召喚した者・された者 2
・・・異世界から召喚される者の顕現。
その時の様子は100年余り前の勇者の現れ方を記した
文献によれば、まず清涼な空気が周囲に漂い
まばゆい光が周囲にあふれるのだという。
そしてその光はやがて魔法陣の中心へと収束し、
いつの間にかそこに1人の人間が佇んでいる。
その姿は神からの加護による神力にあふれ、
この世界に住む我々とは違う不思議な雰囲気を
まとっているという。
そうやって、神から遣わされる者はこの世界に現れる。
昔から伝わり文献にもそう記されているため、
ルーシャの人々が思い描く召喚とはそういうものだった。
しかし現実は。
突然、召喚の儀式に使っている魔法陣の周りの空気が
ズン、と重苦しさを増した。
そしてそれまで青々と晴れ渡っていた空が少し曇りだす。
さらに突然、ガカッ‼︎っと稲光のような閃光と共に
まばゆい光が周囲に満ちた。
おまけに大風も一緒に舞い上がりまるで小さな嵐のようだ。
召喚儀式のための詠唱をしていた魔導士達が
立っているのもやっとの大風だ。
だからといってここで詠唱を中断するような事があれば
召喚の儀式は失敗する。
魔導士たちが倒れないよう、詠唱を続けられるよう、
万が一の時のために待機していた騎士団員や
補助魔導士らが必死で後ろから彼らを支えた。
かろうじて誰の支えも借りずに一人で立って
詠唱しているのは魔導士団長くらいのものだ。
儀式に立ち会っている皇太子イリヤも、
護衛に守られながらジッと魔法陣の中心を見つめる。
なんだこれは。
文献にある召喚の様子とだいぶ違うじゃないか。
その場にいる者達に戸惑いと不安が
じわりと広がった時だった。
光と大風が魔法陣の中心に急激に収束し始め、
あっという間に一本の太い光柱になった。
そしてその中から、まるで背中を強く押し出されたかの
ようにブカブカの白い服を着た小さな子どもが突然
転がり出てくると、頭から倒れ込みそのままピクリとも
動かなくなった。
「「「・・・・え???」」」
まるで想像していなかった事態に儀式を見守っていた
全ての人間が驚き、周囲の空気が固まった。
そうしてルーシャ国のおよそ100年ぶりの召喚儀式は
誰もが呆気に取られる中、突然幕を閉じたのだった。