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シグウェルさんと一緒 3

「・・・おい、お前たちさっきから

一体何をごちゃごちゃ話しているか

知らないが、早くついてこい」


シグウェルさんが私達を促す。


「セディ、星の砂はどれくらいの量が

届いている?すぐに使えそうか?」


その問いにセディさんが

心配そうに答えた。


「量はワイン樽ほどの大きさの箱に

おおよそ一つ分です。良質なだけに、

発火させないように集めるには

ご本家所属の魔導士達でも

なかなか苦労されたようですね。

坊ちゃまも取扱いにはくれぐれも

お気を付けください。」


砂を集めるだけでも大変なんだ。

大丈夫かな、豊穣の力で量を

増やしたら爆発するとかないよね?


「・・・ほんとに危険なんですね、

星の砂って。名前はすごくいいのに。」


「発火しないように、扱う時には

魔力を細かく調整して砂に

纏わせとけば大丈夫っすよ。

ただ、その魔力を纏わせるってのが

大変な技術を必要とするんで

取り扱える人が限定されて

きちゃうんすけどね・・・。

あ、ユーリ様そこ気を付けて下さい。

騎士さんも!一歩右にずれると

屋敷の外に出ちゃうんでちゃんと

俺の後をついてくるっす。」


説明してくれながらユリウスさんが

変なことを言う。


「普通に廊下を歩いてるのに

なんですかそれ。」


「このお屋敷、団長のかけた魔法の

せいで間違った手順で歩くと

屋敷の外にはじき出されて

しまうんっすよ。色々貴重な魔道具や

材料があるから侵入者避けだって

本人は言ってますけど、

俺も慣れるまでは何回外に出された

ことか」


「そんなのでよくセディさんや

侍女さん達はここに住んでますね?」


からくり屋敷みたいなお屋敷で

掃除とかすごく大変そう。


「みんな腐ってもユールヴァルト一族

出身の魔導士ですからね~、

俺とは違ってまあ慣れたもんっすよ。

ただそのおかげでこのお屋敷には

お客さんなんて呼べたもんじゃ

ないっすけど。」


おまけに団長の実験で作られた

変わった生き物とかたまにいるし。


ちょっと聞き捨てならないことを

ユリウスさんがぽろりとこぼした。


さっきお屋敷に入る前に聞こえてた

隠せって、それ?

え、何がいるんだろう。

だから護衛の騎士さん達が

警戒してたの?


私の不安を読み取ったのか

セディさんが慌ててフォローした。


「だ、大丈夫ですよユーリ様。

ちょっと啼き声の変わった小鳥とか、

尻尾の数が多い番犬とかが

いるだけですから。

それもお客様の邪魔にならないように

きちんと管理しておりますし。

不穏なモノが出た時もわたくし達が

すぐに対処しますので!」


・・・いや、お屋敷に入ってすぐ

侍女さんが黒い何かを蹴り飛ばして

消してたけど、あれがその不穏なモノ

なんじゃないの?


初手から怪しい目に遭ってたんだ。


マリーさんも私と繋ぐ手に力が

入ったようだった。

私のせいで危険な目にあったら

かわいそうなので励まさなければ。


「心配ないですよマリーさん!

ほら、私シグウェルさんに貰った

魔除けの鈴を付けてますからっ‼︎」


そう言って自分の首元の鈴を

握りしめる。音は最少まで

小さくしてもらったので周りには

ほとんど聞こえてないけど、

結界石だから着けてるだけでも

効果はあるらしい。


「えっ⁉︎あの坊ちゃまが女性に

アクセサリーを差し上げたんですか⁉︎」


マリーさんじゃなくて

セディさんが食い付いた。


アクセサリーっていうか、

魔除けの鈴ですけど?


