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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun


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4 ブローチの思い出

読んでくださってありがとうございます。

彼がブローチの鑑定をしている間店に並ぶ品を何となく見ていると、思いのほか自分好みの品が多い事に気づいた。

(このペンダントヘッドは小鳥を模した銀細工に小さいルビーをあしらって、小鳥が赤い実をくわえているようにしているのね。ブレスレットに付けても良いかもしれない。こっちは半月型の金のピアスに銀の鎖を下げて、その先に水晶のかけらが揺れるようになってる。月の輝きが水面に反射してるみたいで素敵。華やかだけど、使っている材料は銀が主体で石も小粒だから、そこまで値も張らなくて買いやすいわね…。平民の男性でも頑張れば好きな女性に贈る事もできそう)


あれこれ考えていたら鑑定が終わったらしく「このお品でしたら、こちらの金額で買取らせていただけます」と男性に紙に書いた金額を示された。

正直言ってその価格が適正なのか分からなかったけれど、おそらく居酒屋くらいは行けるでしょうと

「それではそちらの金額でお願いします」と即答した。

それを聞いて反射的に「かしこまりました」と答えたにもかかわらず、男性はためらった様子で「大変失礼ですが、お客様。本当にこの品を手放してしまわれてもよろしいのですか」と再度尋ねてくる。

「ええ、気に入っていたけれど、もう使わない物だから。でも、わざわざ売りに来たのに、なぜ何度もそんなことを聞くの?」少し強い口調で聞き返すと、慌てたように「申し訳ありません。お客様の事情に立ち入るつもりはないのですが。ただ、この品はとてもきちんと手入れされて、大切にされていたと思いましたし、使われている石の色が…」

「石の色?」

「はい。お客様の瞳の色ととても良く似ていると思ったものですから。石は自然から生まれるので、なかなか自分の欲しい色には出会えません。」

その言葉に、このブローチを見つけた時のことを思い出す。


それは婚約して2年位の頃で、クロフト公爵領を視察で訪れた時だった。

折よく年に一度の祭りが催されていて、婚約者としての交流も兼ねキリアンと一緒に出かけたのだ。

祭りには食べ物以外にも色々な店が出ていて、領都に店舗を持つ宝飾店も安価で平民でも買える品を売る店を出していた。キリアンは出店のアクセサリーなんて見ても仕方ないと興味を示さなかったけれど、私は店先に置かれたひとつのブローチに目を奪われた。

金をうんと薄く引き伸ばして作った花びらが美しく、そこに使われている石が私の瞳と同じ色のブローチだった。

キリアンに「見て、私の目の色と同じよ」と話しかけると「ほんとだ、少し似てるね」としぶしぶ相槌を打ちながらも、出店の品に興味を持つなんてみっともないとそのまま立ち去ろうとした。

「ちょっと待って、キリアン。石の色だけじゃなくこの花びらの彫金も素晴らしいし、気に入ったから買うつもり。私が好きで出店で買うんだからキリアンの名誉は傷つかないわ。安心して」と言うと慌てた様子で「いや、うちの領地の物を購入するのに君に支払わせるなんて、お父様に叱られる。僕からの贈り物にさせて欲しい」と結果的にキリアンからの贈り物になってしまった。

そのやり取りの間、店番をしている少年は赤くなったり青くなったりで申し訳なかったが、去り際にこっそり「このブローチを作った職人さんに、王太女がとても気に入ったと伝えてください」と言付けると、頬を紅潮させて「はい、確かに伝えます。ありがとうございます」と誇らしげに答えてくれた。


それからそのブローチを何度も身に着けたが、大人になるにつれて王太女の装いとしてはそぐわなくなり、段々使う機会が無くなってしまった。けれどそのまま仕舞い込んで忘れてしまうのも寂しくて、お守りのように出かける時バッグにそっと入れるようになっていた。

それを先日運悪く、ハンカチを取り出す時に引っかけて落としてしまい、偶然一緒に夜会に出ていたキリアンに見られて「アイリーン、なぜそんな貧相な物を持ってるんだ」昔自分が贈ったことも忘れて馬鹿にしてくるキリアンに、思わず「あなたが昔くれた物でしょう」と言い返すと「忘れる位昔に僕が贈ったものを、未だに持ち歩くなんてよほど僕が好きなんだな」と優越感に浸った目を向けられ、あなたじゃなくてこのブローチが好きなの!と怒鳴りたいほど屈辱的だった。

ブローチに罪はないが、あの時のキリアンを思い出すと胸がむかむかするので、自分の気晴らし資金の為に手放して役に立ってもらおうと考えたのである。


「そうね、私もこのブローチはとても気に入ってるわ。でも、実は今日お財布を忘れてしまって。これを売らないと行きたいお店に行けないのよ」なんとなく言い訳がましく言うと

「行きたいお店ですか? どのくらいの額が必要なのでしょう。このブローチを預けていただければ、その分をお貸しすることもできますが」

「初めて行くお店だから、どのくらい必要なのか分からないの。だからその分を貸してもらうことは出来ないわ」

「もし差支えなければ、どのお店に行かれるのか教えてください。どのくらいの額が必要かをお教え出来ると思います」

この男性がなんでこんなにもしつこく聞いてくるのか、黙ってブローチを買い取ってお金を渡せば済む話なのにとイライラして店を出たくなってきたが、今日は変装して城を抜け出してまでここにいるのだ。短気を起こしてこのまま帰りたくはない。

「どの店かは決めてないけど、居酒屋に行きたいのよ。女一人で居酒屋。おかしいかしら?」と半ばやけ気味にぶちまけてみた。

「居酒屋…ですか。」男性は不意打ちをくらったような顔でつぶやいてから、急にパッと顔を明るくして「分かりました。このブローチは一旦お預かりします。そして今日はもう閉店の時間なので、店を閉めて居酒屋にご一緒します。私におごらせてください」


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