ピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンク殿下ピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンク私ゲーリー
「公爵令嬢アホンダ!お前はこの中の一人をイジメて屋上の階段から突き落としたな!」
卒業パーティの最中、王太子様は三十人の男爵令嬢を引き連れて私を断罪した。
「ハイ!突き落としました!」
「そうか!とりま婚約破棄確定だ!で、どの令嬢をイジメてたのだ?俺はその子と真実の愛を貫き、残りは罪人として裁く!」
どうやら殿下はピンク達の区別がついてない模様。しかし、この件で殿下を愚かだと言う資格は私には無い。
「えっと…タンマ」
私は言葉に詰まる。そう、私もどのピンクを突き落としたか分からないのだ。
私はこの世界が乙女ゲームである事も、自分が悪役令嬢な事も知っている。一度死んだ身だ。悪役令嬢を全うし、卒業パーティでヒロインと王太子に断罪されてやろうと考えていた。
だが、入学式で異変に気付く。私のクラスには私と婚約者の王太子と騎士団長の息子のゲーリー、そしてヒロインのピンク頭の男爵令嬢。そして、残りの生徒も全員ピンクの男爵令嬢だった。
クラスの様子を上から見たら、こんな感じだったろう。
ピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンク殿下ピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンクピンク私ゲーリー
三十人のピンクは全員が王太子に擦り寄り、全員が私を目の敵にし、全員がゲーリー君を振り、全員が原作のヒロインムーブをしていた。
本物のヒロインは一人だけで、残りはヒロインの座を奪おうとしている転生者なのだろう。そう考えた私は、原作の流れを維持するために本物をイジメる事にしたのだが、全く区別がつかなかった。仕方なく、全てのピンクに一回ずつイジメのフルコースを行い、王太子にイベント進行の丸投げをしてみたのだが、その結果がこれである。まさか、彼もヒロインがどれか分かってないとは。
「えっと…私がイジメたのは…」
三十人のピンクがワクテカして私の言葉を待っていた。ヤバい、本当に区別つかん。
えーい、こうなったら消去法じゃい!
「え、えーと、ここで一発で殿下の真実の愛の相手を言っちゃうと盛り上がりに欠けますよね?と、言うわけで本当の真実の愛の相手なら簡単に答えられる質問をしていこうと思います」
私の提案に対し、ピンク達は余裕の笑顔で頷いた。よし、交渉成立。ここから頑張って一人に絞るぞ。
「第一問、この中に妊娠している人はいますか?」
この質問に対し、五人のピンクが手を上げた。
「私、お腹に殿下の子がいます!」
「臨月です!」
「もうすぐ三人目が生まれます!」
「ヒッヒッフー」
「う、生まれるぅぅぅ!」
五人のピンク妊婦は屈強な衛兵に連れて行かれた。乙女ゲームのヒロインが本編中に妊娠する訳ないだろ。これで、残り二十五人。
「第二問、仮にこれから私と勝負するとして貴女のメイン武器は?」
この質問に対し、九人が素手、六人が光魔法の杖、五人が聖剣と答えた。
「「「「「うるさーい!アタシがヒロインなのよおおおお」」」」」
そして折りたたみナイフをポケットから出して襲いかかってきたピンク五人が衛兵に連れて行かれた。乙女ゲームのヒロインがただのナイフをポケットに忍ばせ、それが頼れる武器なはずない。残り二十人。
「第三問、貴女の家はどんな男爵家?」
これに対し十六人が普通の男爵、一人が麻薬栽培で成り上がった男爵と答えた。
「私の父は公爵の甥で、そこらの男爵を遥かに超える権力の男爵です!」
「私の父は剣の達人で、世界を滅ぼす怪物を倒した成果により男爵になりました!」
「私の父は元は猛獣使いでしたが、手品師に転職して味方を鼓舞しチームを盛り上げた男爵です!」
三人のピンクを残し、衛兵が十七人のピンクを連れていった。ゲームの主人公は、なんやかんや特別な生まれなのだ。ガチの男爵令嬢が乙女ゲームのヒロインな訳ないだろう。
これで残り三人。ここまで絞れば次の質問で判明するはずだ。
「最後の質問です。貴女は前世でこのゲームをどれぐらいやり込んでましたか?まずはそこのつぶやきシロー似の男爵令嬢さん」
「はい!私はちぇふぇい丸の動画配信でこのゲームを知り、やり込みプレイを何度も見ました!アンソロジーコミックも全部買って、アニメも円盤買いました!」
銀河の歴史の1ページになれそうな男爵令嬢は屈強な衛兵に連れて行かれた。お前、ゲームプレイしてないやんけ!残念ながらボッシュートです。
「次!分真剣が使えそうな令嬢さん!」
「はい!私もちぇふぇい丸さんの動画でこのゲームを知り、ドはまりしました!具体的には4万円サンドに入れてもボーナス当選せずつらたんな所さんでした!でも、プレミアのフリーズが来て私の心臓もフリーズして異世界転生した訳です!」
フリーシナリオに定評がありそうな男爵令嬢は屈強な衛兵に連れていかれた。作品の愛し方に貴賤は無いのだが、乙女ゲームヒロインがパチンカスなのはアウト。
「最後のピンクさんは、前世でどんな畜生でしたか?」
「前世ではちぇふぇい丸と言う名前を使い、ゲーム実況で稼いでました」
「「おぎゃゃゃゃゃ!!」」
私と殿下はM字開脚で失禁した。このゲームの宣伝に大貢献した伝説の実況ちぇふぇい丸さんとこんな所さんで会えるなんて!