腰をかがめて私の結界石を見つめた

セディさんがほうとため息をついた。


「なんて美しい結界石でしょう。

この内包された光の粒、

一つ一つから清い魔力を感じます。

煌く光の反射する音すら聞こえて

きそうな素晴らしさ。

同じ物をノイエ領から坊ちゃまは

いくつか持ち帰っておりますが、

その中でもこれは随分と良いところを

切り出して作ったようです。

魔除けの掛け方も丁寧な

良い仕事ぶりで、さすが坊ちゃま。」


へえ。これってそんなにいいもの

だったんだ。手放しで褒める

セディさんの言葉に感心していると


「魔導士自らが己の魔力を込めた

アクセサリーを女性に贈るなど、

自分の力を常に身に纏い、

いつも自分を身近に感じて欲しいと

告白しているようなものです。

また、その人が自分のものであると

いう所有印のような意味合いも

あるんですよ。

そんな粋な贈り物が出来るように

なるとは、あの非常識な坊ちゃまも

随分と成長されたものですねぇ」


すごいことを言った。


え?なにそれ⁉︎魔導士の人から

何か貰うと、もれなくそんな

意味合いになっちゃうの?


驚いて目を丸くした私に

ユリウスさんが慌てて口を挟む。


「い、一般論!あくまでも魔導士が

自分の恋人にプレゼントする時の

一般論ですよユーリ様‼︎この場合は

団長、絶対そこまで考えてないっす!

いいとこリオン殿下への嫌がらせか

ヨナス神のユーリ様への影響を

心配してのことっすから‼︎

ちょっとセディさん、

妙な事言うのやめてもらえません⁉︎」


そう言ったユリウスさんは、

ヘタな牽制は最悪、殿下への不敬で

死罪っすからね⁉︎とセディさんと

私の間に割って入ってきた。


ああ驚いた。恋人が魔導士の場合は

そういう意味になるってことね。


まったく、セディさんはいちいち

人を驚かせるようなことを

言わないで欲しい。


ほら、向こうの方でシグウェルさんも

呆れたように私達が追いつくのを

待っている。


早く行かないと何を遊んでいるんだって

またあの冷たい瞳で怒られちゃうよ。




・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




その日も、いつもと同じ一日に

なるはずだった。


朝起きて、薬草の育ち具合を調べて、

屋敷の侍従や侍女達に1日の予定を

確認・打ち合わせをして・・・


侍従の1人がわたくしの執務室に

飛び込んで来たのはそんな日の

昼過ぎのことだった。


「セディさん‼︎シグウェル様の

精霊が現れました!

