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召喚した者・された者 3

イリューディアさんに突き落とされるように光の中に

押し出された私は、そのあまりの眩しさに目をつぶる。


するとすぐに不思議な浮遊感に襲われたけど、

それも一瞬のことだった。


ふいに消えた浮遊感にバランスを崩し、

スライディングするみたいに

前のめりにおもいっきり頭から転んだ。


瞬間、意識が飛ぶ。


ハッと意識を取り戻したのは、

近くでものすごく大きな声がしたからだ。


「おい、なんだこれは⁉︎ただの子どもではないか、

一体どこから来た⁉︎まさか儀式は失敗か⁉︎」


うるさい。倒れてる人間のすぐ側で

大声出すとかデリカシーないのかしら。


こういう時は普通、大丈夫?とか何かないかな?


鼻とか手の平とかひざとか、あちこち痛い。

ジンジンするからきっと擦りむいてる。

だって私が倒れてるこの床、

なんかざらざらする白い石畳だもん。


ていうか、イリューディアさん意外と力が強かった。

あんなにおっとりふんわりな優しい見た目なのに。


慌ててたからだと思うんだけど、

思いっ切り突き飛ばされたような気がする。


段々と意識はハッキリしてきたけど頭を上げるのも

億劫で、うつ伏せたままあーだこーだと考える。


・・・だって、さっきのあのデリカシー皆無な

大声の他にもなんだか周りがざわめいていて

起き上がるのがちょっと怖い。


これはもしかして、イリューディアさんの言ってた

【召喚儀式で呼ばれた状態】なんじゃないかな。


めちゃくちゃスライディング

決めちゃったんですけど、、、


こんなカッコ悪い異世界召喚ってある?


もうヤダ、恥ずかし過ぎて死にたい。

いや、むしろいっそのこと社畜でいいから

元の世界に返品してもらってもいい。


世界を救うよりもまず先に、このいたたまれない状況に

ある私の心を誰か救ってほしい。。。


困り果てていたその時だった。


誰かの大きな手が気遣うようにそっと優しく

私の背中に添えられた。


「・・・殿下、やはりこの子どもの他には

誰も現れていないようです」


ここに来て初めて私を気遣うような声音を聞く。


「むぅ・・・そうか。では神託の癒し子とはこの

子どもか?いやしかし、文献で見た召喚の様子とは

だいぶ違ったぞ?神々しさとかそういうのあったか?

おい、しかもこれ全然動かないんだけど大丈夫か、

死んでないよな⁉︎」


殿下、と呼ばれた大声の男はズケズケとまた

デリカシーのかけらもないことを言い放った。


しかも「これ」扱いだ。


それに対して私の背中にそっと触れてくれている

その人は優しかった。


「大丈夫です殿下。きちんと呼吸も出来ていますし、

ぬくもりもあります。ただ、このままにはしておけません。

とりあえず癒し子様のために準備していた部屋へこの子を

運びましょう」


そう言うと背中に添えられていた大きな手が離れた。


代わりにふわり、と柔らかな毛布のようなもので

包まれそっと抱き上げられる。


そこで初めて、さっきまで

私に触れていてくれた人と目があった。


短めの黒髪に、太めの眉と少し眉間に皺を寄せて

気難しげにこちらを覗き込んでいる瞳は

赤味が混じった複雑なオレンジ色。


まるでよく晴れた日の夕方の、夕陽のような色だと

思った。すごくきれいだ。


初めて見る瞳の色がもの珍しくて、まじまじと

その瞳を見つめてしまう。


相手も、まさか私が起きていたとは思わなかったのか

バチリと目があった瞬間、驚いたようにその綺麗な瞳を

見開いた。


一見すると気難しげでコワモテのその顔が、

おかげで眉間の皺が伸びて思いのほか童顔になる。


案外若いのかな?とか考えていたんだけど

その間にもその人は食い入るように私を見つめている。


んっ?どうかした?

私の顔に何か付いてるのかな?


・・・ああそうか。


もしかすると、今の私は転んだ拍子に鼻っ柱を

擦りむいて酔っ払いみたいに鼻の頭が真っ赤に

なっているみっともない状態なのでは。


思い切り顔から転んだから、

鼻どころか顔全体も汚れているのかも。

きっとそうだ。そうに違いない。


そう思うと急に恥ずかしくなってきて、顔が熱くなる。


せっかくイリューディアさんに綺麗にしてもらったのに、

この世界で会う人達に初めて見せる顔がこれだなんて

頑張ってくれたイリューディアさんに申し訳ない。


「・・・あの、あんまり見ないで下さい」


転んだ時に打ちつけたらしい腕は動かすとちょっと

痛かったけどそっと顔の真ん中、鼻を隠すように

両手を当てて下を向いた。


ちゃんと喋ったつもりだったけど、思ったより

小さな声しか出ない。


だからだろうか。

私の声が聞こえなかったのか、

その人は微動だにせずまだ私を見ていた。


・・・どうしよう。


「どうしたレジナス‼︎お前が固まるくらいその子どもの

顔はひどい見てくれなのか?まさか血まみれか⁉︎」


困っていたら、私を抱き上げた後まったく動かないのに

焦れたのかデリカシーのない大声殿下がまたデリカシーの

ない事を大声で言った。


でもおかげでその大声に、私を抱き上げてくれていた人は

ハッと我に返って歩きだしてくれた。


そうか、この夕焼けみたいな

瞳の人はレジナスさんっていうんだね。


私みたいに汚れた顔をしているボロボロな人にも

優しくしてくれていい人だな。


ありがとうレジナスさん。


あとデリカシーのない大声殿下は風邪でもひいて

ちょっとその大声が何日か出なくなればいいと思う!















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