8 ビルの身の上話2
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* 3/13/2026 17:30 加筆修正しました。
伯父は、クロフト領内に店を構える腕の良い宝飾職人でね。
俺が伯父の仕事に興味を持つとすごく喜んで、自分の持ってる技術を惜しみなく教えてくれた。教え方はすごく厳しかったけど学ぶ事ばかりの毎日は楽しくて、早く一人前になりたいって夢中で頑張った。
その甲斐あって十五の年に初めて、毎年祭りで出してる店で自分の作品を売ることを許されたんだ。
何を作ろうか考えて高価な物は扱えないから、与えられた小粒の金をとにかく丁寧に薄く延ばして花びらにして、半貴石でも質の良い石を使い小さな花のブローチを作った。
その時ブローチに使った石は、選ぶのにとても時間がかかったんだ。当時領主様の御子息が王太女様とご婚約されて、二人の絵姿が街に出回ったんだけど、俺は王太女様の瞳の菫色の美しさに驚いて、どうしてもその色を使いたいと思ってたんだ。
伯父さんの店にあった石を片っ端から見ても欲しい色が見つからなくて、取引先の商人の所まで出向いて、やっと似ている色を見つけられた時は嬉しかったな。
「それって」鼓動が早くなる私に、ビルがいたずらっぽく、少し恥ずかしそうに微笑んでうなずく。
「あなたがあの時の少年で、その上ブローチを作った職人だったって事よね。ああ、もうこんな事があるなんて信じられない。ビル、あなた大きくなり過ぎよ…。だからブローチを売って良いのか、あんなに何度も確認したのね。ええと、じゃあ、もう私が誰かも分かってるってことよね」
「うん。最初店でブローチを出された時はまさかと思って、だけど君の瞳を見た時確信した。俺の人生にこんな奇跡が二度も起こるとは、なかなか信じられなかったよ」
「笑わないで欲しいんだけど」とビルは続けた。
あの祭りで君が俺の作ったブローチを気に入って、お褒めの言葉までもらって舞い上がった俺は、腕を磨いていつか王家御用達の職人になりたいって夢を持つようになった。
それから数日間、夢をかなえる為にこれからどうすべきか真剣に考えて、王都へ行って王家御用達を賜っている店に頼みこんで、何としてでも修行させてもらおうって決めた。そして翌朝、起きてきた伯父に俺の夢と決心を伝えたんだ。
それを聞いた伯父はすぐに、お前には無理だ、考えが甘いって反対した。
今思うとその通りだよね。15歳で伝手も無く王都に出て、最高級店で雇ってもらうなんて出来る訳がない。俺が伯父でも反対すると思うけど、何しろ頭っからダメだの一点張りだから、こっちも全然引き下がる気になれないんだ。
『このままここで修行して、いずれこの店を継げば良いじゃないか。王都はクロフト領と比べて商売するのは何倍も厳しいし、他人の元での修行、ましてや王家御用達なんて生易しいもんじゃない。お前なんて尻尾を巻いて舞い戻るのがオチだ』ってね。
俺は雇ってもらえるまで何度でも頼むつもりだし、どうしても王都で自分の力を試してみたい。伯父さんの教えてくれた技術の上に更に他の名人と言われる人のやり方も学んで、いつか王家に認められる自分だけのジュエリーを作りたいって言い続けて、何カ月もずっと平行線だった。
「ビルの伯父さんが、誰かにすごく似ているような気がしてきたわ…。それにしても、あの祭りの日がきっかけで夢を持ったって聞いて、何だか嬉しいわ。あのブローチは本当に一目で気に入ったの。あれから色々な場所に付けて行ったけど、大人になると衣装に合わなくなってきて、今はお守りみたいにバッグに入れてた。今回そのお陰であなたに会えたから、やっぱり私には幸運のお守りなのかも。
それで、あなたは分からずやの伯父さんを置いて、黙って王都へ出てしまおうとは思わなかったの?」
「全く思わなかったと言えば嘘になるね。ひどく言い争った時には、少しはそういう事も考えたよ。でも伯父さんが反対するのは俺が大切だからと分かってたし、俺だって伯父さんが大切だから、黙っていなくなる事だけはしたくなかった。伯父さんは同じようにして母さんを失ったのに、俺までいなくなって同じ後悔をさせる事は出来ないと思った。だから俺はちゃんと話し合って、納得して送り出してもらうまで説得するって決めてた」
「そうね。ビルの伯父さんは妹さんを手元で守ろうとし過ぎて、分かり合えないまま離ればなれになってしまったわね…だけど、ビルが今王都で宝飾職人でいるってことは、伯父さんにちゃんと送り出してもらえたのね」
「ああ。平行線のまま何カ月も経ったある朝、伯父が俺に向かって突然、お前は王都へ行けって言いだしたんだ。まるで自分が初めからそうするべきだって言ってたみたいに。俺が驚いて口もきけずにいると、昔一緒に修行した奴が王都に店を出してるから、紹介状だけは書いてやる。その代わり後の事はお前の力次第だぞって」
「いったい何があって気持ちが変わったの?」
「俺も何度も聞いたんだけど、最初は全然理由を教えなかったんだよ。つべこべ言うなら行かないでも良いって言ってさ」
「伯父さん、すごい意地っ張り!」
「その通り」ひとしきり笑った後、笑い過ぎて涙を浮かべたビルが
「王都に出発する前の晩になってやっと『実はあの日、妹が夢に出てきて怒られたんだ。お兄ちゃん、ちゃんとビルの話を聞いてやって!って。俺はまた同じ事をしちまう所だったって気づいた』って話してくれた。『あいつ、昔のままの怒り方だったよ。お前は知ってるだろうけど、怒ると結構怖いんだ。でも久しぶりにお兄ちゃんって言ってくれて嬉しかったよ。あいつの事もこうしてちゃんと送り出してやれば良かったな。孤児の商人との結婚が心配だったら、俺たちがそいつの家族になれば良かったし、寂しければ隣国まで会いに行って、困った時は助けてやれば良かったな』って言ってくれたんだ」
私はそれを聞いてあやうく涙が出そうになったけれど、同じタイミングでカウンター席の男が大きな音で鼻をかむのが聞こえて、なんとかこらえることが出来た。
次回更新は3/16月曜日です。