もうしばらくで到着されるかと‼︎」


窓の外を見ると、なるほど坊ちゃまの

よく使うオオワシの精霊が

くるりくるりと屋敷の外を優雅に

舞っている。


魔導士院に何日も泊まり込む時も

何も言わずにいなくなるが、

帰ってくる時も相変わらず

何の予告もなしに

突然戻ってくるお方だ。


まあ今回は坊ちゃまが希望された

星の砂がご本家から届いているので

近いうちに戻られるだろうとは

思っていたが・・・。


やがて馬車が玄関前に停まる音が

して、ユリウス様の声が聞こえた。


おや、珍しい。ユリウス様を

伴われて戻られるのも久しぶりだ。




坊ちゃまは人間離れした魔力を持ち、

その思考力も独特なために

普通の人はその行動について行けない。


そのため昔から他人と話が合わずに

敬遠されることも多かったので

いつの間にか仕事以外では

人と関わる事を煩わしいと

思うようになったようだ。


だから、初めてユリウス様を

連れて来られた時は

坊ちゃまに対してあのように

ずけずけとした物言いをして

対等の立場に立つ気の置けない方を

ようやく見つけてこれたのかと

嬉しく思ったのを覚えている。


魔導士団の部下ではあるが

何を言われてもうるさそうな顔を

するものの決して遠ざけようとは

しないし、坊ちゃまにとって

ユリウス様は友人に近い位置付けの

方だとわたくしは勝手に思っている。


何より、一族の者以外は誰も人を

入れたことのない坊ちゃま個人の

大切なこの屋敷に連れてくること自体

ユリウス様は特別な方なのだろう。


これであとは良き伴侶でも

見つけてきてくれれば

何も言うことはないのだが・・・。


そう思いながら、お二人を

お迎えするために屋敷の扉を開くと、

そこには絶対にいるはずのない者が

いて、我が目を疑った。


2人の騎士と年若い侍女を伴った

身分のあるらしい1人の少女だ。


見るからに上質な、品の良いドレスに

身を包んで侍女と手を繋いでいる

その少女は、くりくりとした大きな瞳で

興味深そうにこちらを見ている。


色白で愛らしく整った顔立ちは

見る者全てがつい笑顔に

なってしまいそうな可愛らしさだ。


その大きな瞳は不思議な色合いで

吸い込まれるような美しさをしていて、

つい無意識に惹かれて見つめてしまう。


そしてそんな愛くるしい佇まいなのに、

それに相反して底の知れない

魔力も感じる。

一体この少女は何者なのか。


というか、坊ちゃまがユリウス様以外の

しかも少女とは言え女性をこの屋敷に

連れて来るのは初めてではないか⁉︎


事の重大さにハッと気付く。


多少年若く、年齢差はありそうだが

飛び抜けた愛くるしさに、

坊ちゃまに引けをとらない

底知れぬ魔力の持ち主。


これはもしかして、ようやくその

お眼鏡にかなう将来の伴侶が

見つかったのでこの屋敷に住む

わたくし達にも紹介しようと

連れて来られたのでは⁉︎


そうでなければただの客を

坊ちゃまの心臓部と言っても

過言ではない重要なこの場所に

連れて来るなどあり得ない。


ようやくご本家にも良い報告が

出来る。旦那様と奥方様が

泣いて喜ぶ姿が目に見えるようだ。


はやる気持ちを抑え、

努めて冷静に坊ちゃまに問う。


こちらのお嬢様はどなたなのか。

ここまで連れてくるということは

まさか・・・。


『将来をお約束された方ですか?』

そう聞こうとしたら、坊ちゃまに

愚問とばかりに遮られた。


『そんなに自分が客を連れて来るのが

意外なのか。そのまさかで』


やっぱり!みなまで聞かずとも

分かった。やはりこのお嬢様は

坊ちゃまが見初めて連れて来たのだ。


まずい。そんな大切なお方を

連れて来るとは思っていなかったので、

屋敷の中には坊ちゃまの作り出した

怪しいものが色々と放置されたままだ。


あんなモノを見せてせっかくの

未来の奥方様に逃げられるわけには

いかない。


慌てて扉を閉めると侍女達に

指示をして、怪しいあれこれは

全て見えないところに片付けさせた。


まさかの慶事に他の者達も

浮き足立っている。

無理もない。

ここで働いている者は皆、

ユールヴァルト一族出身の

優秀な魔導士だ。


一族の血を繋ぐことの大切さは

誰もが分かっているのだから。


多少性格は変わっているが坊ちゃまは

由緒正しい高名な魔導士一族、

ユールヴァルト家の直系長子にして

比類なき天賦の才能の持ち主。

加えてあの美貌。

その血を残さずしてどうするのだ。


だがそれも本人にその気がなければ

何も始まらない。

ご本家からの指示でいくら見合いを

させてもうまくいかなかったのに

まさか自ら女性を連れてくるなど、

一族にとって吉報以外の何物でもない。


今日は記念日だ。

すぐにでもご本家に手紙を出さねば。


まずは付き合い初めの馴れ初めでも

聞いてそこから報告しようかと、

いそいそとあの可愛らしい少女に

聞いてみれば、なんと付き合って

一年にも満たないというではないか。


そんな短期間であの気難しい

坊ちゃまの心を掴んで交際し、

この屋敷に来るまでに至ったと⁉︎


これはもう運命以外の何物でもない。

感激していると、そこで慌てたように

ユリウス様が割って入ってきた。


腕を引かれ、少女に聞こえないように

コソコソと話をされる。


あの少女は例の召喚された癒し子で、

今日は星の砂に対してその力を

使うためにここに来たのだという。


多分団長はさっき、癒し子を

連れて来たって言いかけたのに

セディさんが勝手に勘違いしたんすよ!

