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一日一夜物語 10

「良かった、ユーリ。どうやら本当に

なんともなさそうだね。」


ベッドの上に座る私に、リオン様は

心の底から安心したように微笑んだ。


「はい、大丈夫です。まさか3日も

眠っていたなんて、心配をかけて

ごめんなさい。」


そう謝れば、あれだけの力を

使ったのだから無理もないだろうと

言われた。


あの時、私の使った癒しの力はやっぱり

王都全域に降り注いでいたらしい。


当然この奥の院にも、リオン様がいた

政務室のある王宮の本宮にも。


屋根があるのもお構いなしに、

王宮の建物の中にまで普通に

光の粒子とリンゴの花が

舞ったというから、

商工会議所の塔の中で

私が経験したのと同じだ。


恐らく光が降り注いだ王都全域で

全て同じ現象が起きているはずで、

それがどんな結果を起こしたかは

この3日間、魔導師院の人達と

神官さん達が協力して

調べてくれているらしい。


「僕の時と違って、ユーリを中心に

力が大きく作用したのではなくて

ユーリのいた場所からの遠近に

関係なく重傷者も軽傷者も、満遍なく

治ったらしいとは聞いているよ。

もう少ししたらシグウェルが来るから

一緒に彼の報告を聞こうか?」


リオン様の申し出にありがたく頷いて、

シグウェルさんを待つ間もゆっくりと

過ごした。


・・・ちなみにレジナスさんはその間も

いつも通りしっかりとリオン様の後ろに

控えていた。


リオン様と一緒に部屋に入ってきた時は

心配そうに私を見つめていたけれど、

元気だと分かると安心したのか

本当に普通にいつも通りだった。


それが何だかやっぱり悔しい。


あれを覚えているのが私だけだとか、

どう考えてもおかしいでしょ。

かと言って、あの時のことを

蒸し返すのもどうかと思う。


結局、レジナスさんが面と向かって

私に自分の気持ちを伝えてくるまでは

黙っていた方がいいかなという

結論に落ち着いた。


何だか腑に落ちないけど。

・・・レジナスさんのばか‼︎


ーそんな風に、私の中にレジナスさんに

対してもやもやした気持ちがあったり、

あの街中で攫われそうになった時

真っ先に思い浮かべたのがレジナスさん

だったりしていた時点で、


私にはレジナスさんに対しての気持ちが

芽生え始めていたのかもしれないけど、

恋愛経験値がほぼゼロの私はこの時

それに全く気付いていないのだった。




・・・リオン様とおしゃべりをしながら

過ごしていると、やがてユリウスさんを

伴ったシグウェルさんがやって来た。


最初に私の魔力の流れを診てもらい、

どこも悪くないことを確認した。


実はこの3日間、忙しい合間をぬって

シグウェルさん達は毎日私のお見舞いと

様子を見に来てくれていたらしい。


ありがたいなあ。冷たそうに見えて

優しいところがあるよね、

シグウェルさん。

この頃はよく頭も撫でてくれるし。


そう思いながらみんなでお茶を

飲んで一息ついた時だった。


ふと、シェラザードさんの使った魔法が

気になった。だってあれ、手を掲げて

光を集めるところまではなんだか

ゲーキ・ダマーっぽかったんだもん。

その後は全然違ったけども。


シグウェルさんに、それについて

尋ねるとあれを見たのかと

眉を顰められた。

ユリウスさんもギョッとしているし、

リオン様も心配そうに私を見ている。

あの場にいたレジナスさんですら

物言いたげで、眉間に皺が寄っている。


あれって、そこまでみんなの顔色が

変わるようなものなの?

バッチリ目の前で見てしまったよ?


