チャイルド・プレイ 3
「さてどれを着ていただきましょうかねぇ。ユーリ様のお好きな緑色も、いつもより明るめの子どもらしい色合いの物をお持ちしましたよ。それにはつらつとした元気さと明るさが漂う黄色のドレスもいいですし、逆に少し大人びて見える薄紫色も似合いそうですし・・・」
シェラさんの言葉と共に、用途がよく分からない怪しげな魔道具や書類が部屋のあちこちに散らばる団長室に不似合いな、キラキラした子供服が何着も並べられていく。
確かにどれもかわいい。リボンやフリルがたくさん付いている上に、子ども向けには分不相応なほどたくさんの宝石がブローチやボタンにあしらわれている。
今まで着たことのあるどんなドレスよりも可愛らしくて、ロリータ風味だ。
そして服の前にはその色に合わせた靴やケープまでそのドレスの数と同じだけ並べられていて、こちらにも宝石が付いていたりしてキラキラしている。
・・・私が小さくなってから一時間も経っていないのに、どう見てもお下がりでもお古でもない新品の靴とドレス達は一体どこからやって来たのか。
まさか買った?シェラさんならあり得る。
「シェラしゃん、お金、むだ遣いはだめよ?」
無駄遣いをするなと注意をしたけどそう叱られることさえ嬉しそうにシェラさんはにこにこしている。
「ユーリ様に使うお金に無駄などありませんよ。むしろもっと使いたいくらいです。」
と、そこでシグウェルさんが
「おい、この服はどうだ?」
と一着のドレスを手にしている。一体いつの間に。
それを見たユリウスさんが、
「なんか見たことあるようなドレスっすね?」
と首を傾げた。
見ればそれは華やかなピンク色で、アンダースカートにはたっぷりのフリルがあしらわれていてふんわりと膨らんでいる。
女児にはぴったりの可愛らしい色味のドレスだけどその腰を締めるリボンは黒くて後ろに少し長くたなびいていた。
靴もピンク色で、黒いリボンがワンポイントについていてその真ん中には赤い宝石が嵌っている。
「ああ、それを選ばれましたか。ではそのドレスに合わせて髪型も作りましょうね。さあユーリ様、隣の部屋でさっそく着替えて髪も整えましょう」
そう言ったシェラさんに有無を言わさず抱き上げられると隣室に連れ込まれ、着ていた物をさっさと脱がされ着替えさせられる。
いくら簡易的な服を着ていたとはいえ、その鮮やかな手捌きにこちらは恥ずかしがる暇もない。
そうして私をかわいいピンク色のドレスに着替えさせたシェラさんはそのまま私の髪型も整え始めた。
こちらも鼻歌混じりであっという間に整えられて、
「大変可愛らしいですよユーリ様。さあ、シグウェル殿とユリウスにも見てもらいましょうね。」
と満足げに頷かれてまた抱き上げられたけど嫌な予感がする。
鏡がないので確かめられないけど、私の頭の両サイドをいじっていたしまさか・・・。
そして「どうですか、ユーリ様のこの可愛らしさは」とシェラさんに抱かれたまま再び団長室へと行けば私を見たユリウスさんが、あっと声を上げた。
「やっぱりそうだ!どっかで見たことあると思ったらノイエ領の時の猫耳ユーリ様じゃないすか‼︎」
ピンク色のドレスに腰の後ろに猫の尻尾のようにたなびく締め色の黒いリボン、そして嫌な予感がしたと思ったらやっぱり猫耳にされていたなんて・・・。
なるほどそれはノイエ領に着いた時の私の姿の再現だ。
「な、なんで・・・」
うまく言葉が出てこなくて口をぱくぱくさせながらシェラさんを見れば、
「初めての視察でノイエ領を訪れた時のユーリ様の愛らしさは噂に聞いております。絵師の描いた姿絵でもそのお姿は見ましたが、やはりいつか実物をこの目で見たいと思っていたもので。幸いにもシグウェル殿もその時のユーリ様をイメージしたドレスを選ばれましたので丁度良かったです。」
そう言いながら私を椅子にそっと降ろした。そして呆気に取られている私に、
「これも付けると完璧です」
と白いレースのフリルに細く黒いベルベットのリボンで飾られたヘッドドレスも装着すると、その姿を持参していたらしい手鏡で見せてくれた。
鏡の中には猫耳ヘアにヘッドドレスを付けたピンク色の可愛いドレス姿の幼児が映っている。
ゴシックロリータの幼児版みたいなその姿は確かにかわいいけども。いや、でもちょっと待って。
「ノイエりょー、ねこみみの絵、ありましゅか⁉︎」
いつの間にあの恥ずかしい姿を絵に残されていたんだろう。まさかユリウスさんが⁉︎
そう思って、
「ユリ‼︎」
ユリウスさんをキッと見やれば、当の本人は
「いや・・・えっ?何なんスかこれ、めっちゃ可愛い‼︎黒猫の仔猫感があの時よりももっと増してるっす‼︎絵師、やっぱり絵師がいるっすよ団長‼︎」
シグウェルさんに掴みかからんばかりの勢いで私の話は全然聞こえてなさそうだった。
「もー‼︎」
抗議の意味を込めてばんばん、と両手で強く机を叩くけど全然音がしない。元から非力なのに幼児の力はもっと非力だ。
「おやなんて可愛らしい癇癪を起こされるんでしょう。でもいけませんよ、その可愛らしい手を痛めてしまいます。」
そう言ったシェラさんは私の両手を取ると色気たっぷりの優雅な仕草でその手の甲に口付けた。
幼児の手に口付けるだけでもサマになるとか顔のいい人はすごいな、とある意味感心していれば
「絵面が怪しいっす‼︎幼児好きな変態趣味の男が幼女をかどわかそうとしてるようにしか見えないっす‼︎」
とユリウスさんは叫んだけどシェラさんに冷たく見つめられてエル君の後ろに隠れた。怖いなら余計な事を言わなきゃいいのに・・・。
そしてそのシェラさんはそうだ、と言うと私のピンクの靴を指差してシグウェルさんに
「この靴に魔法をかけてもらえませんか?歩くと音がするようにしていただきたいのです。」
とお願いしている。え?何それ。きょとんとして靴とシェラさんを交互に見つめれば、
「これから騎士団に立ち寄る用事がありまして。結婚式の警備の件でレジナスと打ち合わせがあるんですが、待ち合わせの時間をもう過ぎていますので申し訳ありませんがユーリ様もご同行願えますか?」
と言っている。待ち合わせ時間を過ぎてる?それって遅刻だよね。全然慌てた様子はないけど、待たされてまた眉間に皺が寄っているレジナスさんの顔が容易に想像できる。
「ちこく、めっ!よ、シェラしゃん!」
私の方が慌てていれば、そんな私の靴に手を触れたシグウェルさんの指先がぽうっと光る。
「なるほど、騎士団での迷子防止か。・・・いいぞユーリ、ちょっと歩いてみろ」
そう言われて椅子から降ろされ、二、三歩歩いてみればリンリンと軽やかな鈴の音が足元からする。
これはあれだ、よく幼児が履いている歩くとピコピコ音がする靴と同じやつ。屈辱だ。
「わたし、こんなのはくほど子どもじゃない!」
真っ赤になって二人を見上げて訴えたけど
「どこからどう見ても幼児だぞ」
「こんなに愛らしいユーリ様はずっと眺めていられますね」
とまるで取り合ってもらえないのだった。