と言うではないか。


ユーリ様はリオン殿下の寵愛を

受けているので滅多な事を言ったり

やったりしないようにとまで

釘を刺されてしまった。


そんな・・・。


「将来の奥方様ではない・・・?」


あまりにも落胆して思わず声が

大きくなってしまい、癒し子である

ユーリ様にもそれが聞こえて

しまったらしい。苦笑いをされた。


それでもユーリ様はなんとあの

坊ちゃまのことを尊敬している、

良い魔法の師だと言ってくれた。


なんと良い方なのだろう。


そもそも、あの坊ちゃまの事を

尊敬しているなどと言うなんて

まだ年端もいかぬ、いたいけな

少女なのに人間が出来過ぎている。


そういえば100年前のあの勇者様も、

こちらの世界に来たばかりの頃に

我がユールヴァルト家に魔法の

手ほどきを受けた事がきっかけで、


当時のユールヴァルト家の

跡継ぎであり高名な魔法剣士の

キリウ・ユールヴァルトと

親しくなり生涯の友となった。


となれば、今代の召喚者である

ユーリ様だとて坊ちゃまから

魔法の指導を受けるうちに

親しくなり、そのうち良い仲に

なる可能性だってあるではないか。


そうだ、昔からわたくしが愛読している

勇者様の金言録にもあった。


あれは確か魔物の群れに四方を

囲まれた時に勇者様の言った名言で、

わたくしの最も好きな言葉だ。


諦めたらそこで試合終了ですよ、だ。


せっかくここまで坊ちゃまが

連れてくるような方なのだ。


この先どうなるかなど、

誰にも分からない。


王家の寵愛を受けていようが

癒し子様は王家のものではない。

諦めてはいけない。


我がユールヴァルト一族と

召喚者の間には100年前からの

縁があるのだ。


なんとかしてユーリ様には

坊ちゃまのことを意識して貰わねば。


そう思っていたらチャンスは

すぐにやってきた。


なんとユーリ様、坊ちゃまから

アクセサリーをプレゼントされて

いたのだ。


しかも坊ちゃま自らが切り出した

結界石を使った魔除けだと言う。


見せてもらうと、今までに見た事のない

素晴らしく丁寧な作りの魔除けだった。


丸い鈴のように加工されたそれは

どの角度から見ても内包する

光の粒子が美しく輝いている。


中に循環している坊ちゃまの魔力も

素晴らしく美しい虹色の流れを描き、

ずっと見ていても飽きない。


国王陛下に献上されても

おかしくない品質の逸品だ。


これこそまさに、坊ちゃまが

ユーリ様に対して何かしら

思うところがあるからこそ

作る事の出来たシロモノではないか。


となれば、ぜひともそれを

ユーリ様にアピールしなければ。


そう思って、魔導士が自分の恋人に

アクセサリーをプレゼントする意味を

ユーリ様に伝えたら、

なぜかユリウス様が大慌てで

それを否定してきた。


なぜ邪魔をする⁉︎

殿下への不敬が怖くて

この先二度と現れるかどうか

分からない坊ちゃまの

未来の伴侶を逃してなるものか。


殿下がそれほどユーリ様にご執心だと

言うのなら仕方がない。


現在の北の辺境守護伯である

女公爵も2人の夫を持っているのだ、

坊ちゃまを第一夫君にして

殿下が第二夫君でも構わない。


癒し子様だとて複数の夫を持っても

いいはずだ。


・・・まあ、わたくしとしては

坊ちゃまとだけ一緒になって

いただくのが理想ではある。


とにかく、諦めたらそこで試合は

終了なのだ。


勇者様は素晴らしい事をおっしゃった。


勇者様の金言を胸に、わたくしは

坊ちゃまとユーリ様お二人の

行く末を見守ろうと心に決めた。


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