シグウェルさんの問いに頷くと

ため息をつかれた。


「あれを子どもの前で使うなど

正気の沙汰とは思えない。

前から変わり者だと思っていたが

想像を越えているな。」


え、シグウェルさんも大概変わってると

思うんだけどそのシグウェルさんに

変わり者って言われちゃうんだ。


目を丸くして驚いている私に、

魔法の見識を広めるのに

丁度いい例だと思ったのか、

一応丁寧に説明してくれた。


「彼のあの魔法は浄化魔法だ。

普通であれば、浄化魔法と言うのは

状態異常や精神汚染などの魔法効果を

打ち消すために使われる。

どちらかと言えば治癒魔法に近く、

人を助けるために使われるものだ。」


でも人助けどころか思いっきり

人が燃えてましたけど・・・?


声には出さないまでも、

そんな私の疑問の意を汲み取り

シグウェルさんが頷いた。


「見た目は全くもって攻撃魔法の

ようだっただろう?それが彼の特徴、

何というか魔法特性なんだ。

彼自身、膨大な量の魔力を持っているが

使う魔法は攻撃魔法に限られている。

というか、どんな魔法を使っても

全て攻撃魔法になってしまうという

変わった魔法特性を持っている。」


「あ、じゃあ浄化魔法なのに人が

燃えてしまったのも・・・・?」


そう聞けば、レジナスさんの

眉間の皺が深まったような気がした。


ユリウスさんも、ひえぇ、やっぱアレを

目の前で見たんすか⁉︎と驚いている。


「そう。過度な作用でこの世に存在した

痕跡すら浄化して消し去ってしまうし、

治癒魔法を使えばその治癒の力は

行き過ぎて相手を治すどころか

粉々に破壊し尽くして髪の毛一本すら

残らない。一度試しに擬似魔物で

止血魔法を使わせてみた時は

止血どころか息の根まで止めてしまったが、

当の本人は息が止まれば

血も止まるでしょうと飄々としていたな。」


その時のことを思い出したのか、

シグウェルさんの目がちょっとだけ

面白そうに輝いた。

やっぱりこの人も変わっている。

2人は似た者同士なんじゃないのかな。


「そんなわけで、魔法と言うのは

使う人間とそれに手を貸す精霊次第で

思わぬ効果を発揮することになる。

魔法を扱う時はそれを頭に入れて

おいた方がいいだろう。

・・・そこで今回君が使った魔法、

癒しの力についてなんだが。

これも思わぬ効果、と

言っていいのかも知れない」


私の使った癒しの力についての

報告をする段階になると、

シグウェルさんはお茶を片手に

あの紫色の冷たい瞳で私を見遣って、


「王都中の医者を

失業させるつもりか君は。」


苦言を呈してきた。


「な、なんの話ですか?」


「君が今回使った癒しの力の話だ。

結論から言おう。君がその力を

使ったことにより、今現在王都からは

病人もケガ人も全て消え失せた。

おめでとう、君は王都に住む全人民の

悪いところを治してしまった。」


おかげで王都の全ての医者と

医療従事者、魔法治療士は

この3日間というもの開店休業状態だ。


そう言われて耳を疑った。

リオン様とレジナスさんも驚いている。


「え・・・?あの騒ぎでケガや火傷を

した人だけでなく、王都に住む人達

みんなの悪いところが治ったんですか?

なんで?」


「それを知りたいのはオレの方だ。

君が願ったからこその、この結果では?」


何を言っているんだと言うような顔で

シグウェルさんはお茶を飲んだ。


「すごいっすよ、ユーリ様。ちょっと

腰が痛いだけのおばあちゃんから、

余命宣告されて死ぬのを待つだけだった

病床の末期患者、おまけに魔物討伐で

身体欠損した重傷者まで欠損部分が

再生して治っちゃってますからね!

