チャイルド・プレイ 14
いまいちリオン様達の信用に欠ける魔法薬をごくりと飲み干せば、それは幼児化した時と同じように甘くておいしい。
そしてそれを飲んだ私の目の端に、信じると言われて満足げなシグウェルさんの顔が見えた。
それからユリウスさんがさも残念そうに、
「ええー、俺もユーリ様がかわいいヒヨコの靴音を鳴らして歩くの見たかったっす!ヒヨコの髪型はないから、せめてもの代わりにってウサギの耳のカチューシャを持ってきてたんすよ?どうせならそれをつけるとこだけでも見たかったなあ・・・」
とどこからか取り出した黒いウサ耳カチューシャと私を見比べている様子も見えた。
危ない、猫耳だけでなくあんなものまであるなんて。アレを付けさせられたらまた絵師を呼べとか絵に残すとか騒がれるところだった。
するとシェラさんがそこで気付いたように
「ユーリ様、もし元に戻られるならそのドレスはかなりきつくなるはずですよ」
と言った。あ、確かに。シェラさんの言葉にシンシアさんとマリーさんがハッとしてすぐに私の寝室に走る。
そしてクローゼットから咄嗟に掴んだんだろう黒い薄手のゆったりめのドレスを持って来た。
「ユーリ様、とりあえずこちらに着替えましょう!」
シンシアさんとマリーさん二人がかりで早着替えのようにさっと黒いドレスに替えられた。
今の私にそのドレスは立った状態でも床に引きずるほどの長さだけど、細い肩紐が大きすぎて抜け落ちないようにとマリーさんが肩を抑えてくれている。
「マリーしゃん、これドレスじゃないよ⁉︎」
「仕方なかったんです、咄嗟に手にした一番近くにあったのがそれだったので!」
よく見たら夜着だ。どおりで薄手なはずだ。え?大丈夫だよね、確かこれ元の姿で着た時は膝下くらいの長さだったはず・・・。
そう思っていたら体が淡く輝いた。
「あっ‼︎」
これはもしかして元の姿に戻る兆候では。二分の一の確率で成功したんだ。やった!
そう喜んだ次の瞬間、強く眩しい光が部屋の中を満たしてその眩しさに私だけでなくみんなが目をつぶった。
やがていつものように瞼の裏に感じる光が弱まったのを感じて私は目を開ける。
ついさっきまで肩からずり落ちそうなほどブカブカだったドレス姿の私を男性陣の視線から守るように覆い被さってその視界を塞いでいてくれたマリーさんと私の目線の高さがほぼ同じだ。
「戻った・・・?」
成功した。
「すごい、シグウェルさんの魔法薬ちゃんと効きましたよ‼︎」
うん、シグウェルさんの名前もちゃんと言える。喜んで私を抱きしめてくれていたマリーさんの陰から顔を出してリオン様達を見た。
と、なぜかみんな食い入るように私を見つめている。ユリウスさんはその手からウサ耳カチューシャをぽろりと落とした。
え?まさか服が破けてるとか⁉︎
慌てて自分の体を見下ろしたけど服はちゃんと着ている。なんか胸の谷間が強調されていてきつい辺りがやっぱり夜着だけど。
てことはこの黒い夜着姿が爽やかな朝に似つかわしくないセクシーさだからダメなんだろうか。
そう思ってまたマリーさんの陰に隠れるようにすすす、と動いたらシェラさんに声を掛けられた。
「ユーリ様・・・?なんだか少し成長されているというか、いつものお姿よりも大人びておられるように見えますが・・・?」
「え?」
それってどういう意味なんだろう。そう思ったらシェラさんが、
「すみません、ちょっと抱きしめて確かめさせてください」
おかしな事を言うが早いか、スタスタ歩み寄るとそのままぎゅっと抱きしめられた。
しかもただ抱きしめているんじゃなくて、その手が何かを確かめるかのように私の背中やお尻の辺りをさっと撫で上げ、ウエストを両手できゅっと掴んだり自分の胸元へ私の胸をぎゅっと押し付けたりしている。
リオン様に続いてシェラさんまでセクハラだ。そう思って
「ちょ、ちょっとシェラさん⁉︎」
なぜかリオン様達はまだ呆気にとられたように私を見つめていてシェラさんを注意しないから、代わりに私が声を上げる。
すると
「やっぱり・・・」
私の頭の上に自分の顎を乗せながらシェラさんはそう呟いた。
「何がやっぱりなんです⁉︎ていうか、何してるんですか‼︎」
「ユーリ様、元のお姿よりも若干お歳を重ねておられます。いつもよりも鮮やかに匂い立ち滴るような、奮いつきたくなる色気を纏われておりますし、胸もお尻も豊かさを増しておられます。幾分か背も伸びられたようですよ。」
分かりますか?とドレスの膝丈を確かめるように促された。
そのまま視線を下に落として確かめれば、膝下ちょうどくらいだったはずの長さの夜着が膝上になっている。
「なっ・・・、なんで⁉︎」
「シグウェル殿の魔法薬が効きすぎたのでは?元の歳を飛び越えてもっと大人になられたようです。」
「じゃあ失敗ってことじゃないですか‼︎」
そう声を上げたら、一度顔を離して話していたシェラさんにもう一度抱きしめられた。
「でもこれはこれで良いと思いますよ。ユーリ様はこの先もこのようにまだ成長されるんですねぇ・・・。抱きしめて確かめた感覚では、今よりも胸が10センチ以上は大きくなってい」
