6.Vtuberのキャラクターを考えよう(後編)
さくらはみゃあこさんの家にいた。
「今日は水ようかんだよ」
「わ~い!」
「最近暑いから涼しいものにしようかと思って。どう?美味しい?」
「最高ですっ! 美味しいすぎる~っ!」
「通販で気になっててつい買っちゃったの。さくらちゃんが気に入ってくれてよかった~。はい、冷たいお茶もどうぞ」
エアコンが効いた涼しい部屋で、さくらは、美味しい和菓子を食べていた。
みゃあこさんの家に行くと、美味しいお菓子が食べれる。
みゃあこさんの家に住めたら幸せだろうなぁ、なんてことを考えながら、さくらはのんびりしていた。
「私、ニートなのに、こんなにおいしいもの食べてもいいんでしょうか? なんだかバチが当たりそうです」
「いいのいいの。さくらちゃん、おかわりもあるからね~」
さくらは、水ようかんをもぐもぐと食べていたが、はっと思い出した。
こんなにゆっくりしている余裕はない。
早くVtuberになって、生活費を稼がないといけないのだ。
「って、みゃあこさん!? こんなゆっくりしてていいんですか? Vtuberの話はどうなったんですか!?」
「まぁまぁ、さくらちゃん。リフレッシュも大事よ~。根詰めても疲れちゃうだけだから。メンタルケアもVtuberの大事な仕事の一つだからね」
「…そうなんですね。それなら」
さくらは、うまく丸みこまれた。
水ようかんのおかわりまで食べて、お茶を飲み終えて、さくらは言った。
「そういえば、Vtuberの件ですけど」
「あ、そうだったわね」
「どんなVtuberになりたいか考えてきました」
「え、教えて教えて!」
みゃあこさんは、身を乗り出して、訪ねた。
興味津々だ。
キャラクター①
女子大学生のVtuber
黒髪にゆるくウェーブがかった長髪、目の色は紫。
胸元の空いたセーターを着ている。ミニスカ。
年齢は20歳。
特技は勉強
勉強を教えるコンテンツを提供
名前は、愛禅寺あいこ
「おっ!? 意外にお色気JDお姉さんキャラ!?」
「はい! いろいろリサーチした結果、色気が大事と思ったので」
「名前は…愛禅寺あいこ?」
「見た目に負けない色っぽい名前がいいかと思って! あと、調べたら、漢字苗字にひらがな名前がいいとあったので、そうしてみました! もちろんYouTubeやインターネットで調べて、名前にダブりがないことも確認済です!」
「おっ! さすがだね。私が伝えるまでもなかったわね。そう。名前は、ほかに使っている人がいないか、似たような名前の人がいないか、事前にチェックしないとね。それで、コンテンツは…勉強を教える?」
「はい! 私の得意なことって言ったら、勉強しか思いつかなくって。勉強系YouTubeもいるし、教育系Vtuberでも行けるのではないかと思いました!」
「それじゃあ、ターゲットリスナーは学生ってことね」
「はい! 主に、大学受験を目指している高校生を想定しています」
「ふぅむ、なるほど。10代の若者」
みゃあこさんは、考え込んだ。
「さくらちゃんはさ、なんでVtuberになりたいんだっけ」
「えっと…」
そう言われて、思い出した。
何でVtuberに?
有名になりたいから? 人気になりたいから?
ちがう。
さくらは、当初の目的を思い出した。
「生活費のため」
両親から、『働くが受験するか』と言われた。
働くことに決めたけど、外で働きたくない。家で誰とも会わずに稼ぎたい、そう思ったのだった。
「生活費を稼ぐためです」
「だよね。Vtuberの収入のメインは、スーパーチャットやグッズの売り上げが主になるんだけど、学生って、スーパーチャット、してくれるかな?」
そう聞かれ、さくらはハッとなった。
勉強が苦手な人に勉強を教える。
さくらは勉強が得意だし、winwinの関係になれるかと思っていた。だけど、それだけではいけない。
さくらにはなかった観点だった。
「そっか…。学生はお金がないからVtuberとしての収益がいまいちなんですね。なんていうか、割とゲスい考え方ですね」
「もちろん、有名になって、企業コラボで収益を得る方法もあるから、ぜったいにダメってわけではないけど」
「そういうのも考えないといけないんですね」
「ターゲットリスナーの設定は結構重要だね。ターゲットリスナーに合わせて配信時間帯を調整したりする必要もあるし」
こういう時のみゃあこさんは、頼りになる。
経験者らしく、さくらに語った。
「私はASMRだから、深夜配信がメイン。ASMRって夜、眠れない人が聞いたりするものだから。だけど、学生だったら、夕方から夜、かな? 学校から家に帰るときにYouTubeを見たりするでしょ。あとは、若者向けのコンテンツだったら、tiktokにも力を入れたほうがいいわね」
「なるほど…。ターゲットリスナーのことは、正直考えていませんでした…。」
「あとは収益源かな。通常のVtuberだとスーパーチャットになると思うわ」
さくらが考えた第1案は、学生向けだった。
しかし、収益という観点では難しそうだ。
「自分に何ができるか、で考えてみたんですが…難しいですね」
「自分に何ができるか、もいいけど、逆に、どんなニーズがあるのか、を調べてもいいかもね」
「供給ではなくて、需要を考えるってことですね」
「そう。リスナーの需要を満たすのが、私たちの仕事だから」
「需要を満たす…」
「リスナーの需要を満たす、一番簡単なのは、エロ売りだけど…さくらちゃんには無理そうだから。…そうだねぇ、うーん」
みゃあこさんは、考え込んだ。
「確かに私は胸も小さいし、魅力がないです…。」
さくらは、自分のやせ細った体を見て、みじめに思った。
みゃあこさんの色っぽい体が羨ましい…。
みゃあこさんは、さくらの3倍、いや、5倍は胸は大きいし、スタイルもいい。
体を少し動かすだけで、胸は大きく弾む。
「大丈夫、小さいのも小さいので需要はあるし! って、そうじゃなくて!
