12 公爵令息の断罪3
見つけてくださってありがとうございます。
「黙れ」
我慢できない様子で父が一喝し「アイリーン、お前が辞めさせたという侍女についての報告があったな」と促したので「はい。セシール・クロス伯爵令嬢ですね。彼女についてはとても重大な報告があります」と別にしていた書類を取り出した。
そこにはセシールの学院及び王宮での素行、伯爵家に戻ってからの様子と医師の診察を受けた事、その診断結果が記されていた。
「二か月前、王宮庭園内でキリアンと不適切な行いをして解雇されたセシール・クロス伯爵令嬢ですが、現在妊娠中です」
「な、それがこの話に何の関係があるのですか」公爵も知らなかったらしく、焦って書類を手に取る。読み進める内に額に汗が滲み、どんどん顔色が悪くなっていった。
横に座るキリアンは今までの威勢の良さは消えて、なぜバレたのか分からない様子で父親の手の中の書類を凝視していた。
その姿を見て(あ、やはりキリアンはセシールの妊娠を知って逃げたのね)と、侍女の一件でほぼ尽きていた、幼馴染としての情が消え失せるのを感じた。
キリアンがセシールにささやいていた愛など全く信じてはいなかったが、セシールに会わなくなった理由が単に彼女に飽きて交際を断っただけなら、どんなにマシだっただろう。貴族令嬢の純潔を無責任に奪った挙句、自分の子を身ごもったと分かるや、相手をこれほど無情に見捨てる人間になっていたのかと思い知った。
「セシールは不適切な行動を取りましたが、在学時も王宮出仕時も、キリアン以外の異性と二人きりでの交流も交際もしていないのは調査済です。
故に、セシールのお腹の子はキリアンの子であると断定できます。
私は、もし臣下が未婚の令嬢相手にそのような行為をしたとして、それが成人同士で互いの合意があり、家としてしかるべき責任を取れる場合は個人の自由として尊重するでしょう。
王太女に対しての無礼で非常識な言動も、それを甘んじて受ける事がわが国の利益になるのであれば目をつぶることもあるでしょう。
けれどキリアンは単なる臣下ではなく、不敬が許されるほど有益な取引相手でもなく、王太女の婚約者です。
私が女王となり前に進むとき、信頼して背中を預ける者が王配であり、心を許せる者が伴侶です。彼を信頼することも心を許すことも出来ません。ゆえに彼は王配にふさわしくありません。この婚約は陛下のおっしゃる通りキリアン有責での婚約破棄が妥当と思いますが、公爵家の今までとこれからの貢献を考慮し、私としては婚約解消としたいと存じます」
私が宣言すると、父はうなずき、公爵は蒼褪めて深く頭を垂れ、キリアンは放心した。
公爵に半ば引きずられるようにキリアンが退出した後、父が今まで聞いた事の無い弱々しい声で話し出した。
「アイリーン。私はお前が王の座を継いだ後、どうすれば平穏無事に治世を続けられるかだけを考えていた。キリアンの行状を聞いていたにも関わらず、公爵家の力にこだわってここまで放置してしまったのはそのせいだ…。
お前が自分で道を切り開いて、独り立ちする力があると頭では分かっていたのに、本当にすまなかった。いつまでも小さな娘の様に守ろうとしていた私は、お前を苦しませていたんだろうな。愚かな父を許してくれ」
「お父様、分かってくれたらもういいのよ。私も、一度全部嫌になって家出した事があるし」
「家出⁈」
「その時不思議な偶然が重なって、思いがけない人に出会えて、その人が教えてくれたの。
お父様は私を信じてないんじゃなくて、ただ心配しているだけなんだって。
だから、これからも女王となった私を助けてくださいね。
ただし、心配はほどほどにして…。あと! お母様みたいな人を見つけるから、伴侶は自分で決めさせていただきます」
口を開けたり閉めたりしている父に、私は心からの笑顔を見せた。
「その人が、お父様とお母様の成し遂げた孤児院の改革に本当に感謝していたの。私、すごく誇らしかった」
「そうか…そうか。それはきっと彼女も喜ぶだろう。教えてくれてありがとう、アイリーン。
それはそうと、お前、家出と言ったが秘密の通路を使ったのか。
あれは非常の時だけしか使えないと言っただろう。詳しく話を聞かせなさい」
「申し訳ありません。私、本日は為すべき執務が山積みなんです。街道整備についての会議と災害支援の予算計画に出席する予定も入っておりますの。それでは、これにて御前失礼致します」
私は優雅に礼を取り、背後からの呼ぶ声を無視してそのまま退出した。
「ビルも、皆も本当にありがとう」
無事婚約解消を達成し、諦めて逃げないで良かったと心から思った。
読んでいただき、ありがとうございます。
続きが気になる!と少しでも思っていただけたら、ブックマーク、評価(下の方にある☆☆☆☆☆)やブクマ、いいねで教えていただけると、嬉しいです!