おかげでイリューディア神様の

大神殿には感謝の祈りを捧げる人達と、

ユーリ様へのお見舞いを持ち込む人達で

行列が出来てるっす‼︎」


ユリウスさんも興奮気味にそう言った。

いや、それはすごいけども。

でも私はそこまでの事は願って

いなかった気がする。


「ユーリ、一体イリューディア神様には

なんてお祈りしたの?」


リオン様の問いかけに呆然として答える。


「あの時は確か・・・この騒ぎで

傷付いたみんなが治りますように、

みんなが王都での休暇を笑顔で

楽しめますようにってお祈りしました」


「この騒ぎで、という部分を抜けば

傷付いていた者全てが治り、

王都に住む全員が笑顔で楽しく

この連休を過ごしたな。」


拡大解釈をすればあながち

間違いとも言い切れない。


シグウェルさんは納得したように

頷いている。


まただ。やっぱりイリューディアさんの

加護の力は大雑把・・・じゃなくて

当たり判定が強い。


しかも今回は欠損していた身体の

再生から余命宣告された死にそうな

人まで治してしまってるあたり、

今までで一番強く癒しの力が

働いている。


唯一この結果に心当たりがあるとすれば、

建物の中にいる人達にもしっかり力が

伝わるようにと、今までになく

強く願ったことくらいだ。

もしかしてそのせい?


そう話したら、恐らくそれだと

シグウェルさんに肯定された。


「まさか、リオン様の時みたいに

王都の人達みんなに特殊な加護が

ついちゃった、とかはないですよね⁉︎」


私が一番怖いのはそれだ。

王都の人達を全員強化人間に

作り変えてしまっていたらどうしよう。


「それはない。

試しにこいつを切ってみたが

殿下の時とは違って自動回復を

しなかったからな。安心したか?」


こいつ、と言って顎で示されたのは

ユリウスさんだ。え?切った?

どういうこと?回復しなかったって事は

ケガをしたってことだよね?


「そうなんすよ、ヒドイと思いませんか

ユーリ様‼︎団長、俺のことを風魔法で

突然切りつけてきたんですから‼︎」


「どうせ回復魔法で治せるから

いいだろうが。適材適所だ」


「いや、その言葉はそーいう意味で

使うやつじゃないっすからね⁉︎」


「とにかくそういうわけで、

王都の者達も悪いところが治ったのは

君が力を使った一度きりだ。

殿下と違い、少数に永続的な治癒効果は

与えられなかったかわりに

大人数に対して一度だけ、その癒しが

与えられたのだろう。」


シグウェルさんのその言葉を引き継ぎ、

ユリウスさんが懐から書類を出した。


「今回ユーリ様が身体欠損者や

死にかけた人達まで治したことで

この先、国の内外からユーリ様の力を

頼ったり利用したがる人達に

押し寄せられても困るっすからね。

今回の事象は特殊事例で、

その力を使ったユーリ様は

未だに昏倒して寝込んでるってことで

神官側とも協議して口裏合わせを

してきたっす。」


これがその草案です、と渡されたそれを

リオン様は受け取って確認している。


確かに、病気やケガをする度に私の力を

頼るのもどうなんだろうって気もする。


だけどこんなに元気になったのに

倒れて寝込んでるふりをするのも

余計な心配をかけてしまって

申し訳ないなあ・・・。


リオン様は一通り確認すると、

ふむと頷き立ち上がった。


「いいんじゃないかな?

あとはもう少しこまかいところを

詰めたいから、僕の部屋で話そうか。」


「了解っす。体裁さえ整えばすぐに

大神官様から大々的に王都を含め

国内に発布してもらえるように

準備はしてありますから」


「それじゃあユーリ、そういうわけで

あともう何日かは部屋でゆっくり

休んでいてね。・・・ああそうだ、

キリウ小隊の隊長から面会の申し出が

あったから、夕方には僕が立ち会って

少しだけ時間をもらうからね。

その時にまた会おう。」


そう言って、シグウェルさん達を

引き連れてリオン様がいなくなれば

途端に私の部屋はシンとする。


シェラザードさんから面会を

申し込まれていると聞いて、

あの夜の闇にも艶やかな

微笑みと金色の瞳を思い出す。


使う魔法が全部攻撃魔法に

なっちゃう人かぁ。


『ーまた日を改めて会いましょう、

オレの女神。』


あの物腰丁寧な物言い、逆になんだか

不安になるんだよね。大丈夫かな。

なんかとんでもないこと

言い出さなきゃいいんだけど。


一抹の不安を抱えながら、私は

冷めてしまったお茶を飲んだのだった。


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