1.おかえりなさい
スパイと聞けばどう思うだろう。アニメや映画を沢山見る人にとったらかっこいいヒーローのように思えるかも知れない。だが相手の目線に経つと、混沌に巻き込む大犯罪者になるだろう。
俺は世界一のスパイとして活動をしていた。たとえそれが詐欺、殺し、そんな非人道的なことだろうと明るい未来がやってこない俺は政府の言いなりになり仕事をしていた。
「早くこの情報を持ち帰らなければ世界大戦の火種となり、日本も巻き込まれる。何としても伝えなければ」
USBカードをパソコンから抜き取り、情報操作ルームから出ようとする。しかし、既に警報がなっていたため部屋の外に出ると次々に防具を身につけた戦士達が銃を突きつけ乱射してくる。
「見つけたぞ裏切り者!」
「殺せ!!」
戦士達は声を荒らげながら優斗の方へ攻撃を仕掛ける。優斗は数も場所も不利なのは変わりないが、冷静に頭を回転させて最適解の選択肢を探す。
「数でゴリ押しされてら詰むな。だったら裏口からではなくこの窓から直接出るしかないな」
華麗に避けながら植木ごと窓を破壊し外へ飛び出す。破片が刺さったのか左手の甲から少量出血してしまう。だけど、そんな事は全く気にしないで抜き取ったUSBカードの確認をする。
「よしUSBはあるな、後はもう振り切って逃げれば俺の勝ちだ」
裏路地へ入り込むが先回りされて兵達が押し寄せてくる。狭い場所での銃の乱射を懸念し、近くの道路へ飛び出すと、一般人が歩いたり車が通っている。
「こちらもダメならば、もう一般の道路へ出るしかない」
それしか選択肢がなかった優斗は真っ先に飛び出す。少し先には塾帰りの少女がマスクを被った男女に車に乗せられそうになってる所を目撃する。
「やめて!誰か助けて」
「黙ってろ!大人しくしないとお前の細い首をへし折るぞ」
「うう...」
「あの子まさか誘拐か?ならば生かしてはおけない」
逃げながらだったが、優斗はとっさの行動でマスクを被った二人の頭に投げナイフを正確に命中させる。
「なに...」
声を出すこともなく絶命する二人、少女は男に担がれていたが直ぐに降りて逃げようとする。しかし逃げた先にはロケットランチャーを構えた兵士がいた。
「まずい、子どもに躊躇して発射を止めるような奴らではない!避けることは可能だが、今避けたら間違いなくあの女の子は死ぬ。だけど、これは国家の為だ!多少の犠牲は...」
そう言いながらも、時間は進みロケットランチャーは発射される。だが優斗は自分が発した言葉とは全く別の行動を取っていた。
「キャアアア!!」
素早く方向転換をすると少女を抱きかかえ、手で頭を塞がせる。すると弾は近くで爆発し、爆風が優斗へ直撃し近くの瓦礫へ強く飛ばされる。
「ガハッ...」
最適な庇い方をし、少女は怪我ひとつせずに助けることが出来た。しかし、庇い直撃した優斗は致死量の出血をしている。
「お、お兄ちゃん?大丈夫?ねぇ!ねぇ!」
直ぐに助けてくれた優斗を心配する少女だったが、優斗はその言葉を聞く前に少女へ語りかける。
「お..お願い...だ。これを近くの交番へ...神田優斗の私物と言って..届けてくれ...。俺はほっといてくれていいから、君がこれを届けて...くれ」
「交番?う、うん。私交番いって直ぐに救急車呼ぶ!待ってて直ぐに助けるからね!お兄ちゃん!」
最後の力を振り絞り小さな声をかけた後、少女にUSBカードを渡す。致命傷だったのかもう口を動かし言葉を発することが出来なくなり、少女が走って行くと、逆側から兵士達が続々とやってくる。しかしその兵士達が自分の目の前へ着く前に、優斗は意識が遠のいていく。
「誰かのため、国のためと言っていても結局人を殺し誰かを不幸にさせてたのかもな。これも一つの天罰か」
最期を悟り頭の中では今までの思い出と共に脳内で再生される。大体は何を思い出したかすら忘れてしまうのだが、最後の死ぬ瞬間まで聡明にひとつの事を覚えていた。それは父や母でもなく、政府直属の教育機関に育てられる前までずっと幼少期を一緒に過ごした幼馴染の真由のことだった。
「(どこに行っても私は優斗と一緒だからね!例え世界の裏側だろうと、私たちはずっと一緒なんだから!)」
頭の中で真由との最後の会話を思い出す。それはさよならと言わずに、いつかまた会えることを願う真由の言葉だった。
