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女王陛下の宝飾職人  作者: Jun


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15/15

15 セシール・クロス伯爵令嬢2

見つけてくださってありがとうございます。

希望を断たれたセシールは翌日から起き上がれなくなった。

一日中ベッドに寝たきりで、眠っていない時間は泣いてばかりで食事も取らず、消化の良いスープやセシールの好きな果物を用意しても口をつけない。


ハンナは、伯爵に言われた事がショックだったのだろうと黙って仕えていたが、どんどん痩せ細っていく姿を見て、ついにセシールを諫めた。

「お嬢様。このままではお身体が弱って、お腹の子に障ります。きちんと食事をして動かないといけません」

横たわったまま窓の外をぼんやり眺めていたセシールは、力なくハンナを見て「もう死んでしまいたいの」とつぶやいた。

「お嬢様、何をおっしゃるのです」

「だってね、ハンナ。私、ずっと悪い事をしているのは分かっていたの。愛しているからって罪が消えるわけじゃないって知ってたのよ。


前に話したけれど、王太女殿下は本当にお優しい方なの。失敗してご迷惑をおかけしても、次にちゃんと出来ると必ず気づいて褒めてくださって。殿下付きの侍女になれた時は嬉しくて、頑張ってお仕えしようと思ったのに…キリアン様に出会って好きになってしまった。始めは心の中だけならと思っていたのに、愛していると言ってもらえたら止められなくて、殿下を裏切ってしまった。

だから二人でどんな罰でも受けようと思っていたけど、キリアン様に捨てられて、子どもを取り上げられて、違う人の妻になるのなら、今死んでしまう方がいいの。私が死んだら、いつか殿下は私の罪を許してくださるかしら」

そして「やっぱりキリアン様を愛してるの」と泣き始めた。


泣いているセシールを前にハンナは葛藤した。

(旦那様の言われた通り、キリアン様はお嬢様を弄んで捨てたのだろう。あの方のせいで濡れ衣を着せられ、解雇された侍女がいた事をお嬢様は知らない。教えておけば良かったのか、いや、もうあの時は遅すぎたし、お嬢様はキリアン様の言う事を信じただろう。けれど、このままではお嬢様は本当に死んでしまう。キリアン様がお嬢様を捨てていないと信じさせれば、生きる力が湧いて来るだろうか。元気になって子を産み落としさえすれば、後妻でも侯爵家に嫁げるのなら、まだ幸せになる未来も残っているのではないか)

悩んだ末、ハンナはセシールを生かす為の選択をした。


「お嬢様。キリアン様は、今もお嬢様を愛してらっしゃると、ハンナは思います。ただ旦那様のおっしゃった通り、キリアン様は王太女殿下の婚約者です。まだ婚約が解消されていない今、お嬢様へ連絡を取ってお会いになる事は控えて、皆さまを説得していらっしゃるのでしょう。

だからこそ、お嬢様は元気をお出しになって、キリアン様を信じて、お子を無事に産む事を考えるべきです。万一ここでお嬢様とお子が儚くなられたら、お二人の為に頑張っておられるキリアン様が悲しまれますよ」

「ハンナ。本当にそう思う?」ハンナの言葉を聞いていたセシールの目に少しずつ生気が戻ってきた。

「はい、そう思います。旦那様にはおわかりにならないでしょうが、ハンナはお嬢様とキリアン様をずっと見てまいりましたから、お二人が本当に愛し合われていると信じております」

「ありがとう。ハンナ。そう言ってくれて嬉しい…。私、お父様に言われてキリアン様を信じられなくなっていたの。でも、そうね。キリアン様が言ってくれた事を、私が一番に信じなきゃいけなかったわ。無事に元気な子を産んで、迎えにいらしたキリアン様に喜んでもらわなければね」

「そうですとも。それに、王太女殿下がお嬢様のおっしゃるようなお優しい方なら、罰として人の命など望まれないでしょう。お嬢様が生きて、王太女殿下の御代に少しでもお役に立てたら、その方がよほど罪滅しになるとハンナは思います」

「そうね。もうお目にかかれる事は無いと思うけれど、私にも出来る事を見つけて、少しでも殿下のお役に立てるように頑張るわ」

笑顔を浮かべたセシールの無邪気さにハンナは胸が痛んだ。

許されない事をしでかしたとは言え、セシールはまだ17歳になったばかりなのだ。


勉学はそれほど優秀ではないけれど、昔から心根が優しく素直な少女だった。

行儀見習いで上がった王宮で思いがけず王太女殿下の侍女に選ばれ、普段娘を顧みない伯爵夫妻に褒められて、嬉しそうに笑う姿を覚えている。

侍女として頑張っていたのに、いつの間にかクロフト公爵令息が近づいて、令息の愛とやらを信じ切って絡めとられ、あっという間に解雇される事になってしまった。


それでも、そこで令息とのつながりが無くなればまだ良かった。

伯爵が将来の王配との縁に欲を出し、邸に令息の出入りを許し自由にさせた結果、セシールは妊娠したのだ。貴族なら男女を二人きりにしないのは常識なのに、その配慮さえ伯爵が軽んじた結果だった。


そして今、無責任な親からも令息からも捨てられ、殿下を裏切った罪悪感にさいなまれ、お腹の子と共に死にたいと言う。我が子のように慈しみ仕えてきた少女の一生が、こんな思い出だけで終わって良いはずがない。

ハンナはセシールを守る覚悟を決めた。


ちょうどその頃王宮では、アイリーンとキリアンの婚約解消が決定されていた。

解消決定の数日後クロフト公爵からの書状を読み、初めて婚約解消とその理由を知ったクロス伯爵は、自分の目論見が何一つ上手くいかなかった事を悟った。


両家の話合いを求める書状を握り締め震えている伯爵のところへ、離縁が成立し、邸を出ていこうと旅装を整えた元妻がやってきた。

「何の用だ」動揺している様子の伯爵を見て、彼女は目を細めた。

「お別れのご挨拶に参りましたの。…それは、クロフト公爵家からの書状かしら」

「何で知ってる」驚く伯爵に

「王太女殿下とクロフト公爵令息が婚約を解消したことくらい、その日の内に侯爵家は存じておりましたわ。セシールの妊娠が一番の原因な事も。

貴方は性懲りもなく、全て隠してサンディス侯爵へあの子を嫁がせようとしていたようだけど、先方はさぞご立腹でしょうね。

せめてクロフト公爵のおっしゃる通りに動いて、これ以上クロス伯爵家を傾けないようにするとよろしいわ。それではお元気で。ごきげんよう」


一言も反論できないまま、長年連れ添ってもお互いを何も知らない元妻の後ろ姿を見送った伯爵は、彼女の最後の忠告に従い公爵の提案に抗う事を諦めた。


その後の両家の話し合いで、クロフト公爵の提案通りキリアンとセシールはただちに貴族籍を抜かれ、平民として書類だけの結婚をした。

二人の結婚が受理された時、新郎であるキリアンは粗末な馬車に乗せられクロフト領の村へ送られる途上で、新婦であるセシールは、出産まで伯爵家で過ごせることが取り決められ、何も知らないまま部屋に閉じこもっていた。

公爵が領地に二人の家と仕事を用意したことは明らかに温情だったが、内々に両家からこれらの対応を伝えられた王家は、公爵家の血を引く子どもと二人の監視という名目を受けこれを承認し、同時に両家とも、当主の座を次代へ移譲することを決定した。




読んでいただき、ありがとうございます。


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