さくらちゃんは、純粋そうだから、そういうのには向いていないんじゃないかなって思ったの! あんまりそういうの、好きじゃないでしょ?」
「正直、ちょっと苦手です…」
さくらは昨日調べたVtuberについて思い出した。
「昨日XでVtuberについて調べたんです。どんなVtuberがいるか、どんなVtuberが人気なのかって。そしたら、胸が大きくて露出が多い人が人気があって…。やっぱりVtuberでも、そういうことやっていかないといけないんだなぁ、と思いました。だから、私も胸が出ていて色気があるVtuberになればって思ったんです…」
「ああ! だからお色気JDお姉さんのキャラだったのね。なんかさくらちゃんっぽくないって思ったわけだ」
みゃあこさんは、なるほど、と手を叩いた。
「あ~うん。確かに。いいねの数は多いよね。なんだかんだみんな、エロ好きだし」
「ぐすっ…。ぐすっ…。私、これからどうすればいいんでしょう」
「あら。さくちゃんが、またマイナスモードに入っちゃった。仕方ないなあ。これはとっておきのために、取っておいたんだけど」
みゃあこさんは、部屋から出たかと思うと、箱を持ってきた。
「はい。ベルギー産の高級チョコレート」
箱の中には、丸いチョコレートがぎっしり入っていた。
「私も疲れたときとか、嫌なことがあったら、このチョコレートを食べて、元気をもらっているの。自分へのご褒美っていうか。ほら、さくらちゃんも、甘いもの食べたら元気出るわよ?」
「ぐすっ…ぐすっ…。それじゃあ、お言葉に甘えていただきます」
さくらは、ぱくっと口に入れた。甘くてほろ苦い味が口に広がって溶けていく。
ぱくっ。
ぱくっ。
手が止まらない。
甘くて、幸福が広がっていく。
気づいた時には、箱は空っぽになっていた。
(ああっ…。これ、1粒500円するんだけど)
「みゃあこさん、ありがとうございました」
「う、ううん…。さくらちゃんの元気が出たのなら、それで十分…。うん…」
気のせいか、みゃあこさんは、涙目になっている。
「そういえば」
さくらは、思い出した。
「実はもう1つ考えてきたんでした」
2つ案を考えていたのを忘れていた。
甘いものを食べたおかげで、思考がクリアになってきた。
「第2案なので、あまり深く考えていなかったのですが、聞いてくれますか?」
「うん。もちろんだよ! どんなのどんなの?」
「私にできることについて、考えたんです。私、小学校のころからずっと勉強してきて、1つの目標に向かって、継続するのは、得意だなって思ったんです。それで私の特技って、何時間も継続できることかなって思って」
「ほう」
さくらは試験勉強のことを思い出した。
試験前は、1日20時間、机に座って勉強していた。
試験前ではない時も、中学高校と1日10時間、毎日勉強していた。
座って、集中するのは得意だった。
「長時間配信ってどうでしょうか」
「ほほう。例えばどんな?」
「YouTubeで、ほかのVtuberがどんな配信をしているのか調べたんです。あいさつ100回耐久配信、高評価100耐久配信、チャンネル登録1,000人耐久配信とか、そういうのをやっている人がいました」
「ああ、確かにいるねぇ」
最初に見た個人勢Vtuberの人も、あいさつ100回耐久配信をしていた。その人のチャンネル登録者は1,000人ちょっとだった記憶がある。
「だから、目標数を設定して、それを達成するまで終わらない、耐久配信ってどうかなぁと思って」
「でも、達成できなかったらどうするの?」
「達成できるまでずっと配信します」
「わっ!すごいガッツだ」
「私、ニートなので、時間はあります。めちゃくちゃ配信しまくる。それこそ1日20時間とか」
「若さがなせるわざだねぇ。でも1つ注意してほしいのは、11時間以上はアーカイブが残らないの。アーカイブって言うのは、配信が終わった後にも見れる映像のこというんだけど」
「ってことは、1日10時間しかできないんですか?」
「いや、配信枠を分ければ可能だけど。でも、10時間でも十分長いよ!?」
「いえ、これくらい当然のことです! 私は何の得意もないから…これくらいのことはしないとっ!」