「真由?ハハッ。最後の走馬灯は君か。俺もそっちに逝けそうだな」
真由は離れ離れになった後。激化した国内の過激派組織のテロ行為に巻き込まれ亡くなった。それは優斗自身スパイ活動で唯一の失敗により起こってしまったテロ行為だった。
死にかけていたのか名前が出てくる前に思考が途切れる。最後に吸った息が吐き出された時優斗の心臓の鼓動は停止した。
同時にどこからか方角も特定できないが、ある女性の声がする。
「おかえり...そして助けてルアン」
「誰だ?...助ける...か。この悲痛も俺が殺した兵の家族達のものかもな」
想像を少し膨らまして目を閉じると、強く胸を締め付けられるような鼓動がなり始める。そしてまぶたの奥から明るい光が当たり少し眩しく感じる。
瞬く間に目を開くとそこは、緑黄の自然に囲まれた美しい森の中だった。
「なんだこれ!今確かに撃たれて...いや助かったのか?だったらあの子はどうなったんだ!まて、その前に俺はどこに連れていかれたんだ?」
何がどうなったのか状況が分からないが、しっかり直前の記憶を頼りに確認すべきことを考える。だが、考えていると突然、脳に直接話しかけるように少女の声が聞こえてくるのだった。
「ルアン。来てくれてありがとう。」
「誰だ?一体どこから話しかけてきてるんだ?」
「私はルアンの一部だよ。今はまだ実体化できるほど力を取り戻せてないけど」
「そのまえに君、ルアンって誰?もしかして俺のことか?申し訳ないが俺の名前は...」
一つ一つの言葉で疑問に思ったことを質問し、自分の名前を改めようとすると少女の声はそれを遮る。
「知ってる。神田優斗でしょ?だけど、この世界ではあなたはルアンなの」
「この世界と言うと?」
「教えてあげる。あの少女を救ったあと、優斗は確かに死んだのよ」
信憑性がまだ分からないが、自分は確かに死んでしまったことを聞くとゴクリと息を飲む。
「だけど、優斗は地球からこの『ムルビス』という世界へ魂を呼び出されたの」
「それってつまり...」
「優斗の魂には、誰かから何らかの術式が施されてこの世界へやってきたの。優斗の世界では『異世界転生』って言うのかな?」
「転生..か。でも誰がそんなことを?それになぜ俺なんだ?」
「それは呼び出した本人じゃないと分からない」
「君が呼び出したんじゃないのか?」
「私じゃない。ルアンに施された術は恐らく転生術。それだけは分かるけど、いつどこでされたものなのかは分からない」
非現実的な出来事ばかりが連鎖して起こっていることを知るが、落ち着いて一つ一つ理解していく。
「私が言葉をかけられるのはここまでみたい。いずれまた力を取り戻して、ルアンの前に現れるわ。あと、この世界では君はルアンだからね。あくまでルアンという身体に神田優斗の魂が宿っただけだから」
「ちょっと!ここまでって言われても...」
呼びかけてみるがもう返事は帰ってこなかった。だが、少女が話していた事は今起こっていることを考えると、真実なのだろうと察する。
「まずはここはどういう場所なのか、他に人が居ないのか、あらゆることを調べる必要があるな」
少女との会話で認識が遅れていたが、自分の体は子どもになっており、純白のローブを身につけている。
「一旦この森を歩いてみるか」
葉っぱで敷かれたベッドから身を起こし出入口になっている小さな木のトンネルを抜け出すと、そこには何かを祀っているような祠があった。
「見たことない文字だな到底読めそうにないし次へ行くか」
そう思い、祠から離れようとした時、何者かの足音がすることにいち早く気づく。地球ではスパイをしていた経験から警戒態勢にスグ入る。
「誰だ?」
素早く身構えて振り返ると、そこには中学生くらいの銀髪の少女がこちらをじっと見ていた。そしてその少女はルアンに声をかけのだった。
「君!なんでこんな所にふらついているの?早くそこから離れて!」
「ゴガガガァァルル」
声をかけられた時。祠の下から唸るような鳴き声が聞こえて地鳴りが始まる。すると、2つの首を持つ5メートルほどの犬のような怪物が現れた。
はじめまして天光雨月です。この度文章力がまだ皆無に近いですが、自分の思い描くストーリーを書いていきます。『神術使いの魔法擬似伝』ですが、これは仮名です。自己満なところがありますので人に伝わりにくいかも知れません!
アドバイスやご指摘もよろしくお願いします!!