「言わなくていいです!」
やたらと触りまくっていたのはそのせいか。そういえば目視だの触った感触だので人のスリーサイズが分かる人だった。
そして夜着の胸周りがきついと思ったのは気のせいじゃなくて実際胸が成長していたかららしい。
すると、そこでやっと私とシェラさんのやり取りを見ていたリオン様達が我に返った。
「え・・・ユーリってまだこんなに色っぽくなるの?」
「背が伸びてもまだまだ俺の肩にも届かないですね」
「今回は成長促進薬の効果の方が勝ったということか・・・。今度はどれくらい効果が続くんだ?」
人ごとだと思って、各々好き勝手なことを言っている。
すると
「ユーリ様!」
「はい⁉︎」
びっくりした。いつの間にかユリウスさんが私の近くに立っていて、「これを・・・」と言うとそっとあのウサ耳カチューシャを私の頭に被せてきた。
「おや・・・」
それを見たシェラさんが目を笑ませて色気を滲ませた。ユリウスさんもみるみる顔を赤くする。
「なっ、なんです⁉︎何するんですか⁉︎」
ちらっとリオン様達の方を見れば、さっきまで自分の魔法薬についてあれこれ思案していたシグウェルさんもまじまじと私を見つめているし、リオン様とレジナスさんもうっすらと顔を赤らめている。
「黒い下着姿にウサギの耳がめっちゃいやらしいっす‼︎色っぽさとあどけなさのコントラストが・・・絵師‼︎今すぐ絵師を呼んで来てこの姿を残しておかないと‼︎」
ユリウスさんが興奮のまま叫ぶように声を上げた。
「何言ってるんです⁉︎いやらしいって何ですか、こんなのすぐ取りますからね!」
ユリウスさんの言葉に私もつられて赤くなる。脳内には某テレビ番組の仮装大賞に登場するセクシーな黒のバニーガールが思い浮かんだ。もしかしてあんな感じ?
すぐに自分の頭上に手を伸ばせば、そこにシェラさんも自分の手を重ねて来た。
「いいじゃないですかユーリ様。せっかくですからその麗しいお姿を今しばらく堪能させて下さい」
「恥ずかしいからダメです!」
「その姿で恥じらわれるとより一層官能的ですねぇ」
なぜかうっとりされた。しかもちょっと離れたところでリオン様まで
「僕もせっかくだからもう少しだけその姿のユーリを見ていたいな」
と言ってレジナスさんもそれにこっそり頷いている。
ユリウスさんはまだ興奮していて、
「黒髪に黒いウサギの耳がピッタリっす!どうせなら猫耳の髪型みたいにもっと違和感がなければ最高なんすけど‼︎」
なんて言ったものだから、それを聞いたシグウェルさんが
「こんな風にか?」
とパチンと指を弾いた。すると自分の頭上でしゅるしゅるっと音がして、髪の毛が持ち上がり何かに巻きついているような感触がした。まさか。
嫌な予感に手を伸ばして確かめる。自分の髪の毛にあのウサ耳が絡み合い同化して、まるで本当に頭からウサギの耳が生えたみたいになっている。
「ウソでしょう⁉︎取れないです!」
ぐいー、と引っ張ってみてもウサ耳が頭から離れない。なにこの魔法。魔力の無駄遣いだ。
「最高っす‼︎」
またユリウスさんが叫んだ。
「君にかかっている成長促進薬の魔法の効果が切れるのに反応してその耳も取れるように魔力で固定した。そのウサギの耳が取れる頃が魔法の効果が切れるという目印になる。分かりやすいだろう?」
こう言う時だけなぜか丁寧な説明をシグウェルさんはする。
そして話を聞けば聞くほどやっぱり魔力の無駄遣いとしか思えない。
「魔法が切れるまでウサ耳のままとか、ヒヨコの声がする靴を履かせられるより悪いじゃないですか・・・!」
呆然としている私の後ろではシンシアさんとマリーさんがシェラさんと一緒になって
「ウサギさんの耳がついたらやっぱり尻尾も欲しいわね」
「いいですねそれ!せっかくですからまあるくてふわふわの、黒いウサギの尻尾がついた服も仕立てませんか⁉︎」
「おや、それでは早速オレが上等な黒ウサギの毛皮を仕入れてまいりましょう」
「お願いします!うわあ腕が鳴ります‼︎」
なんてヒソヒソ話をしている。
いやいや、よく考えて?人の頭にウサギの耳がくっついて離れないんだよ?怖くない?
だけど私以外の全員がなぜかウサ耳に肯定的だ。あのエル君ですら、
「皆さんがいいって言うならいいんじゃないですか。よくお似合いですよ。」
と反対しなかった。
そのせいで結局私の頭についたウサ耳は魔法が切れるまでそのままで、しかも幼児化している時に会ったレニ様に「また遊びに来てね!」と言ったせいで間の悪いことにその状態の時に
「ユーリがどうしてもって言うから来てやったぞ!」
と言ってレニ様までやって来た。そしてウサ耳姿の私を見たレニ様が
「ユーリにウサギの耳が生えてる‼︎」
とあの大声殿下譲りの大声で王宮に帰ってからも話したせいでそれを聞きつけたナジムート前陛下まで見にやって来たり騎士団の人達が一目見ようと奥の院に用もないのに無意味にやって来たりと散々な目に会う羽目になったのだった・・・。
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