思いがけない初体験
※全編にわたり、Gの話をしています。
※GとはGブリのことです。
先日、特に目的もなく近所を徘徊していると、1匹のGに出会った。こちらが猫にやるように「チュッチュッチュッチュ」と音を出すと、ニィッと歯を出して笑ってくれた。隣の家のおばさんによく似た笑顔だった。
まあここまでは普通に嘘なのだが、私がチュッチュッチュッチュッとやると、なんとなくこっちを見てくれたような気がした。
外で見るゴキブリは、なんとも穏やかな昆虫であった。
太陽が照らすその翅は、まるで私が大学時代アルバイトをしていた惣菜店で、社員が焼き鳥を焼いたスチームコンベクションに残った、冷めて固まって飴と化したタレのようであった。
それを洗おうとした私が、爪と指の間にタレが刺さって怪我をしてしまい、全く洗わなかったその社員はこっぴどく怒られていた。普通は固まる前にある程度洗い流すものだからだ。
ゴキ美の話に戻ろう。
ゴキ美は、なんとも愛らしい顔をしていた。というか、ゴキブリは全員可愛いいと思う。
私以外のほとんどの人間はゴキブリが嫌いで、彼らのことをすばしっこい、ちいちゃい忍者だと認識していると思うが、そんなことはない。こちらが何もしなければ、基本的に彼らはゆっくり歩いているのだ。
なので、家の中で彼らを見つけた時は騒ぐのではなく、まず普通に「チッス」と挨拶してみてほしい。そうすれば彼らも怒ったり飛んだりしないだろう。
ゆっくり顔を見合せてみよう。
左右交互に動く触覚、しっかりとした足どり、思わずビデオに撮ってしまいたくなる動きをしている。
また、ゴキブリは面白い。
走っている時はIQが200だか300だかを超えるという話があるが、普段は普通にアホである。
ある日観察していると、何もないところでコケる場面を目撃してしまった。しかし彼は表情一つ変えることもなく、何事もなかったかのように散歩を続けた。絶対内心恥ずかしかったと思う。
また、以前楽しい大人のお店に行った際、古物商の窓口の近くの柱に1匹のゴッキーを見つけた。そのゴッキーは縦に張り付いており、まるで人間のような踏ん張り方をしていた(ヒザがあって、ヒジがあって、みたいな)。
その光景が面白く、店内からガチャガチャ聞こえる中、私は動画を撮っていた。
その時のことだった。
ゴッキーの尻目掛けて、1匹の羽虫が飛んできたのだ。大きさ的にはゴッキーの50分の1程度の、蚊ほどのサイズだった。
次の瞬間、羽虫がゴッキーの尻に触れ、ゴッキーは「うぜぇな」と言わんばかりに体全体を「シュンッ」と揺らした。6本の足で柱に張り付きながら、関節を使ってヒュン! とやったのだ。驚いた羽虫はどこかへ飛び去っていった。
その時の映像をまだ持っているのだが、驚くことに、その「シュンッ」という効果音がバッチリ記録されていたのだ。それがたまらなく面白くて、たまに見返している。
話を戻そう。大きく脱線してしまったが、今回話したかったのは外でゴキブリを見たという初体験だ。
大自然の中で見るゴキブリは本当に珍しくて、場違い感が凄かった。
しばらく並走したところで恥ずかしくなったのか、ゴキブリは突然右折して地面の隙間に潜り込んでいった。
と思ったら苦戦している。どうやら隙間が思ったより狭かったようだ。私との空間の気まずさに耐えきれず潜ったのはいいが、自分の体型を忘れていたのだろう。
必死に体をくねらせて隙間に入り込もうとするゴキ美の姿に、私はエロスを感じた。
そういえばなろうでもこういう広告があったなぁ。どっかの窓から家に入ろうとしたらお尻が引っかかって動けなくなって、外からいいようにされるという、ヤツ!!
ゴキ美がいなくなったあとも、私はその隙間を眺めていた。
ここに居ればもう一度、彼女に会える気がしたから。