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シグウェルさんと一緒 2

誤字・脱字報告に感謝いたします!

これからもご指摘よろしくお願いいたします。

馬車は軽快な音を立てて王都の

中を走っている。


私はワクワクしながら窓の外を眺めた。


シグウェルさんが書類を送ってから

少しして、リオン様からの返事が

あった。


奥の院から一緒に来てくれている

騎士やマリーさん、それから

ユリウスさんを必ず連れて行くこと。


なるべく寄り道をせずに帰ること。


シグウェルさんは今日の結果について

必ず報告書を提出すること。


これらを守ることを条件に、

シグウェルさんの館を訪れて

星の砂へ加護をつけてもいいと

許可が出た。


リオン様からの返事が来るまでの間に

なんとか残りの瓶やら水差しやらに

加護を付けて、お昼ご飯も魔導士院で

ご馳走になった後こうして今、

馬車で移動している。


馬車は貴族の邸宅が並ぶ、貴族街と

言われる地域を抜けて一般の人達が

住むという一般市民街という区域に

差し掛かっていた。


「あれ?シグウェルさんて

貴族じゃないんですか?

市民街に入っちゃいますね」


マリーさんの方へ振り返ると


「魔導士団長様の邸宅は諸事情から

貴族街の外れにあると聞いたことが

ありますけど・・・」


そう言われて慌てて窓の外を見たら、

馬車は市民街の中まで入らずに貴族街の

端の方へ迂回していた。


えっ、せっかく街中を見られると

思ったのにどんどん街から離れて

行くみたいだよ⁉︎


気付くと馬車は周りに全然家がない、

緑の中に一軒だけ大きく建っている

館の前に停まっていた。


あれ・・・なんか思ってたのと違う。

なんだか軽井沢とかの別荘地みたいな

静かな場所だ。


マリーさんと手を繋いで馬車を降りると

シグウェルさんとユリウスさんが

待っていてくれた。


「ようこそユーリ様、ここが団長の

王都での邸宅っす!色々危ないんで、

俺の後ろを外れないようにちゃんと

ついて来て下さいね!

まあ俺がついてれば大概のことは

大丈夫だと思うんすけど。」


色々危ないって何。

後ろを外れないようにって、私は

今から地雷原でも歩かされるのかな?


ユリウスさんの言葉の端々に

聞き捨てならない単語が混ざっている。


同行してくれた2人の騎士さんも、

周りを油断なく警戒している。

なんで剣の柄に手をかけてるんだろう。

そんなに用心するものがここには何か

あるとでも言うんだろうか。


「ユリウスさん、なんだか物騒な

こと言ってますけどここ、普通に

貴族の人のお屋敷なんですよね・・?」


「・・・え?えーと、なんて言うか

正確にはここ、団長個人の屋敷で

ユールヴァルト家の王都での邸宅は

また別に貴族街にあるっす。なので、

ここに住んでるのは団長だけです。」


普通のお屋敷か聞いたら

変な間があったよ!

怪しい・・・。


ちょっと用心し出した私に気付かず、

シグウェルさんはすたすた歩き出す。


「住んでいると言っても、オレも

普段は魔導士院に泊まり込むことが

多いから、実際にはここは屋敷の

管理をまかせている使用人らだけが

住んでいるようなものだが」


ほら、と目で促された先ではちょうど

大きな扉が開いて中から初老の

人の良さそうな男の人が顔を出した。


「おかえりなさいませ、坊っちゃま。

ユリウス様もお久しぶりでございます。

ご本家からお届けのあった、

例の砂の件ですね」


そう言ったその人はユリウスさんに

丁寧なお辞儀をした後に、

マリーさんと手を繋いで立っている

私に目を留めて動きが止まった。


まばたきもしないで、

めちゃくちゃ見つめてきている。


とりあえずお辞儀をしてみた。

そしたら、ハッとしたようにその人は

シグウェルさんに恐る恐る声をかけた。


「ぼ、坊ちゃま・・・こちらの

お嬢様は一体どなたで・・・?

こちらまでお連れになると言うことは

まさか」


「なんだ、オレが客を連れて来るのが

そんなに意外か。まあ、そのまさかで」

「失礼いたします」


何を驚いているのかと、

シグウェルさんがいぶかしげに

答えている途中でなぜかその人は

バタンと扉を閉めてしまった。


「ええ?」


目の前で締め出された。

びっくりしてマリーさんと顔を

見合わせていたら、中から大変だ、とか

早く片付けろ、とかそれは隠せ、とか

怪しい単語が聞こえてきた。


「団長、もしかしてセディさんに

ユーリ様を連れて来ること

言ってなかったんですか?」


ユリウスさんが呆れている。


「客の1人や2人、増えたところで

どうということもないだろう。

それに対応できないような奴でもない」


でもお屋敷の中、今ものすごく

バタついてない?