「あ、何か誤解をしてるみたいですが、私はちぇふぇい丸さん本人じゃないです。コピー動画で広告収入得ていただけです」
このピンクは衛兵達が入念にリンチした後に連れて行かれた。一番許せんタイプのピンクじゃないかこの野郎。
「しかし困ったな。クラスの男爵令嬢の中に、真実の愛に値する令嬢がいなかった」
「そうですね。本物のヒロインはどこに…」
「ここですよー」
私以外の女性が退場したのに、若い女の声がした。そちらを向くとモヒカン頭のいかつい男が居た。
「あ、アンタは騎士団長の息子ゲーリー!」
「はい、ゲーリーです。そして、このゲームのヒロインでもあります」
「意味がわかりませんわ!」
「クラスにヒロインの座を狙うピンクが大量発生したのを知った私は、教室の扉の出入りを繰り返してグラフィックをゲーリーにしたのです。本物のゲーリーはその際に消滅しました」
そ、そんな裏技あったの!?
「そして、ヒロインレースから一時離脱し難を逃れた私は、全ての偽物が退場した今こうして名乗り出た訳です」
「な、成歩堂」
「後は、階段から突き落とされるフラグをオンにするだけです。さあアホンダさん、私の尻を蹴って下さい」
「今蹴ってもフラグ成立するんだ!?」
本物のヒロインを名のるゲーリー(仮)の知識に圧倒された私は、言われるがまま彼?の尻を蹴る。
「いきますよ、えいっ!」
ケリッ
「んほー、キタキタキタ!真実の愛エンド来たコレー!」
尻を蹴られたゲーリーは身体が点滅しながら激しくラグり、全身が0と1の塊になった後、ご存知ピンク頭の男爵令嬢の姿になった。
「はいどーもこんにちは。ピンク頭のヒロインちゃんです。えー、Part2のラストでゲーリーになって以来、実に二年と十ヶ月ぶりに元に戻れました。という訳で、学園生活をマッチョで過ごしつつベストエンドを目指す実況、最終回はーじまーるよー」
「結婚してくれ!」
間違いなく完全無欠なヒロインだと確信した殿下が、男爵令嬢さんを抱き寄せた。この三年間、彼女と殿下に接点は何も無かったはずなのだが、実際ベストエンドを発生させているのだから文句を言えるはずも無い。
屈強な衛兵が涙を流しながら拍手をし、殿下の親友のゲーリー(本物)がヒューヒューと騒ぐ。こうなってしまったからには、私も最後の役目を果たさなければ。
「衛兵さん、私を逮捕しなさい」
「おかのした」
私の手に手錠が掛けられる。パーティ会場でゲーリーの尻を蹴った私は、三日前に学校の屋上の階段でヒロインを突き落とした罪で逮捕されるのだ。
「皆さんいかがでしたでしょうか?これで今回の検証動画シリーズは終了でっす!では次回、攻略キャラ全員未登場のままハーレムエンドを目指すPart1でお会いしましょう。ちぇふぇいふぇい!」
…もしかしたら、ピンクが三十人に増えたのも、この男爵令嬢の仕業なのでは?そんな事を思いながら私はパーティ会場を後にした。