13 公爵令息の末路
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「キリアン、お前のしでかした事で王太女殿下との婚約は無くなった。お前有責での婚約破棄を、婚約解消としていただけたのは殿下の温情だ。ありがたく思え」
茫然自失として帰宅し、公爵から蔑むように投げられた言葉にキリアンは俯いていた顔を上げた。
「なぜです、父上。なぜ婚約解消なんてことになるんですか。私は解消なんてしない!」
「お前はさっき言われた事を理解できなかったのか。
なぜと聞いたな? 理由はお前が今までしてきた愚行全てだ。
お前は王太女殿下という婚約者がいながら何回も浮気をして、挙句の果てに伯爵令嬢を妊娠までさせた。その上、それを隠して逃げおおせようとしていた卑怯者だ。そのような者に王配が務まるはずがないだろう。
今まで私がお前の為に、どれだけ陛下に頭を下げてきたと思っている。これで全て無駄になってしまった」公爵はソファに腰を下ろし頭を抱えた。
キリアンはたまらず、憔悴した父親に向かって尚も叫んだ。
「父上、アイリーンが僕を捨てるはずないんです!
あいつは子どもの頃僕が贈った安物のブローチを、今も肌身離さず持っているほど僕を愛しているんですよ。この前の夜会で見たんだから確かです。
国王陛下が何と言っても、次期女王のアイリーンが僕が良いと言えばそれで良いでしょう!もう一度アイリーンと話をさせてください」
公爵はそれを聞いて心底あきれ果て、顔を上げてキリアンを見た。
キリアンの金の髪は乱れ、いつも美しいと言われる顔は怒りで紅潮し醜くゆがんでいる。
(こいつはこんな顔をするようになっていたんだな…。性根の悪さが出るとはこういう事か。
王太女と婚約させた後は、王家が教育してくれるから大丈夫だと思っていたのが間違いだった。
自分を甘やかす癖のある者を本気で叱責せず、放置していたツケが回ってきたんだ)
「王太女殿下は以前から何度も、陛下に婚約解消の希望を出されていた。その事はお前にも伝えていたはずだ。それを陛下が私の嘆願と公爵家の王家への貢献を考慮して止めて下さっていたんだ。
殿下はとっくにお前への愛想は尽きている。それなのによりにもよって陛下の御前で、王太女殿下がお前の遊び相手に嫉妬しているなどと…愚かにもほどがある。
第一クロス伯爵令嬢はお前の子を妊娠しているのだぞ。これからクロス伯爵とも話合いをせねばならん」
「な、父上、僕はセシールなど愛しておりません!セシールの腹の子など知らない。僕が愛しているのはアイリーンです」
これを聞いて、ついに我慢の限界に達した公爵はしたたかに息子を殴りつけた。
殴られたキリアンは壁にぶつかり、立っていられず床に倒れ伏した。
「お前の言っている事は、貴族どころか人間としてありえん。
王太女殿下の出された証拠を見たが、セシール嬢の腹の子は間違いなくお前の子だ。
本来ならお前をこのまま家から放り出すところだが、お前をそんな風に育ててしまったのは親である私の責任でもある。
だから最後の温情として、領地の端に家と仕事だけは用意してやろう。
お前はこれから、そこで平民として暮らしていけ。
セシール嬢をどうするかはクロス伯爵次第だが、私はお前たち二人を結婚させるよう申し入れるつもりだ。もちろんセシール嬢も生まれてくる子も平民となる。
お前はいますぐここを立って領地に向かえ。到着する頃には家と仕事の準備も出来ているだろう」
「領地の端なんて、そんな畑しかないところで生きていけない!王配になるはずだったのに、平民なんて無理だ…セシールと結婚なんて嫌だ。セシールも子どもも僕は関係ない」
鼻から血を流しながら訴えるキリアンに
「そこで生きられないなら、お前は死ぬだけだ。…セシール嬢の為を思えば、お前というお荷物と生きるより、その方がマシかもしれんな。
お前の頭では理解できないかもしれないが、王配となる者が婚前に他の令嬢と子を成したんだ。本当ならお前とセシール嬢はもちろん、我が家もクロス伯爵家も王家への不敬で処罰があって当然だった。それを表向きは婚約解消だけに留めて下さったのは、王太女殿下の温情だ。この後は私たちがそれぞれの家でお前たちの罪を裁き、王家に二心無き事を示さねばならん。
キリアン、今後は自分の立場を良くわきまえろ。平民の分際で王太女殿下を名前で呼ぶなど、死を賜ると思えよ」
もうどうにもならない事をようやく悟ったキリアンは、床に顔を伏せて泣き始めた。
その幼子のような様を見やった公爵は、もっと早く王配辞退を申し出なかった自分の罪を痛感していた。
『私もこれで長男に爵位を譲る事になるだろう。あいつには、これからのあの方の治世を一族で支え我が家の信用を回復する様、よくよく言い聞かせなければ』
結局アイリーンは、公爵家を罰せず婚約解消する事で、父の願っていた公爵家の後ろ盾を手に入れる事になった。
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