チャイルド・プレイ 10
レニ様のいる庭園を後にしたリオン様は、途中で「ふーん・・・」と言って立ち止まると少し考え込んだ。そして、
「レジナスちょっとその胸元を開けてくれる?」
そう言うと有無を言わさず片手に私を抱いたままレジナスさんの胸元に手を掛けるとぐいぐいとその上着を開いた。
「リオン様⁉︎」
一体何をするのかとレジナスさんは戸惑っているけどそのまま上着を緩めたリオン様は、そこにぽっかりと開いた空間に私を入れるとその上着を元通りに整えた。
「これで良し」
いたくご満悦なリオン様はそう言ってレジナスさんの胸元をポンポンと叩いて満足げに頷いている。
私はレジナスさんの上着の中にすっぽりと収まり、懐から頭だけを出している状態だ。
「レジナス、ユーリを落っことさないように気を付けてね。うん、やっぱり可愛い。拾われた仔猫みたいだ。」
そう言ってリオン様は自分を見上げる私の頭を撫でている。
「なんでしゅかこれは⁉︎」
「馬車のある場所まで歩いて行く間に僕がユーリを抱いて歩いてると目立つでしょう?その状態ならレジナスは僕の後ろを歩いているからユーリに気付く人は少ないと思うよ。」
それに、と言うとリオン様は笑いを堪えるように続けた。
「そんな状態のレジナスを見て不思議に思ったとしても、誰もレジナスには事情を聞けないんじゃないかな?」
「リオン様」
完全に遊ばれている。レジナスさんの眉間に皺が寄って顔が怖くなった。
だけどリオン様はそんなレジナスさんを見るとますます面白そうに、
「そうそうレジナス。そうやって何も聞くな、って感じの厳しい顔をしててね。そうすればみんな見ないふりで通してくれると思うから。」
・・・大柄なレジナスさんが怖い顔で歩くその懐から、生首みたいに猫耳幼女が顔だけ出してるなんてものすごくアンバランスな絵面だ。
リオン様は面白がっているけど遊ばれているレジナスさんがちょっとかわいそうになったので、せめて目立たないようにとごそごそ動いて顔をレジナスさんの胸元へくっ付ける。
「ユーリ?何をしている?」
回れ右してリオン様に背を向けた私にレジナスさんは怪訝な顔をした。あれ、分からない?
「レジーしゃんのふくと私のかみのけ、色いっしょ!めだたないよ?」
懐から見上げて説明した。私の顔が真正面を向いているよりも後ろ頭を見せている方が、レジナスさんの黒い服装に私の黒髪が馴染んでまだ目立たないはずだ。
「ええ?それじゃ僕がユーリの顔を見られないじゃない。」
リオン様はそういうけど、そもそも人が靴を鳴らして歩く姿を見たがったりレジナスさんの懐から顔を出す私を面白がっていたりと、私で遊び過ぎだ。
「リオンしゃま、いじわる!わたし、レジーしゃんにくっついて寝るもん‼︎」
もう奥の院に行くまでレジナスさんにくっついたまま寝ちゃおう。どうせ幼児だ、きっとすぐに眠くなる。
もそもそとレジナスさんに向かい合わせた身を寄せて目を閉じた。
「おや、ご機嫌を損ねたかな」
「当たり前です」
目を瞑った私の頭上では笑いを堪えたようなリオン様とそれに呆れたようなレジナスさんが会話をしている。
「シンシア達へ頼んで、奥の院にこの大きさのユーリのためのドレスや食器を準備するように言ってあるからね、小さくても問題なく過ごせるはずだ。」
「一体いつまでこのままなんでしょうか?」
「今までの経験からすれば一日か二日じゃない?それまではこの大きさのユーリも思い切り可愛がってあげないと。とりあえず向こうに着いたらユーリの足を確かめよう。レニの話だとあそこに集まっていた子に意地悪をされて足を踏まれたらしいよ。」
「こんなに小さなユーリの足をですか⁉︎」
額を付けているレジナスさんの胸元にギュッと力が入って身構えたように硬くなり、懐に入っている私を抱える手にも力を込めたのを感じる。
「まったく、小さくてももう嫉妬心が芽生えているなんて女の子は怖いね。一応レニも牽制はしたみたいだけど、後で家門を確かめて金輪際レニやユーリに関わらないようにしておくよ。」
呆れたように話しているリオン様の声色が怖い。まさか王宮への出入りが制限されるとかないよね?どうかお手柔らかにして欲しい。
そう思いながら、
「リオンしゃま、わたし、足いたくないでしゅよ。あの子にいじわる、だめよ?ちゅういでいいの。」
あまり大げさな仕返しはしないで欲しいとお願いした。
すると二人の会話がピタリと止んでリオン様が私の頭をそっと撫でる感触がした。
「ユーリの前でする話じゃなかったね。この話はまた後で改めてしよう。さあユーリ、もう寝ようか。帰ったら今のユーリでも食べられそうなふわふわの柔らかいおやつを準備しておくからね。」
ふわふわのおやつ⁉︎それは楽しみだ。パンケーキだろうかドーナツだろうか、それとも蒸しパンだろうか。
「笑ってますよ」
想像して思わず顔がにやけたらしい私を見たのか、レジナスさんがリオン様に実況した。
「小さくてもユーリはユーリだね。どう?レジナス、小さいユーリを抱いた感想は。」
「小さ過ぎて押し潰しそうなのが怖いです」
「あはは、今のうちに慣れておいた方がいいよ。将来僕らやユーリの間に生まれる子供の面倒を見る練習だと思えばいい。」
その言葉にまたレジナスさんが固まった気がする。私もなんだか気恥ずかしくなって目を瞑る瞼にぎゅっと力が入った。
「何を言ってるんですかリオン様」
「ほらほら、要らない力が入ってる。それじゃユーリが苦しいよ?」
「はぁ・・・」
「ふふ、見てごらん。白い頬が柔らかくてまるで焼きたての白パンみたいだ。」
そんなリオン様の声と共に、レジナスさんに身を寄せている自分の頬をそっとつつかれた。
「リオン様、それではユーリが起きてしまいます」
「そうだね、あんまりにも可愛くてつい構いたくなってしまう。早く帰ってきちんとベッドに寝せてあげようか」
私の頬に触れていた指先が離れて、リオン様が歩き出した気配がする。
少し遅れてゆっくりと歩き出したレジナスさんの手は懐の中の私をしっかりと抱えていて、「温かいな」と呟いたのが聞こえた。