屋敷の主人なのにシグウェルさん、

締め出されちゃってるよ・・・。


ややあって、うっすら汗をかいた

セディさんというその人が

笑顔で扉を開けてくれた。


「お待たせしました。わたくし、

この館の管理を任せられています

セドリックと申します、どうぞ

セディとお呼びください。」


どうぞ、と促されて中に入ると

両側に侍女さんや侍従さんらが

20人ほど並んで出迎えてくれた。


みんなニコニコしてこちらを見ている。


「まさかこのような日が来るとは

思いもしておりませんでした。

ユリウス様以外の方をこちらに

お連れになるのも初めてですのに、

それがこんなに可愛らしい

お嬢様だなんて。」


その時黒い小さな影がこちらに

向かってくるのが見えたんだけど、

並んでいた侍女さんの1人が

後ろ足でガンと蹴り飛ばして

影を霧散させたのが目に入った。


え⁉︎と思って侍女さんの顔をみたけど、

何もなかったかのように無言で

ニコニコしている。


な、何今の。ここ、なんかいる⁉︎


「さあさあ、坊ちゃまが初めて

お連れしたお客様ですからね、

皆失礼のないように。

今は薔薇の綺麗な時期ですから、

庭園にお茶の席を準備させましょうか」


「そんな暇はない、すぐに星の砂を

準備してくれ。温室に行く」


シグウェルさんの言葉に

セディさんが目を剥く。


「なっ!そんなにそっけなくして

嫌われたらどうするんですか‼︎

2度と来てくれなくなるとか

やめてくださいよ、今日は記念日です!

このことはきちんと本家の旦那様にも

お伝えいたしますから‼︎」


対応が完全に友達のいない子が

初めて家に友達を連れてきた時の

それだ。


そういえばユリウスさん、

初めて会った時にシグウェルさんは

友達も恋人もいない変わった人、

みたいな事言ってたけどあれは

大げさじゃなかったんだろうか。


「ユリウスさん、シグウェルさんて

本当に友達いないんですか」


気になったので失礼を承知で

こっそり聞いてしまった。


「俺の知る限りじゃ親しい人がいるとか

聞いたことないっすね~。

まあ女の人は立場上お付き合いしなきゃ

いけなくて付き合ってた人も

いたみたいですけど、ほら団長、

ちょっと変わってるから・・・

団長の見た目に惹かれても相手が

行動についてけなくてすぐダメに

なるパターンっす」


シグウェルさんの後に続いて歩きながら

そう教えてくれたユリウスさんに、

セディさんも頷いた。


「坊ちゃまがこの屋敷に魔導士以外の

お客様を個人的にお連れするのは

お嬢様が初めてでございます。

ちなみにお嬢様、坊ちゃまとの

お付き合いはいつ頃から・・・?」


感慨深そうにしみじみとそう言った

セディさんが期待に満ちた目で

私に聞いてきた。


いつ頃・・・って聞かれても、

そんなに期待されるほど

長い付き合いでもないから

申し訳ないなあ。


「えーと・・・半年くらい?

すみません、よく覚えていなけど

そんなに長い付き合いでは

ないです・・・」


そんな子どもが友達面して

シグウェルさんの個人的?なお屋敷に

突然来ちゃって良かったんだろうか。


でもそんな私の迷いをよそに、

セディさんの目が輝いた。


「なんと!一年にも満たない

お付き合いの中でここまで坊ちゃまと

親しくしていただけるとは

光栄の極みでございます!

いつもいつも厄介ごとしか起こさない

手のかかる坊ちゃまだと

思っておりましたが、こんなに

可愛らしいお嬢様の心を

掴んでいたとは見直さなければ

いけませんね・・・‼︎」


ん?誰が誰の心を掴んでるって?

話がおかしい。


そう思っていたら、ユリウスさんが

あっ!と声を上げた。


「セ、セディさん違うっす!

それ誤解‼︎ユーリ様は癒し子っす‼︎」


そのままセディさんを引き寄せて

2人でヒソヒソ話している。


「・・将来の奥方様ではない・・・⁉︎」


そんなセディさんの声が聞こえた。

そしてあからさまに落ち込んだ顔で

私に向き直った。


「・・・失礼いたしました。

わたくしとした事が、癒し子たる

召喚者様にとんだ勘違いを

いたしておりました。

どうか先ほどまでの無礼を

お許し下さい、ユーリ様。」


これはあれか、セディさんは

私とシグウェルさんが恋人同士だと

勘違いしたってことか。


付き合いの意味が違ったってことね。

でも私の見た目は女児だから、

まさかそんな勘違いをされるとは

思いもしなかった。


苦笑いをして気にしないで欲しいと

伝えた。


「シグウェルさんとはお付き合いして

ませんけど、尊敬してます!

私の魔法の良い先生です‼︎」


・・・ちょっとスパルタで距離感が

おかしいけど。

というのは言わなかったが、

話したことにウソはない。


シグウェルさん、話すことは結構

手厳しいけど間違ったことは

言ってないし案外適切な、

的を射た事を言うのだ。


それに私が子どもだとか癒し子だとかに

忖度(そんたく)しないできちんと向き合ってくれる。


リオン様もそうだけど、

そういう人は信用できると思うんだ。


シグウェルさんを尊敬してると

言った私にユリウスさんは

ぎょっとして、

セディさんは感激している。


「ユーリ様、そんな事言ったら

調子に乗った団長に足元見られて

またとんでもないこと

やらされるっすよ、滅多なことは

言わない方がいいっす‼︎

さっきまで何をやらされてたか

もう忘れたんすか⁉︎」


「何をおっしゃいます、ユリウス様!

あの坊ちゃまを尊敬しているなど、

そんなことを言うお方は初めてです‼︎

さすが癒し子様、やはり100年前から

我がユールヴァルト家と召喚者様の

間には、常人には計り知れない

目に見えない絆があるのですよ‼︎」


ユールヴァルト家のためにも

わたくし、頑張ります・・・‼︎

セディさんが謎の気合いを入れた。


周りでそのやり取りを見ていた

お屋敷の侍従さんや侍女さん達も

なぜか頷いている。


セディさんは一体何を頑張るって

いうんだろう?


期待に満ちた、暖かい目でこちらを

見てくるセディさん以下お屋敷の

人達を前に、意味が分からない私は

首を捻るばかりだった。

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