さくらは両手でガッツポーズをした。
何ができるかは、まだわからない。
だけど、自分のできることから、1つずつ挑戦しよう。
さくらは、やる気に満ち溢れてきた。
「さくらちゃんは、配信モンスターだね」
「配信…モンスター?」
「たくさん配信している人のことを、配信モンスターって言うの。長時間配信はだれにもできることじゃないからね。それこそ、体力の関係もあるし、仕事や家事などプライベートの問題もあるけど」
「はいっ! 私、配信モンスターになります!」
「具体的にはどんな配信?」
「まずは、朝活のおはよう耐久配信をしようと思います。最初だから、何人来てくれるかわからないけど」
「うん、そうだね。やってみて、軌道修正って形でもいいと思うよ。特に、初期のうちはファンも少ないし、いろいろトライアンドエラーしていくといいかもね」
「キャラクターも考えました」
第2案だったのでそこまで深く考えてはいなかったが、みゃあこさんと話をしながら、イメージが浮かんできた。
「この前からVtuberについて調べていて、思ったんです。Vtuberの世界は、レッドオーシャンで荒波だなあって。だから、その荒波を超えることができる、船長に、私はなりたいです。だけど、私は船長ではなくて、まだまだひよっこの乗り組み員みたいな存在だから、船乗り水兵のキャラクターってどうかなって。服装は、白いセーラー服。赤いリボンと帽子もあります。髪の毛と瞳の色は、海と同じ青色。夢は立派な船長になること、です!」
頭の中で、キャラクターのイメージが浮かんできた。
大人っぽい、色気のあるキャラクターではないが、自分にマッチしている気がする。
「いいじゃない! 白ベースで清楚でかわいいと思うわ。名前は考えてる?」
「うーん。海で水兵だから…」
さくらは、スマホで調べた。
どんな名前がいいか、考えた。
・ダブりがないこと※ほかのVtuber と似ている名前はNG
・YouTubeやTwitter等で検索してほかのVtuberがヒットしないことを確認
・検索しやすいように、難しい漢字や予測変換が出にくいものは控える
「せいる・えたーなる、なんてどうでしょうか 全部ひらがなです。ひらがなだったら、子どもっぽいひよっこ感がでていいかなあって思って」
「うん! かわいい名前でいいと思うよ!」
みゃあこさんは、小さいことでも褒めてくれる。
「よしよし。さすがさくらちゃんだ! それじゃあ、次はイラスト発注だね! うーん、私のツテでお願いしてもいいけど」
「いいえ、自分でやります! みゃあこさんに頼ってばかりじゃなくて、自分でちゃんとできるようにならないとっ!」
「そっか。がんばれ。応援しているからね」
みゃあこさんは、優しく微笑んだ。
➤Vtuberのキャラクター
「配信モンスター」的な長時間耐久配信
キャラクターは、船乗り水兵の服で海をイメージした感じ。
名前は、せいる・えたーなる
<おまけ>
さくらは、長時間配信の耐久配信をすることにしました。
これが、本当にうまくいくのか、やってみないことには分かりません。
それでも、とにかくやってみる! やってみて、ダメだったらトライアンドエラー。
特に、視聴者が少なく固定されていないうちは、いろんなことに挑戦してみる。何個かやって、人気だったコンテンツにフォーカスしていく、という方法でもいいと思います。
また、名前についてですが、さくらは、全部ひらがなの名前にしました。
難しい漢字を使ったり、読めない名前は絶対にNGです。
「この人の名前、なんて読むんだろう?」と気になって調べてくれる人も中にはいるかもしれませんが、調べる、変換する、等のリスナーさんがたどり着くまでのステップを増やすのは、極力避けたほうがいいでしょう。
さくらの目的は『稼げる』Vtuberになることです。自分の趣味として楽しむだけだったら、自分の好きなキャラクターの見た目で、自分の好きなゲームを、自分の好きな時間帯にやるのでもOKだと思います。
Vtuber活動は、最高の趣味だと思いますよ!
スーパーチャットの話など、少し、ゲスい話ですみませんでした…。
※作者個人の感想です。