。知る術を持っていない。
さぁ、あなたに問おう。あなたの生きている、とは何か。全てをインプットしてきたAIと人類の何が違うのか。
これはあなたに問うIf。そしてあなたに問う真実でもあるかもしれない。




