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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun


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6 リーンの愚痴とカウンターの男

読んでくださってありがとうございます。

ビルの言うクセのないエールは美味しかった。ビルの頼んでくれた肉と野菜の串焼きも、揚げた芋も、チーズとパスタを重ねてトマトソースで焼いたものも、エビのすり身を皮で包んで蒸したものも全部美味しかった。

初めての料理に迷って「あれもこれも食べたいけど、食べきれない」と言うと、「余ったら俺が食べるから、好きなものを頼んで」と言ってくれたので、目についたものをどんどん頼んでいったら案の定食べ過ぎてしまった。今はもう何も入らない。

お腹を落ち着かせるべく、軽い白ワインをゆっくり飲むことにした。


ここに至るまでビルは私が飲み過ぎていないか心配して、何度も「リーン、気持ち悪くない?大丈夫?」と尋ねてくれていたが、実は私はかなりお酒に強くて、どんなに飲んでも気分が悪くなったことは無い。これは父譲りだと思い感謝している。


ただ、気分が開放的になるので『父親が商店を経営していて、取引先の息子を婚約者に決められているけれど、浮気ばかりする無能なので婚約破棄したいのに、父親に破棄させてもらえない跡取り娘リーン』としての愚痴を延々と語っていた。

ビルは友達じゃないけど、飲んで、食べて、愚痴を言うっていうのが出来てるじゃない!と愉快な気分で、私はご機嫌だった。

良い気分で「あのぼんくらは浮気しか出来ることがないのよ!」溜まっていた文句を上品とは言えない表現と大きめの声でビルに訴えた時、カウンター席の男が肩をビクつかせるのが目の端に見えた。

(あの人、みんなが大騒ぎしてる居酒屋でこれくらいの声にビクつくなんて気弱過ぎない?)

変な人と思って後ろ姿をよく見てみると、どうも見覚えがあるような気がする。が、髪の色が珍しい空色なので、会ったことがあるなら忘れないと思い気のせいかと思いなおした。そもそも街の居酒屋で知り合いに出会うはずもなしと納得し、次のエールを飲んで愚痴を再開する頃には忘れていて、気づくとまたビクつかせていた。


「だからね、私はその人を全然好きでもないし、縁を切れるものなら今日にでも切りたいって言うのに、父は大事な取引先だからって全然受け入れてくれないのよ。その浮気者も、自分が私に好かれているという謎の自信を持っていて腹が立つの。私は独り立ちしてやっていけるように散々努力しているのに、あんな不良物件がいないと成り立たない出来損ないみたいに思われるのも我慢できない」

もしかしたら何度目かもしれない私の話に、ビルは生真面目に相槌を打って聞いてくれている。

やっと文句がほぼ出尽くし「もう嫌になっちゃってね。本当に何もかも放り出して逃げ出したいの」と締めた時、カウンターの男が今度は持っていたエールのグラスを落とし、ちょっとした騒ぎになった。

グラスは割れなかったが、エールが飛び散って周囲の客に「おい!気をつけろ」と罵声を浴びている。

(ちょ、こぼれたエールが飛んでこなかったかしら)と心配になり自分の服を改めたが、幸いここまでは飛んでこなかったようで無事だった。

それにしても、男の動揺するタイミングが私の話を聞いている様な気がして、ペコペコ謝りながら手ぬぐいでローブを拭く姿をもう一度確認するが、やはり見覚えはない。


「あの人、ずいぶん落ち着かないみたいだね」ビルがどこか笑いを含んだ声で言って、私を何となく意味ありげに見る。

「そうね。さっきから私が少し大声を出すとビクビクするし、人の話に聞き耳でも立てているのかしら。人の話を盗み聞きしてるなら、ずいぶん趣味が悪いわ。でも全然知らない人だし、気にしないで楽しみましょ」


騒ぎも治まって静かになった所で一息ついた私は、自分ばかり話してしまったと少し反省して「ビルも何か自分のこと話してよ」と頼んだ。

ビルは少し思案して「俺の話は少し長くなるよ、それでもいい?」

「もちろん。聞きたいわ。私の話も相当長かったし」

「じゃあ俺の話をするね」ビルは話し出した。

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